団員死亡事件に揺れる宝塚歌劇団――次に標的になりそうな舞台上の“昭和的な男女観”
#宝塚歌劇団
100年以上の歴史を持つ日本を代表する劇団が、創設以来最大の危機を迎えている。宝塚歌劇団の劇団員が転落死した問題で、宙組公演は中止に。震災やコロナで公演がストップしたことはあったが、劇団内部の問題で公演が長期にわたって取りやめられるのは極めて異例だ。劇団は11月14日、外部の弁護士らによる調査報告書を公表し、いじめやハラスメントはなかったとしたが、遺族側はこれに強く反発。さらに22日、西宮労働基準監督署が歌劇団へ立ち入り調査をしたことが明らかになるなど、騒動が終わる気配はない。
「今回の件は、ヘアアイロンを押し付けたという件、上級生からの指導が適切だったのか、過重労働などいろいろな点が問題になっていますが、『故意か故意でないかの判断は不可能』とされたヘアアイロンの件は別として、上級生の指導や過重労働は、劇団のありようを根底から覆す問題です。宝塚には演出家やプロデューサーがいますが、生徒(劇団員)同士が支え合い、教え合って成立する部分が大きい。上下関係の厳しさは“美徳”と捉えられ、日常生活の細部にまで至る鉄の掟と先輩に対する絶対的な尊敬と信頼が、一糸乱れぬダンスや息の合った演技を生んできた。それだけに、先輩の指導をハラスメントと解釈することに違和感を覚える関係者は少なくないでしょう。また、過重労働に関してもサラリーマンのように解釈するのは難しい。プロの劇団員が稽古場にいれば、それはすなわち労働時間にあたるという指摘はもっともですが、劇団の仕事は“自分の出番が終わればおしまい”というものではありません。プロである以上、クオリティが一定の基準に達していなければ、居残りをするのは当たり前。もっとも、“給与が低すぎる”という指摘に対しては、異を唱えるタカラジェンヌはいないでしょうが」(演劇界に詳しいライター)
しかし実際には亡くなる人が現れてしまっており、給与の低さからは、近年いろいろな場所で指摘される「やりがい搾取」という単語も透けて見える。“夢の園”が一転、闇ばかりがクローズアップされる状況だが、公演が再開されても劇団に待ち受ける試練は深刻だ。
「長きにわたり絶大な人気を誇ってきた宝塚ですが、切り離せないのは昨今しばしば問題となるジェンダーとの兼ね合いです。宝塚は“女性が男性を演じる”という点が最大の特徴ですが、主役はほとんど男性(男役)で、女性(娘役)は常に男役の“添え物”。ミュージカルでもショーでも“男役がいかに格好良く見えるか”に全ての力が注がれています。物語で展開されるジェンダー観はしばしば非常に昭和的で、女性を一段下の存在として蔑んだり、夫が暴君のような亭主関白だったり、男の女遊びは許容されても逆だと許されなかったりといったストーリーは少なくない。貴族や身分差、出自、容姿の良し悪しが物語のカギを握る作品も多いのですが、最終的にそれらを否定するわけではなく、むしろ肯定してしまうような形で終わるパターンも珍しくなく、テレビドラマや大衆映画を見慣れた人はショックを受けるかもしれません。これまで宝塚の舞台は、宝塚的な世界観を共有できる熱心なファンしかいない中で公演が行われてきましたが、一連の騒動で宝塚に対する目は厳しくなっている。手っ取り早いところでいえば、ショーでしばしば登場する黒塗りは批判の対象になりやすく、今後は慎重にならざるを得ないかもしれません」(舞台関係者)
一方で、一連の問題に対する報道についてはこんな指摘もある。
「今回の件について新聞・テレビ・週刊誌は、総じて宝塚に対して極めて厳しいトーンで報じていますが、これはジャニーズ問題の影響が大きい。ジャニーズ事務所内の性加害問題は日々大きく報じられていますが、マスコミ各社は長年、ジャニーズから“出禁”を喰らうのが怖く、問題を一切黙殺してきました。マスコミも性加害に加担してきたようなもので、批判されるのも当然です。これに対して宝塚は、テレビ局も新聞社も出版社も関係が薄く、忖度の必要がない。OGは芸能界で多数活躍していますが、“宝塚を叩いたから、あのテレビ局と仕事はしない”という女優はいないでしょうから、ある意味叩き放題です。ジャニーズ問題の対応への反省が宝塚バッシングに繋がっているのは、宝塚にとっては不運と言えるでしょう」(週刊誌記者)
すべてのタカラジェンヌに笑顔が戻る日は来るのか。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事