『千原ジュニアの座王』が築き上げた「もうひとつの芸人ヒエラルキー」
#パーティーちゃん #千原ジュニアの座王
「芸人として、座王を獲ってないというコンプレックスがあって、このままじゃ立場ないと思ってたんで、ホンマに救いです」
17日放送分で座王を獲得した、ななまがり・森下直人の目は真剣だった。
関西ローカルで放送されている『千原ジュニアの座王』(カンテレ)が、芸人界に新たな評価軸をもたらしている。
『座王』のスタートは2017年、千原ジュニアの持ち込み企画として特番が始まり、翌18年の4月からレギュラー化しているバラエティ。毎回10人の芸人を集め、イス取りゲームの要領で「大喜利」「モノボケ」などのお題の書かれたイスを取り合い、イスに座れなかった芸人がお題と対戦相手を選んで1対1で即興ネタ勝負を行うという、極めてストイックなお笑い番組だ。
MCはジュニアが務め、毎回異なるゲストが審査員長として1人で審査を行う。イスが残りひとつになり、勝ち残った芸人がその週の「座王」となる。
真っ白のスタジオセットに、芸人の衣装は基本的に白Tシャツで、名前の書かれたビブスを着込む。ビブスの色は、男性は水色、女性はピンク色だ。十数人の観覧者も自前の白い服装で参加している。いかにも低予算なスタジオセットだが、それも虚飾を排したお笑いガチンコ勝負を演出しているように見える。
この『座王』で圧倒的な強さを見せているのが、笑い飯・西田幸治だ。通算200勝を誇り、63回の座王を獲得。対戦勝率は85%を超え、特に大喜利やモノボケといった得意ジャンルでは9割以上の対戦に勝利し、その成績から「座王の鬼」の異名を与えられている。
座王63回の西田に続くのが、R藤本の19回、セルライトスパ大須賀の17回、ロングコートダディ堂前透の14回。今や賞レースファイナル常連のロングコートダディだが、関東のお笑いファンに最初に堂前の名前を印象付けたのは、まちがいなく『座王』での活躍だろう。
そんな『座王』によって、ヒエラルキーが完全に逆転してしまった芸人がいる。現在、ブレーク中のトリオ・ぱーてぃーちゃんだ。
ぱーてぃーちゃんは、リーダーであるすがちゃん最高No.1を中心に、信子と金子きょんちぃというギャル2人の構成。当初は、「笑いのすべてを知っている」と自称するすがちゃんが、「M-1の向こう側を見せてやる」と言いながらギャル2人を誘い、先輩として笑いを指導するという立場だったが、信子ときょんちぃが相次いで座王を獲得。しかも、その勝ちっぷりはフロックではなく、誰が見ても実力によるものだった。すがちゃんも参戦経験こそあるものの、まったく振るわなかったことから、トリオ内のパワーバランスが崩壊してしまったのだ。
「でも、座王獲ってるし」
信子ときょんちぃが、お笑いについてすがちゃんに何か言われるたびに繰り出す伝家の宝刀。
『座王』ほど、実力のはっきり出る番組はない。しかも、1対1で勝敗を決めるため、負けたほうのネタも基本的にはすべて放送される。日本でもっとも、「スベっている芸人」が放送される番組でもあるのだ。
この緊張感と、ガチンコシステムが、『座王』獲得経験者に対する否応ないリスペクトを生んでいる。
「でも、座王獲ってるし」
この一言の発言権を獲得するため、来週も芸人たちがイスを奪い合う。
(文=新越谷ノリヲ)
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