『水曜日のダウンタウン』の「スベリ-1GP」準優勝・ギブ↑大久保、その25年前の記憶
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13日に放送された『水曜日のダウンタウン』で開催された「スベリ-1GP」。今もっともスベっている芸人を決めるという、いかにも同番組らしい企画である。ランジャタイや永野、アルコ&ピースなど地下ライブ出身の芸人たちが、それぞれ「スベリ芸人」を推薦し、日本一を競った。
前週の1回戦を経て、今週放送された決勝に残った4人は、永野推薦のゆきおとこ、モグライダー推薦のエンジンコータロー、チャンス大城推薦のギブ↑大久保、ハリウッドザコシショウ推薦のジャック豆山。決勝ではいずれ劣らぬスベリを見せたが、ショートコントでゼロ笑いの完封を見せたエンジンコータローが優勝を果たした。
ちなみに出場者たちには、今回の大会は「シングル-1GP」という、芸歴15年以上のピン芸人による賞レースだと伝えられており、その大会で優勝したのだと思っていたエンジンコータローは、企画終盤のネタバラシで膝から崩れ落ちることになった。
優勝したエンジンコータローに勝るとも劣らないスベリを見せたのが、ギブ↑大久保である。「ぎぶあっぷ・おおくぼ」と読む。58歳だ。
キラキラのスーツに金のシャツ、アフロのかつら、電飾が流れるサングラスという物々しい衣装で「昭和の感覚が抜けないシリーズ」という自虐漫談を披露した大久保だが、その第一声から何を言っているのかわからない。1ネタ目からネタを飛ばし、その後も客席からの笑いは、こちらもゼロ。アルコ&ピース・平子祐希は「何言ってんだマジで……」と絶望感あふれる表情を見せ、ザコシショウも「ずっと意味わからん」と思わず冷静になってしまうなど、「スベリ-1」としては相当な強さを見せた。
どこかで見たことがあるな、と感じたわけではない。だが「この人なんなんだ」と、思わず検索してしまうくらいに、ギブ↑大久保という芸人に興味を抱いてしまった。断片的な情報が、遠い記憶を呼び覚ます。
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25年前の東京・新宿Fu-。80人も入れば満席になる小劇場で、プロダクション人力舎の事務所ライブ「バカ爆走」が行われていた。当時は『ボキャブラ天国』(フジテレビ系)から続くお笑いブームの最中で、Fu-も後方ドアを解放し、受付スペースまで客を入れていた。そんな風景が蘇る。
若手ライブシーンではブラックパイナーSOSやファンキーモンキークリニック、ジェット☆キッズがワーキャー人気を集め、一方でラーメンズ、バナナマン、バカリズムが頭角を現していたころだ。その系譜といって差し支えないだろう、谷崎潤一郎の長編小説からコンビ名を戴いた「細雪」というコント師がいた。背の低い色白の若者と、長身の相方はだいぶ年上に見えた。
年上の長身は白シャツに黒いスラックス姿だったように記憶している。色白の若者はオークラ劇場と名乗っていた。後に、『ゴッドタン』(テレビ東京系)やバナナマンの『バナナムーンGOLD』(TBSラジオ)で知られる放送作家・オークラだ。
オークラは自著、『自意識とコメディの日々』(太田出版)の中で、細雪でのコンビ活動についてこう振り返っている。
「細雪はシステムコントを作り、さまざまなライブに出演するようになった。ダウンタウンの漫才やバカルディのコントをマイナーチェンジしたようなネタをする若手芸人たちとは一線を画した。」
バカルディとは、現在のさまぁ~ずである。当時の東京コントのトップオブトップだ。
「毎度新しいシステムを生み出すのは苦労するが、お笑い自意識は満たされまくっていた。自分が毎回新しいシステムを生み出しているのに対して、周囲の芸人はその方法論に気づいてすらいない。」
当時の細雪と「バカ爆走」で同じ舞台に立っていたのは、アンタッチャブル、アンジャッシュ、おぎやはぎといった後のテレビスターたち。角田晃広が加入して東京03になる以前のアルファルファもいたし、『はねるのトびら』(フジテレビ系)に大抜擢される直前のドランクドラゴンと北陽もいた。そんな中で、細雪は確かな存在感を放ち、確かにウケていた。
細雪は、相方の突然の失踪によって活動を終える。その後、オークラは作家として本格的に活動を始め、今ではお笑いに少しでも興味がある者であれば顔と名前が一致するくらいの、押しも押されもせぬトップ作家になった。若手コント師・かが屋の加賀翔が『ゴッドタン』でオークラと対面し、感激のあまり泣き出してしまったシーンはあまりにも印象深い。
そんなオークラが、細雪として初めてコンビでネタを披露した夜のエピソードも、同著には収録されている。
「この日は、Aさんと朝まで飲み明かした。
『僕はずっとAさんとコントがしたかった。これからもずっと僕とAさんとコントがしたい!』
その日、僕はAさんに頼み込んだ。」
そのAさんが、今日のギブ↑大久保である……という話ならカッコよかったのだが、現実はそうではない。
Aさんはオークラと出会ったころ、Oさんという劇団出身の芸人と「スクラップ」というコンビで活動していた。どうしてもAさんとコンビを組みたいオークラは、スクラップに頼み込んで3人でのユニット活動を始める。トリオでもいい、というオークラの頼みを、Oさんが聞き入れることは決してなかった。だが結局、Aさんはオークラとのコンビ活動を選び、スクラップは解散する。
Oさんことギブ↑大久保は、そのときのことをYouTube「馬鹿よ貴方は、新道竜巳のごみラジオ」で明かしている。
「スクラップとして順調にやってたらさ、急にオークラが(Aさんと)コンビでやりたいって話になって、急にはできないから3人でやってたの、ちょこっと。それで、何か知らないけど(オークラが書く)台本が上がってくると、俺のセリフがないから、どういうことなの? って。そしたら、2人でがんばっていくんで、大久保さん1人でがんばってくださいって。その後に、2人は細雪ってコンビで……」
ギブ↑大久保という芸人を調べているうちに、あまり関係のない記憶が蘇ってしまい、思わず記事にしてしまった。ごめん。
(文=新越谷ノリヲ)
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