“余命半年”の叶井俊太郎、プロインタビュアー・吉田豪による最後のロングインタビュー!
映画『日本以外全部沈没』『ムカデ人間』などを手掛けた映画宣伝プロデューサーの叶井俊太郎。小社に所属し数々の”問題作“を配給・宣伝してきたが、すい臓がんを患い、昨年6月には余命半年と宣告されている。
叶井が旧知の友人15人と語り合った人生観は、対談集『エンドロール!末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(小社刊、発売中)に収録され、大きな話題となった。
今回、その15人には入らなかったものの“そこそこ深く長い付き合い”だったプロインタビュアー・吉田豪氏との対談が実現。吉田氏による、最初で最後のロングインタビューをお届けする。(収録日:2023年10月19日)
――叶井さん、久しぶりに会いましたけどさすがに痩せましたね。
叶井 でも、がんで痩せたわけじゃないから。がんがデカくなって、内臓を圧迫してて飯が食えなくなっちゃったの、吐いちゃうから。胃を半分切って食道と小腸直結したときの手術で20キロ以上痩せて、いまもう30キロ近く痩せてるんじゃない? けっこうヤバいよ、末期がん。
――だから、こんなに断りづらい仕事もないですよ。
叶井 ないよな、末期がん患者との仕事は(笑)。末期がんってけっこうパワーワードで、仕事がうまいくいくんだよ。
――いままでオファーを断ってた人たちも逃げられなくなる(笑)。
叶井 逃げられなくなる。「え、俺これで死んじゃうかもしれないんだけど」って言ったら、「最後か……やるよ」って言うよね、当然。映画館も俺の手掛けてる映画なんか上映したくないのに、「しょうがないよね……やるしかないよね」って。「じゃあやって!」って、めちゃくちゃなんでもうまくいくよ。
――この手が使える期間をどれくらい引き延ばせるかですよね。
叶井 去年からずっと使ってっからね(笑)。まだ最後最後って言ってるから。昨日も東スポに載ってさ。
――末期がんの叶井さんが対談集を出すって記事がバズってましたね。
叶井 それが総合ランキングで1位になってんの! 昨日、俺が別でやってる東映の映画も告知解禁したわけよ。そっちはランク外だったから、さっきも東映から電話あって「叶井さん、自分のパブが1位じゃないですか! そこにひと言タイトルぐらい入れてくださいよ」って言うんだけど、「入れらんねえよ、俺の本だから」って。
――本はボクも予約済です。
叶井 あ、ホント? 素晴らしいね!
――でもある意味、肩透かしだったというか。ずっと呑気だった叶井さんでもさすがにこうなったら多少はいろんなことを考えるようになるのかな、みたいなものを読者に求められてたと思うんですけど。
叶井 いないだろ、そんな人。いるか?
――だからちょっとビックリしたんですよ。相変わらずで。
叶井 軽いよね(笑)。でも、あれ人選けっこうおもしろいよね。
――それこそ末期がんじゃないと集められないメンバーでした。
叶井 そうそう、鈴木(敏夫)さんだって末期がんだからやってくれたからね。あの人の話もおもしろいよね。徳間書店の徳間康快さんががんになってサルの脳みそ食わせたら治ったとか、自分も20代で死にかけて髪の毛が真っ白になったとか、ホントかよって話ばっかりだった。
――麻酔しないで手術したとか言ってましたね。
叶井 絶対に嘘じゃんあんなの! 麻酔なしで腹を切るとかさ。
――やっぱりジブリというより『アサヒ芸能』(徳間書店)の人だと思いました。
叶井 『アサ芸』の編集者だったからね。あれはおもしろいなと思った、まじめに語ってたから。
――Kダブ(シャイン)さんとの関係もこれで初めて知りました。
叶井 だって中学からの友達だからね。
――Kダブさんが渋谷のドンになる前に渋谷のディスコで一緒に遊んでたっていう。
叶井 遊んでた。だって俺もKダブって知らずに仕事を発注したりしてたからね。
――ヒップホップ映画の仕事でよく知らないままオファーして、そこの呑気さもさすがなんですよね。
叶井 そうそうそう、「各務貢太、おまえがKダブなのか!」って、あれが社会人になって一番衝撃を受けたね。Kダブとの対談は忘れてたことをいっぱい思い返されておもしろかった。80年代から90年代頭ぐらいの東京の片隅でこんなことがあったっていうのはなかなかおもしろいんじゃないですか? カルチャー的には。ひどい中学生ですよ。あれ、もう読んだの?
――もちろん! だから、さっきも言ったようにちょっとビックリしたんですよ。もともと、いろんな迷惑かけた人たちに謝罪していくみたいな企画だったはずが、謝罪するほどの何かもないし。
叶井 ないねえ。
――で、こういうことになって何か深い人生観的なものが出てくるかと思ったらそれもないし。
叶井 ないですねえ。だから不思議な対談だよ。あなたも対談ばっかしてるからわかるだろうけど、あれ対談になってないよね。昔から知ってる人がゲストっていうのもあるし、俺も会ってみてぜんぜん覚えてない話が多かったから。
――叶井さんが基本、何も覚えてないんですよね。
叶井 覚えてないですね。だからあれはおもしろかったね。
――叶井さんはボクともけっこう仕事してきたと思うんですけど。
叶井 けっこう昔から知ってるもんね。
――最初に何で会ったか叶井さんは覚えてないと思うんですよ。
叶井 俺たぶん吉田豪とは30年ぐらい経つよね。吉田豪も一応候補には入ってたんだけど。
――そんなガッツリした関係性がないですからね。
叶井 そうそう、ガッツリした個人的なつき合いがなかったんで今回はなかったけど。でも30年ぐらい知ってるよね。なんで会ったんだっけ?
――覚えてないと思いますけど、ボク『八仙飯店之人肉饅頭』の集まりがあったんですよ、銀座かどっかで。映画関係の知り合いに呼ばれて行ってるんですよ。
叶井 『人肉饅頭』の集まり?
――『人肉饅頭』をやった人を紹介する的な感じで、ボクがいた編プロの映画関係の人に呼ばれて。たぶんそのときにいたのが叶井さんで、名刺交換ぐらいはその時点でしてるんですよ。
叶井 ホント? へぇ~っ、ぜんぜん記憶ないわ。あれ92~93年だよ。もう30年前だね、すごいね。
――ちゃんと話したのはそのあとの編プロ関係者の結婚式か何かで、叶井さんの最初の奥さんを知ってる、みたいな話で盛り上がった記憶があって。
叶井 『宝島』の人?
――そう。ボクが編プロで『宝島』に出入りしてて、接点はなかったんですけど、かわいい子がいるなと思ってたら、それが後に叶井さんと結婚して一瞬で離婚してたことを知ったり。
叶井 ああ、なるほどね。
――そこから叶井さんが手掛ける映画関係のトークイベントに何回か呼ばれるようになったり、『いかレスラー』に出演したりとか。
叶井 いろいろ映画も出たもんね。
――『日本以外全部沈没』のパンフで原稿を書いたり、それなりに接点はあったはずなんですけど、叶井さんは確実に覚えてないはずなんですよ。
叶井 そうね(あっさりと)。でも、電話とかたまにしてるんだよ、「あれどう?」とかさ。でも、いろんなことやってたから覚えてないよね。
――今回の本を読んでたら、叶井さんがハワイでラジオをやってたときの上司がスティーヴ・フォックスだったのも初めて知りました。
叶井 ゴダイゴだからね。
――スティーヴ・フォックスってたいへんな人ですよ!
叶井 どんな人なの?
――自伝が出てるんですけど、薬物と宗教の話だらけですよ。
叶井 え!?
――薬物やってカルト教団でバンドをやってたら友人が殺されて、そこから脱出してゴダイゴ結成、みたいな。
叶井 え、そういう人なの? へぇ~っ、いま何やってんだろうね?
――昔、タケカワユキヒデさんの取材したときに「スティーヴ・フォックスの本が最高でした!」って言ったら微妙な顔されたのが印象的でしたね(笑)。ハワイではふつうだったんですか?
叶井 ヒッピーみたいだったよ。ハワイにいる白人でそういう傾向の人ってロン毛で上半身裸でボロボロの恰好して、みたいな人が多かったから、そんな雰囲気だったよ。こんな人が上司なんだと思って。そしたら元ゴダイゴの人だよって言われて、マジで!? ってなるよね。もうクビになってるんじゃないですか?
「くらたまさんのあとがきで、叶井さん頭おかしいと思った」
――現在こういう状況になって、あのときこうしときゃよかったなー、みたいなのとか多少反省することとか出てきたりするんですか?
叶井 ないでしょ(あっさりと)。何度も言ってるけど、ホントに未練なくてさ。まったく後悔もないし、やり残したこともないのよ、ホントに。
――女性トラブルや金銭面も含めて、たいへんな思いをしてきた人のはずなのに。
叶井 まっっったくないね。余命半年って言われてあらーっと思ったけど、来年の映画を観られないなー、いま読んでる漫画の続きどうなっちゃうんだよ、ぐらいの感じ。自分のこととか嫁のこととか娘のことも一切ないね。娘の成長を見届けたいから頑張って生きたいんだ! とかさ、そんな気持ちになると思ったけどならない自分を客観的に見ていられる。
――くらたまさんが描いてきた叶井さん像がホントだったんだなっていう感じなんですよ。
叶井 あ、ホント? どんな像だったの?
――ひたすら呑気で深いことを考えない。
叶井 考えないねー。
――『ダメになってもだいじょうぶ 』(幻冬舎)本で興味深かったのが、くらたまさんは男とつき合うとき、無人島に流れ着いたときのことを想像する、と。そして、結婚するまでは無人島に流れ着いたときになんとかしてくれる人がいいと思ってたけど、叶井さんは「なんとかなるでしょ」と昼寝を始めるタイプっていう。それを聞いた叶井さんが「たしかにトラブル解決能力はゼロだけどストレスにはめっぽう強い、どんなに切羽詰まっても笑っていられる自信はあるし、彼女曰く『笑って死ねるんならまあいいか』」って言ってたんですけど、まさにじゃないですか。
叶井 ホントだね。それ書いてるの? あれ10年以上前の本だから、そのときとぜんぜん変わってないんだろうね。
――本当に「まあいいか」な人なんだなって。
叶井 しょうがない、なるようにしかならんっていうことなんだろうね。常にそうだから末期がんで余命宣告を受けてもジタバタしてないよね、そのまま受け入れる。まったく未練がないから悲しむこともない。くらたまはちょっと悲しんでたよ。
――そりゃそうですよ。
叶井 泣いてたよ。娘も俺の血を引いてて、一切泣かないからね。一昨日なんてヤフーニュースになったじゃん、娘も知ってるわけよ、スマホ見てるから。「父ちゃん、ヤフーニューストップになってるよ」「俺もう死んじゃうから労わってくれよ」みたいなこと言ったらさ、「いや、そんなことよりもハロウィンのコスプレ衣装買いたい」と。
――思春期だ(笑)。
叶井 「セクシー警官やりたい」と。
――ダハハハハ! そっちなんだ(笑)。
叶井 「ドンキで9000円するから1万円くれ」って「いや、俺いま末期がんだから金とかせびるなよ」って言ったら、「みんな買うんだもん!」とか言うから、あげたよ1万円。
――ハロウィンで渋谷とか行くタイプなんですかね。
叶井 そうそう、セクシー警官を4~5人で渋谷でやるらしいんだよね。「今年、渋谷はハロウィン禁止なんだぞ」って言ったら、「大丈夫、警官だから」とかわけわかんないこと言って。「来週の月曜日は文化祭の振替休日でディズニーシーに行くから2万円くれ」とか昨日も言ってきたしね。末期がん患者に金せびって。だから娘もぜんぜん悲しくないのよ。
――いませびっておかないと、もうせびれなくなるし。
叶井 そうそう、いまのうちに金せびっておくんだろうね。金かかるよ中2。この2日で3万が消えたからね、すごくね? そういうふうになってくるんだよ。
――医療費がそんなにかかってないぶんがそっちに流れて。
叶井 そっちに流れてんの。だから俺が病気だからといって看病なんてひとつもしないし、家事のひとつもしないし、学校から帰ってもバーッと着替えて「夜8時に帰ってくる!」って遊びに行っちゃうわけよ。「ご飯は?」って言うと「友達とマック行く!」とか、そんなノリ。だから家に閉じこもってゲームとかスマホって感じじゃなくて、ずっと遊びに行ってるから活発な子に育ってよかったと思うけど、逆に俺がこうやって末期がんだって知ってるけど、ぜんぜん落ち込まないっていう。
――ふつうでいるほうがいいですよね。
叶井 だから俺もけっこう助かってる。家でも体調悪いときがあるわけ。それでも「そんな痛いんだったら早く寝れば?」とか言って自分の部屋に行っちゃうんだよ。だからべつに心配も何もしてない。してない振りをしてるのかどうかは知らんけど、何も気にしてない素振りなのが俺的には心地いいよね、号泣するよりね。
――くらたまさんのあとがきで、叶井さん頭おかしいと思ったんですよ。「『ウゥーッ腹が痛い』苦しそうな様子の夫。『えっ?』驚き青くなる私。『うそー』笑う夫。たまに夫がやるようになった悪質な冗談。何度騙され、何度困ったことか」って。
叶井 ハハハハハ! それは家でよくやってるね。
――最悪ですよ!
叶井 「うぅ……」とかやってさ、「どうした!?」とか言われてさ、「いやギャグだから」とかさ。
――リアル狼少年ですよ(笑)。
叶井 相当泣いてるからさ。くらたますぐ泣くのよ、そこがおもしろくてね。心配してるからさ。
――この時期、一番やっちゃいけないヤツです!
叶井 末期がんの人がそれやっちゃいけないでしょ。やってるからね、俺。狂ってるよね。いやおもしろいわ、末期がんはおもしろい。
末期がん患者の本なのに生きるための言葉、役立つ情報はまるでナシ
――ただ、気持ちがわかるのは、ボクがもし大病になったとしても確実に最後まで仕事をやる道を選ぶはずなんですよ。
叶井 今回対談した人みんなそうだったよね。自分が余命半年って言われたらどうする? って話で何も変わらないっていう人が多くなかったですか? だいたい仕事するよね。「仕事やめて世界旅行とかすりゃいいじゃん」とか言う人も何人かいたけど、そんなことしてたら仕事が気になって旅行できないからね。取り残された感も出てくるだろうし、末期がんの状態でさ、このままひとりで死んでいくのか、とかなっちゃうかもしれないじゃん。
――それなら末期がんを利用して仕事したほうが楽しいっていう。
叶井 そのとおり。頭で話したとおり末期がんをネタに、「末期がんだから」って仕事全部通していったほうがおもろいよね。特に、末期がんになってから性欲ゼロなんだけど、いろんな女子に「最後に民宿でご飯食べたいんだけど」って言うと、「いつでも行くよ!」とか言われて。それはセックスOKってことなのかってなるじゃん。だから末期がんだとなんでもできちゃうわけ。やる気はないけど。「最後、私でいいの?」とか言われるから、「おまえが最後がいい!」とか俺も適当なこと言ってるんだけど。だから末期がんってけっこうすごいのよ。これべつに書いてもいいから。
――いいんだ!
叶井 試しに言ってみてるだけなんだけど、どういうリアクションか気になるから。そしたら、俺は末期がんでもやろうと思えばできるんだっていう、これは自己満足ですよ。
――今回の対談集も叶井さんよりゲストのほうが悩んでる回があるぐらいでしたね。中村うさぎさんみたいにゲストのほうがたいへんで、死を目前にした叶井さんのほうが淡々としてるっていう。
叶井 うさぎさんも死の淵を彷徨ったからね、自殺未遂何回もしてるんだから。俺も知らなかったから、ああいうのはけっこう衝撃的だよね。あの人はいまだに「早く死にたい」って言ってるしね。こっちが心配するよ。あと中原昌也とか。
――長期入院は心配ですよね。
叶井 あれはちょっと切なかったよ、「なんでZOOM切っちゃうの?」とかずっと言ってて。「このまま切らないでよ」みたいな。
――「いまからそっちに行く」ぐらいのこと言ってました。
叶井 そうそう、行けないけど。両足不自由だし。この本のゲラができて文字校正をみなさんに送って、中原くんもメールは見られるから送ったの。そしたら看護師の人から、「じつは昨日から両目が見えなくなってきてる。締切が明日って書いてあるけど、読み聞かせて修正してもらうんで2日ぐらい延ばしてくれ」っていう返信がきてさ。失明じゃなくて日によって見えなくなるんだって、糖尿病が悪化してて。いまはちょうど見えない時期だからってそういうのが来て、俺よりつらいなと思って。
――あの仕事で目が見えないのはつらいですよ……。
叶井 作家で映画評論家でさ、目が見えないってキツいよ。
――まだ音楽があるとはいえ。
叶井 50代半ばで点字を学ぶわけにいかないじゃん。あいつ両足切断かもしれないって言ってるんだから、キツいって。入院も1年近くなって、トイレにひとりで行けないんだよね。人の介助がないと何もできない状態。俺はそうでもなかったからあれだけど、俺よりキツいなと思って。
――叶井さんはいまだにサイゾーに出社してますからね。
叶井 そうだよ、こうやってふつうに話せるんだから。目が見えなくて歩けないとキツいよ。中原昌也が病気だってことはみなさん知ってるけど、現状のああいう生の声はどこにもあいつ発信してないから、ファンの人は興味深いと思いますよ。だから売れるかなと思ってるわけよ。売れるかな?
――やっぱり売れ行きは気になるんですか?
叶井 気になるな。けっこうイケると思ってるんだよ。1万部くらいイケそうじゃない? 初版6,000だっていうけど。
――売れる本っていうのは役に立つ情報が入ってるというか、前向きに生きるための言葉みたいなのがある本だと思っていて。
叶井 それをおっしゃるとね……。
――それが致命的にないじゃないですか。
叶井 ないねえ。
――しょうがないしなるようになるでしょ的な、足掻いてもしょうがないんだな、みたいなことは伝わる本ですけど。
叶井 潔いっていう意味でいいんじゃない? 末期がん患者でここまで潔くあっけらかんとしてる人もいないっていうね。がん患者って何十万人もいるわけじゃん。そういう人が読むと希望を持てるんじゃない? どうですか?
――これもありだなっていうひとつの道は示した感じがしますね。
叶井 そうでしょ? 末期がんでこんなバカ話してる人いないじゃないですか。
――「ヅラか死かで俺は死を取ったね」っていうのは名フレーズだと思いました。
叶井 そういうの叩かれるんだよ、マジで。社長も心配してたよ。がん患者の98パーセントは抗がん剤やってるんだよ、日本では。全員ハゲなんだから。俺はやってないからさ。その抗がん剤やってないってこともあんまり言うとね、やってる人からするとネガティブになるから。
――やってる人を責めてるわけではないですからね。それで生存確率に懸けるのは当たり前の話だし。ただ、叶井さんはそうじゃなくてヅラよりも死を選ぶんだなっていう。
叶井 そこはホントそうだったよ。ハゲてガリガリになってヨボヨボして、がんよりも抗がん剤で死ぬじゃねえかよっていうぐらいの人たちを俺は見てきてるのよ。
――すべての病気に共通してるのは、一番よくないのはストレスだと思ってて、そういう意味では叶井さんはストレスを軽減させる道を選んだはずなんですよ。余計なストレスを背負わない、いかにいつもの状態のまま呑気に生きるかっていう。
叶井 そうね、ストレスを抱えちゃうとそれが病気に重なっていっちゃうよね。たしかにそうだね、ストレスないんだよ。
――そこが大きい気がします。
叶井 抗がん剤やると最低4カ月入院って言われたからさ。入院してたら仕事できないじゃん。それで成功率10~20パーセントって言われたからさ、失敗しましたって言われる確率のほうが高いわけじゃないですか、それは選ばないよね。
半年で死ぬ覚悟をしたから生きていることに納得いかない
――もともと余命半年から1年って言われてすでに1年を超えたわけですけど、なんで予想外に余命が延びてるんだと思います?
叶井 数百万した免疫治療はやってるんですよ、血を入れ替える。そういうのがもしかしたら効いて多少の延命につながってるのかな。あとはふつうに寝てるし食べてるから、そういうのもいいんじゃない? 薬も飲んでないしね、処方されないから。病院には主治医がいるから月に1回行ってるけど、いまステージ4でがんが15センチぐらいになってて、完全に転移してるから、もう確実に治らないの。すい臓がんってめっちゃ痛いらしいんだよ、病気のなかで一番。
――そうみたいですね。
叶井 それが来たらモルヒネで緩和ケアだって言われて、モルヒネも相当打たないといけないらしいから、そのときはもう植物人間らしいの。その緩和ケア病棟も今月紹介してもらうんだけど、その次はもう痛くなったら終わりなんで死んじゃうの。それが2週間後なのか1カ月後なのかわからないけど、もう余命は過ぎてるからいつきてもおかしくないんだよ。
――その間にどうしてもやっておかなきゃいけないこともべつにない。
叶井 ない! ぶっちゃけ早く死にたいのよ。俺なんてマジで余命半年で死ぬ予定だったから、こうやってズルズルくるのがすごい嫌なの。死ぬならスパッと死ねと思って。俺いつも先生に言ってんだよ、「半年って言ったじゃん!」って。
――「話が違うじゃないですか」って(笑)。
叶井 「もう1年半過ぎてるんだけど」って。「いやいや、よかったじゃないですか」って言われるんだけど、「俺は半年で死ぬ覚悟したから自分のなかで納得いかないんだけど」「そんな患者いない」「死ぬって言ったんだから死なせてくれないと困るんだ」って毎月言ってるんだけど。俺としてはスパッと死にたいの。ズルズルやってるとマジで来年の映画とか気になってくるからさ。昨日だって『エイリアン』の新作が発表になったじゃん、観たいよ俺だって。来年の8月公開だって。
――来年の8月となると、まず難しい。
叶井 こういう余計な情報流すなよ「シネマトゥデイ」! とか思ってるわけよ、マジで。
――未練を残させないでくれ、と。
叶井 観たくなるじゃん。「『エイリアン』の新作をリドリー・スコットが大絶賛」っていう記事が出てたの。ふざけんなよ、と。『エイリアン』の監督が絶賛してる新作『エイリアン』観たいじゃん。だからショックだよね、ホントに。生きてるとそういういらん情報が目につくから、来年の新しい映画の話とかしてくれるなって言いたいわけ。だから早くそういう情報なしでね。
――今回の本でも触れてましたけど、叶井さん自身はそういうちゃんとした映画が好きな人なわけじゃないですか。
叶井 ああ、そうだね。
――自分が関わってきたものがほぼそうじゃないB級C級ものだったことへの後悔みたいなものはべつに何もないんですよね。
叶井 だって狙ってるもん、後悔なんかないよ。
――意識的にそういうことばっかりやってきた人だから。
叶井 そう、全部狙ってるから。
――それが失敗して金銭的にたいへんなダメージを食らおうが。
叶井 そう、俺が狙ってきてる映画で俺が自己満足できればOKだっていう。
――結果、いろんな人に迷惑もかけたけど。
叶井 そうです。かけてるけど、「申し訳ない、次で挽回する」と常に言い続けて30年ですよ。同じことの繰り返しを32~33年やってるからね、これはどうしようもないですよね。だから俺と30年つき合ってる人たち、今回対談してくれた人も含めて周りの人たち、いまだにつき合ってくれてるけど。
――迷惑かけられたはずの人たちもそんなモードじゃないのがわかる対談でしたね、未払いがあったとしても。
叶井 そうね、未払いで踏み倒されたはずの江戸木純さんとかも、あの人も怒ってると思ったけど怒ってなかったね。逆に俺、仕事で返してるから、「それ以上もらってる」とか言ってたじゃん。じゃあよかったなと思って。俺、踏み倒してるんだけどね、原稿料とか。
好きなことやり尽くして、同じことの繰り返しだから
今死ぬのも10年後に死ぬのも一緒
――生前葬やりたいとかそういう思いもないんですか?
叶井 ないね。まったくないよ、ホントに。
――ボクが死ぬとしたら未練あるのは葬式なんですよ。
叶井 そうなの!?
――たぶん葬式に結構な数のアイドルなりアーティストが集まって生演奏してくれるはずで、それを見られないのが悔しいっていう。
叶井 あ、そう? 俺の葬式やってくれるかどうかわかんないもんね。
――川勝正幸さんのお別れの会に行ったときにけっこう人生観が変わったんですよ。綺麗どころが大勢来てて、大物が演奏したりしてて、それを見てボクも頑張って葬式になかなかのメンバー集めるぐらいの活動をしようと思って。
叶井 ああ、なんか案内来てたけど行かなかったな。そこで会う人たちと話すのもちょっと面倒くさいなっていうのがあって行かないときもあって。そう言われるとこぼ10年くらい葬式って行ってないな。葬式行ってる?
――ボクは喪服もないのに行ってますよ。
叶井 喪服ぐらい着て行きなよ!
――喪服のぶんお金を包むルールでやってて。
叶井 さすがにその恰好では行かないでしょ?
――でも、これと近いですよ、黒けりゃいいだろぐらいの感じで。
叶井 え? 全員喪服だから!
――行くたびに浮いてるとは思うけど、まあいいやって。
叶井 いや喪服で行け、親族いるんだから! すごいメンタルだねあんたも。だって葬式の場所って全員喪服じゃん!
――結婚式でも葬式でも私服ですね。
叶井 全員みんなスーツに黒ネクタイじゃん。そこにあなたその恰好で行くの? すごいね。
――結婚式もこんな感じで行ってノートパソコンで仕事してますね。
叶井 ダメでしょ! そんな人いないから!
――叶井さんに常識を説かれてる(笑)。
叶井 いや常識だから! 冠婚葬祭は一般常識だから! 俺でさえ喪服ぐらい持ってるよ。
――その代わり律義に顔は出すんですよ、地方でも行ったり。
叶井 そうなんだ。たしかにその恰好でも顔出すのは偉いか。
――それにルールも厳しいじゃないですか。香典を何かに包んで持っていかなきゃいけないみたいなの、ちゃんとやってます?
叶井 ああ、風呂敷みたいなヤツね。ポッケに入れてるよ、俺だって。さすがに香典袋には入れるでしょ?
――もちろん。そのまま現金を渡すようなキ◯ガイじゃないですよ! 叶井さんも葬式やるなら行きますよ。
叶井 来てくださいよ。くらたまがなんかやるんじゃないかな。会社でやってくれるかな、一応社員だからね。そんな感じでぜんぜん未練がないからいつ死んでもいんですよ。俺としては早く死にたいんで。このままズルズルいくと、結局仕事もジャンルとタイトルが違うだけでやること一緒なわけよ。いまは来年の夏ぐらいまでの映画を仕込んでるけど、いつ死んでもいいような状態にしてるんで。その仕込みが終わったら死にたいなって思ってるわけ、バーン! 終わり! って。来週、医者に会うからいつ死ぬか聞いてみるわ。
――安楽死とか気になったりします?
叶井 なるよ、やりたいもん。できるもんだったら今日にでも安楽死したい。早く死にたい。もう人生を終わらせたい。だって余命半年って言われた段階でもう終わってるんだよ、寿命だから。やりたいことやったからもういいんだけど。いま死んでも10年後に死んでも一緒だよ。
――ここまでやりたいことやったと思えるのもすごいですよね。女性関係も仕事関係も人一倍やりたいことをやって。
叶井 やった。好きなことやり尽くして、あとは同じことの繰り返しだから。ヨボヨボの爺さんになって死ぬの嫌なんだよ。皺だらけで爺さんになって白髪になって死ぬよりいまのうちのほうがいい、50代でスパーン! と。で、伝説残したい。すぐ死んだ! っていう。
――ギリギリまで楽しく生きてスパッと死んだぞっていう。
叶井 それでいいです。そんな状況ですよ。(電話取って)ごめん、かけ直す!
――こんな状況でもちゃんと忙しそうじゃないですか。
叶井 めっちゃ忙しいよ。でも、あんまり集中力続かない。3~4時間だね。あとは疲れちゃう、ダルくなっちゃうんだよ、末期がんだから。
――そりゃ体力は落ちますよ。でも、この感じだと発売記念イベントもやれそうですね。
叶井 それは社長も言ってたけど、俺がつらいから。こうやって相手がひとりならいいんだけど、何人もいて話して回るの面倒くさくない? 末期がんなんだから静かにさせてくれって。
――ましてや過去に関係があったかもしれない人が次々現れたりするかもしれないし(笑)。
叶井 来るよ、そりゃ。面倒くさいんだよ。
――「私のことわかる?」って言い続けられたりしたら、それはストレスですよね。
叶井 そうだよ。でも、売れそうでしょ?
――話題性があるのは間違いないですよ。
叶井 あるよね。吉田豪もちょっとつぶやいといてよ、「これ買ったよ」みたいな。お願いしますよ、もう死んじゃうんだから。
――ズルいなあ、その手口!
叶井 30年来の友人なんだから!
――わかりました、頑張ります!
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