『下剋上球児』甲子園出場! 野球から学びを得て社会へと羽ばたいた越山ナイン
#下剋上球児
12月17日に日曜劇場『下剋上球児』(TBS系)の最終話が放送された。弱小高校が甲子園出場を目指す下剋上物語は、球児たちの成長だけでなく、彼らを取り巻く大人たちの心をも変えてきた。その集大成として、立場の異なるすべての人が甲子園というゴールに向かっていき、高校野球以降に訪れるそれぞれの未来を描く最終話となった。
野球素人や野球センスはあるものの素行に課題のある問題児、名門校に入れず劣等感にさいなまれるエースなど、ひと癖も二癖もある越山高校野球部を率いてきたのは、鈴木亮平演じる南雲脩司。ドラマ前半は生徒想いの教師であり野球部監督として弱小校を甲子園に導く青春ストーリーになると思われた。しかし、中盤で教員免許を持たない偽教師であることが発覚する。南雲は学校を去り、道半ばで空中分解した越山高校。それでも自らの罪を清算し、再び部員たちと向き合うことを決意した南雲、南雲とともに成長することを望む生徒たちの絆のもと、越山高校はわずか1年で三重県大会を勝ち進むまでに成長した。第9話では強豪・星葉高校を相手に奇跡の逆転サヨナラ勝ちを果たし、見事決勝戦に進出した。
あと1勝で夢の甲子園、というまたとないチャンスにモチベーションが上がる越山高校と地域の人々。おなじみの青春野球ドラマであれば、決勝戦を激闘の末に制した越山高校ナインがマウンドで喜び合う光景が目に浮かぶが、同作品はシビアな問題からも目を離さなかった。それは、甲子園出場にともない必要になる費用である。移動費に宿泊費など、学校をあげての行事となれば金額は最低3000万円もかかる。初めての出来事のため資金集めに苦戦する越山高校の面々。それを打開したのは地域愛だった。点差をものともせず逆転勝ちを収めた越山高校ナインを気持ちよく甲子園に送り出せるよう、越山高校校長の丹羽や越山高校野球部のOBがアイデアを出し合い、地域の人々から賛助金を集めることに成功した。
それぞれの思いを乗せた決勝戦だったが、ハイライトは翔(中沢元紀)の力投だろう。ピンチを背負うチームの3番手として登板し、快速球とスライダーで追加点を与えず逆転の足掛かりをつくった。目の手術を終えた祖父・犬塚(小日向文世)が病室で音声を頼りに応援する姿も感動を誘った。甲子園出場と失明するリスクのある手術。2人が迎えた大一番をお互いに応援しながら乗り越えたことも、本作品におけるひとつのハッピーエンドといえるだろう。
そして甲子園出場という出来事は、人と人の絆を深めることに貢献したのも興味深い。美香(井川遥)の連れ子・青空(番家天嵩)は南雲を父として誇らしげに周りに紹介し、根室(兵頭功海)は大学に進学したい気持ちに正直になり姉・柚希(山下美月)に打ち明けた。甲子園後もそれぞれの人生は続くのであり、この歴史的快挙は登場人物が新たなスタートを切るきっかけになったのだ。
実社会では同じ地域、同じ職場、同じ学校にいても関係が希薄なことが多い。『下剋上球児』では野球を中心に生徒、地域の大人たちがひとつになる大団円であり、単に高校野球に盛り上がるのではなく南雲をはじめとした大人たちの葛藤を経てのフィナーレとなった。そして高校野球が元来もつ熱気や爽快感、そこに大人たちのリアルな心情がストーリーに深みが生まれた『下剋上球児』は、野球ドラマの新たな可能性を示したことは間違いない。エンディングには越山高校ナインの2023年冬の姿も映し出され、社会人野球や越山高校野球部のコーチ、地元活性化の担い手など多方面で活躍していることがわかった。『下剋上球児』は青春ドラマであり、登場人物の成長の軌跡を示すヒューマンドラマだったと筆者は思う。
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日曜劇場『下剋上球児』
TBS系毎週日曜21時~
出演:鈴木亮平、黒木華、井川遥、小泉孝太郎、中沢元紀、生瀬勝久、小日向文世、松平健 ほか
脚本:奥寺佐渡子
原案:「下剋上球児」(菊地高弘/カンゼン刊)
音楽:jizue
主題歌:Superfly
プロデュース:新井順子
演出:塚原あゆ子、山室大輔、濱野大輝
編成:黎 景怡、広瀬泰斗
製作:TBSスパークル、TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/
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