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日刊サイゾー トップ > 配給映画  > 『電エースカオス』河崎実のバカ映画道

『電エースカオス』河崎実監督の「バカ映画道」と、冷めやらぬバカへの情熱

 とにかくバカでかい声で、取材中もずっと笑っているのである。映画監督・河崎実、65歳。バカ映画だけを撮り続けるそのキャリアの中で、ヴェネツィア国際映画祭で喝采を浴びたこともあったし、その作品がモスクワ現代美術館で上映されたこともあった。

 そんな河崎のライフワークともいえるのが、ウルトラマンに最大のリスペクトを捧げた地球防衛モノの極北『電エース』シリーズだ。誕生から35年、最新作『電エースカオス』が劇場公開を迎える。

──第1作が制作された1989年当時、『電エース』という作品はどんな状況の中で生まれたのでしょうか?

河崎実 レンタルビデオ全盛の時代だよね。TSUTAYA、GEOなんかがものすごい伸びていくとき。ビデオソフトが最終メディアだったから、景気が良くてね。俺が『地球防衛少女イコちゃん』ってのを作ってたから、その流れだったよね。バンダイが毎月1回「ビデオマガジン」を出してて、その穴埋めにね、なんでもいいから作ってくださいって言われたの。1本30万円で。

──30万? 何分の作品ですか?

河崎実 2分。尺も任せるって言われて、30万円でできれば10分だろうが何分だろうが。でも、できるわけないよね、10分なんて。だからもう凝縮して2分。それを撮ったのが最初の『電エース』なんですよ。

──2分の中で、電エースというヒーローが地球を守る。

河崎実 そうそう、だからCMと同じですよ。15秒、30秒って、あっという間に終わるじゃない。それがギャグになるんです。それを毎月やってるわけ。ウルトラマンのパロディを作ろうって真剣に考えてさ。エンドロールも読めないくらい速く流してたんだけど、あれもギャグなんです。俺が初めてですよ、業界で。とんねるずがテレビでやってたけど、怒られるんですよ。ハハハ。エンドロールなんて誰も読んでねえだろって思うけど、けっこうスタッフはみんな確認してるんですよ。自分の名前が出ると、威張れるから。

──当時もっとも景気の良かったレンタルビデオ業界の中で、自由にできる環境が最初からあったわけですね。

河崎実 そうだね。マイナーではあるけど、届いてる人には届いてたんだよね。バカやってるなって。それから、何かしら『電エース』やってるから。関西テレビでやったときは久住昌之さんが出てたり、ポニーキャニオン、キッズステーション、斎藤工が出てるのもある。なぜか知らないけど『電エース』は次々とスポンサーが現れるんですよ。中には800万なんて予算が出たこともある。北海道ロケやったり、新潟、鹿児島も行った。

──全部、『電エース』で何か作ってほしいと、みんながお金を持ってきたということですか?

河崎実 そう。そのあと、10年前からはクラウドファンディングも始めて。平均して150万くらい集まるんですよ。それで撮れちゃう。撮影2日だから。

──編集もお金がかからなくなりましたもんね。

河崎実 人件費はかかるけど、昔はさ、リニア編集のときは編集室を借りてやんなきゃいけないじゃない。その金が1日何十万もかかったけど、それがタダだもんねえ。MA(音入れ)もタダ。

──機材の進化って、映画監督にとっては毎年いい環境に更新されていく感じですか?

河崎実 そうなんだけど、映画ができすぎててさ、もうなかなか配給してくれなくなってるの。劇場が埋まっちゃって。だって、どんなやつでも映画が撮れちゃって、そのまま上映できちゃうんだから。

■映画にメッセージを込めるということ

──『電エースカオス』は終始バカでおもしろかったんですけど、クライマックスでは意外なメッセージ性も込められてましたよね。意外と言っては失礼なんですけど。

河崎実 けっこういろいろ考えてるのよ。SNSのクソコメの問題とか、承認欲求とか、転売ヤーの話も入ってるし。時代を象徴するものを入れてる。なんでかっていうと、世の中の悪とか、必ずそこから入らないと話ができないんです。なんで地球を侵略するのか、とか。最近のウルトラマンなんか、理由もなく怪獣が出てくるじゃない。しょうがないんだけどね、テレビは商業主義だから。こっちは何をやってもいいんでね。へへへ。俺のスタイルでやってるよね。

──話題性があって、テレビでは言えないことを取っ掛かりにして、やりたいことをやるという。

河崎実 そう、逆算だよね。メッセージ性っていうより、なんか理由がないともたないじゃない。

──そのやりたいことというのは、やっぱり地球を防衛することなんですか?

河崎実 そうだね。あと俺はさ、お爺さんが好きなんですよ。だから、次々にお爺さんが出てくる。勝呂誉さんとかね。みんな80歳くらいだよ。好きなんだからしょうがない。

──ホントに。誰に向けて作ってるんだろうと思ってました。

■65歳、モチベーションを継続するためには

──今回の撮影で苦労したこと……というか、河崎監督って、苦労ってします?

河崎実 しないです。ハハハハ。

──しないんでしょうね。

河崎実 苦労っていうのは、時間通り撮れるかってことだからね。俺の場合はほぼ絶対予定通りにいくんで。こっちはプロだからさ、職人なんだよね。40分を3日で撮る。現場は運動会ですよ。

──〆切が迫って、アイディアが浮かばなくて苦しい、みたいなことは?

河崎実 ないですよ。〆切なんか守るもん。アイディアが枯れる恐怖もない。なんかさ、降りてくるっていうじゃない、ブラウニーの小人が勝手にやってくれるっていうの、少しわかるんだよね。それに今はクラウドファンディングがメインだから、それで決まっちゃったら作るしかないんだもん。それがモチベーションだよね。

──好きなことを長く続けるために必要なことって、なんでしょう。

河崎実 常に楽しいことしか考えてないからね。普通はできないと思うんだけど、やっぱり成功体験ってあるじゃない。『日本以外全部沈没』(2006)が当たったり、ほかの映画でも海外の映画祭に呼ばれたりとかさ。だってヴェネツィアでさ、(北野)武さんが昼間にやって、夜は同じ会場で俺が喝采を受けてるんだから。笑うしかないよ。そういうことを体験しちゃってるから、またあるんじゃないかと思う。だからまだ、その過程ですよ。

──今後も楽しいことだけ続けていく。

河崎実 そう。だって、次の映画は松島トモ子だから。

──え? ライオンの?

河崎実 『サメ遊戯』ってタイトルで。

──どういうことですか?

河崎実 ブルース・リーで『死亡遊戯』(1978)ってあったでしょ。今回は松島トモ子がサメと戦うんだよ。ハハハハ。松島トモ子ってライオンとヒョウに食われたじゃない。でも生きて帰ってきて、今度はサメと戦うっていう。狂ってるよね。松島トモ子、78歳だよ。ワハハハハハ!

(取材・構成・撮影=新越谷ノリヲ)

●河崎実(かわさき・みのる)

1958年8月15日生まれ、東京都原宿出身。映画『いかレスラー』(04)『コアラ課長』『かにゴールキーパー』(06)の不条理どうぶつシリーズで各国の映画祭に数多く招待される。筒井康隆原作の『日本以外全部沈没』は第16回東京スポーツ映画大賞特別作品賞を受賞。2008年は松竹で怪獣映画『ギララの逆襲洞爺湖サミット危機一発』が公開。ヴェネチア国際映画祭に公式招待という快挙を成し遂げた。2009年は日本映画批評家大賞の特別敢闘賞を受賞。ほかにモト冬樹主演『ヅラ刑事』(06)、『猫ラーメン大将』、『髪がかり』(08)、AKB48メンバー主演の『地球防衛ガールズP9』(11)、壇蜜主演の「地球防衛未亡人」(14)、『アウターマン』(15)、TV『怪獣酒場カンパーイ!』(15)、『大怪獣モノ』(16)、『ロバマン』(19)、『三大怪獣グルメ』(20)、『メグ・ライオン』(20)、『遊星王子2021』(21)『タヌキ社長』(22)『超伝合体ゴッドヒコザ』(22)『突撃!隣のUFO』(23)など。

日本一のバカ映画の巨匠と呼ばれている。

●『電エースカオス』

監督:河崎実

キャスト:小林さとし、タブレット純、ハリウッドザコシショウ、藤波辰爾、吉田照美、グレート小鹿、清水絋治ほか
製作:有限会社リバートップ 配給:エクストリーム
2023年/日本/カラー/DCP
2023年12月22日 池袋シネマロサ他 全国ロードショー
https://denace-chaos.com/

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/12/19 11:47
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