『M-1グランプリ』漫才頂上決戦を彩ってきた歴代事件簿【2005-2007】
#M-1グランプリ
■2005年 第5回大会
18年たった今でも「伝説の大会」と呼ぶ漫才師がいる第5回大会。その漫才師とは、優勝したブラックマヨネーズ・吉田敬である。笑い飯は第3回に続いて2回目の「3-4」での準優勝。1人でも審査員が転じていれば笑い飯の『M-1』キャリアが終わっていたかもしれないと思うと、よかったのか悪かったのか。
・今でも「理想」と呼ばれますよね
これは本当に、今でもこのときのブラックマヨネーズのネタを「理想の漫才」と語る芸人・関係者は多い。前年までも準決勝には顔を出していたブラマヨだが、この年はネタの作り方を大幅に変更。吉田が1人で書いていたのを、2人で会話しながら作るようになったといい、春先には完成したこのスタイルを観客に慣れさせないために『M-1』本番まで隠していたという逸話は、あまりにも有名。
・全国区の売れっ子が初登場
すでに全国にその名が知れ渡っていた品川庄司がラストイヤーにして初のファイナル進出。その思いが伝わる大熱演にほだされた審査員・島田洋七は「番組が盛り上がる」と絶賛し、85点だった紳助も「稽古量が伝わってきて感動しました」とコメントしている。そのコメントを聞く品川の顔が、いかにも品川っぽくてたまらない。
・「お……も……しろいですねえ」
第1回以来のファイナルとなったチュートリアルがスタイルの完成を見る。その第1回では50点を付けた松本がブラマヨと同じ95点を入れ、「お……も……しろいですねえ」という全国民憧れのコメントを発することになる。
・笑い飯の「マリリン・モンロー」も
圧巻のブラマヨに最終決戦で「3-4」まで迫った笑い飯の「マリリン・モンロー」も、今でも語り継がれる名作のひとつ。「一生懸命やったらマリリン・モンローになる」らしいです。はい。
・会場が派手になった
第1回はレモンスタジオ(TMC)、それ以降は有明スタジオで行われてきた大会が、初めてテレビ朝日本社での生放送に。それに伴い、「暗い」「渋いバーみたい」と悪評だったスタジオも金ピカのセットに刷新された。一気にメジャー感あふれる大会となった『M-1』の最初の王者が関東ではまったく無名のブラックマヨネーズだったことも『M-1』らしさを象徴しているといえそうだ。
■2006年 第6回大会
前年大会で「お……も……しろいですねえ」という神の啓示を受けたチュートリアルが文句なしの完全優勝。ファーストステージで審査員全員が1位、最終決戦でも「7-0」と、この年のチュートリアルは、まさに神がかっていた。
・後藤、ドヤ顔をする
03年に優勝し、二度目の覇権を狙ったフットボールアワーが2番手に登場。640点の高得点を叩き出したが、審査コメントで松本に「あのねぇ、後藤くんねぇ、ツッコんだ後にドヤ顔で僕を見るの、やめてもらえるかな」と指摘され、赤面。以降「ドヤ顔ツッコミ」は後藤の代名詞となっていく。それこそ、こういうワードセンスこそ松ちゃんの真骨頂ですよね。
・オタク漫才というジャンル
敗者復活で上がってきたライセンスが、ネタの一部ではあったものの、いわゆるオタク口調でしゃべる「オタク漫才」を披露。この数年後から若手の間で爆発的に流行するスタイルだが、おそらく全国区でこの口調を漫才に取り入れたのはライセンスが初めてではなかったか。
・史上もっともトップバッターが合わない
2度目のファイナルだったPOISON GIRL BANDが不運にもトップバッターを引いてしまい、最下位に。吉田大吾が「スパッツみたいなズボンをはきたくない」と言いながら股間をまさぐっているシーンで、不運にも生稲晃子の笑顔が抜かれてしまう一幕もあった。
■2007年 第7回大会
史上初めて、最終決戦の投票が3組に割れた大会。トータルテンボス2票、キングコング1票、そして4票を集めたサンドウィッチマンがシンデレラストーリーを見せつけた。
・キングコングって、やっぱすごい
第1回大会以来、7年ぶりの登場となったキングコング。すでに『はねるのトびら』(フジテレビ系)で全国的なブレークを経験し、『M-1』挑戦には失うものの方が大きかったはずだが、仕上がり倒したネタで650点を獲得。敗者復活のサンドウィッチマンに抜かれたが、その点差はわずか1点だった。いろいろ言われるけど、なんだかんだ漫才が上手いんだよなぁ2人とも。
・施工主のバカ!
3度目のファイナルとなったトータルテンボスも、ラストイヤーを迎えて徹底的に仕上げてきた。『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)で無双し、この年は『M-1』優勝を狙って獲りにいったと公言している2人は、ファーストステージで勝負ネタ「旅館」を披露し、646点を獲得。「ボイラー室の場所」「施工主のバカ」など印象的なワードを散りばめた名作だった。なんだかんだ漫才が上手いんだよなぁ2人とも。
・ドラマとキャラクターがすべてを覆す
というわけで、ハイスキル、ハイテンポな2組が待つスタジオ。しかもキングコングはテレビスターだし、トータルテンボスは静岡出身なのに渋谷系とかいわれてるし、要するにスタイリッシュでスマートな漫才師が勝つ流れになっていたのが07年。この2組と3番手のハリセンボンの差は38点も離れており、ラストに登場する敗者復活の漫才師がコケればスタイリッシュ&スマート対決になっていたことになる。
そこに現れたのだ、あのサンドウィッチマンが。
今でこそ人柄もよく知られ、国民的なタレントとなった2人だが、当時は本当に誰も知らなかった。当然、伊達みきおもヤバいが、髪の毛ボサボサの富澤たけしもなかなかにヤバい。スタイリッシュ漫才フェスに紛れ込んだヤカラである。
「いちばん興奮するのは、急いでるときにされる街頭アンケート」
伊達のネタ振りはまったく意味がわからないが、すでに観客は受け入れ態勢だった。
キングコングやトータルテンボスに比べて、どう考えても報われてなさそうなキャラクターのサンドウィッチマンに、誰もがドラマを求めた。「おもしろいだけじゃ勝てない」初めて、そう思った『M-1』だった。
(文=新越谷ノリヲ/【2008-2010】へ続く)
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