『ゴッドタン』松丸友紀アナの「変なおじさん」に見る、視聴者と握り合った自由
#ゴッドタン
18日深夜の『ゴッドタン』(テレビ東京系)は「一撃必殺!松丸劇場」。キャッチフレーズは、「若者よ、私を目指せ」だ。普段から同番組を見ていない視聴者にとっては、何が行われるのかまったくわからない企画である。
来年にはテレビ東京入社20年、『ゴッドタン』に配属されて18年という松丸友紀アナウンサーを「道場長」とし、「第2の松丸オーディション」優勝者・たけうちほのかに、その技を授けるという。ここまで説明しても、未見の方には何のことやらである。
放送直前、番組プロデューサーの佐久間宣行はX(旧Twitter)で「いろんな意見があると思いますが、僕は一番面白いアナウンサーは松丸だと思ってます。松丸で30分です。」とポストしている。
企画は、松丸の「ムカついた話」というエピソードトークからスタート。そして、松丸が「嫌味」のスキルをたけうちに伝える「嫌味チャレンジ」として、松丸が得意とする「さりげない嫌味」を伝授する。
続いて、松丸とたけうちが変顔でMCの劇団ひとりを笑わせる「変顔チャレンジ」。おぎやはぎ・矢作兼も「いまどき変な顔だけする企画ある?」と疑問を呈しながら笑い転げている。
最後は寸劇のクライマックスに松丸とたけうちが、ユーロビートに乗って「変なおじさん」ダンスを披露。世間的には無名のアナウンサーと、無名のタレントが、志村けんのコスプレにハゲヅラをかぶって身をくねらせている。
まったくためにならない、何の役にも立たない、ただ笑えるだけの『ゴッドタン』の余韻は、そうして土曜の深夜に霧散していく。
なんて自由なんだろう、と感動してしまった。
なんのしがらみもなく、面白いことだけをやりたい。テレビマンに限らず、あらゆる仕事をする大人たちが、本当はそう考えているはずだ。だが、現実はそんなに甘くないこともとっくに理解している。なぜなら大人だからだ。大人になるとはそういうことだと、いつの間にか納得している。
そしていつしか、仕事の外に自由を求めるようになる。誰もが『ゴッドタン』のようにはできない。ただ羨ましいというわけではない。あの自由を獲得するだけの苦労に思い及べば、気が遠くなる。
テレビって、スポンサーとかあるんだろう。編成の偉い人とかいるんだろう。視聴率とか、経費とか、クリアしなければならない問題が、想像を絶するほどあるはずだ。
要するに『ゴッドタン』は、それら無理難題を全クリしているのだ。この超くだらない「一撃必殺!松丸劇場」をやるために。自由を獲得するために。視聴者とだけ、握り合うために。
思えば先週と先々週は、「マジ歌ライブ」の録画だった。S席9,000円、A席8,000円という高額チケットを、さいたまスーパーアリーナの席数分売り切っている。Blu-rayやDVDの円盤だって、特典をつけて売りさばくのだ。
大金を生む「マジ歌」も、何の足しにもならなそうな松丸アナの「変なおじさん」も、『ゴッドタン』が18年かけて育ててきたコンテンツだ。また、気が遠くなってくる。
先月の「西野vsひとり」もそうだった。あまりにも自由だった。面白すぎて、なんだか切なくなる。そんな番組は、『ゴッドタン』以外に知らない。
(文=新越谷ノリヲ)
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