『有吉弘行の脱法TV』テレビの「コンプライアンス」鉄の意志と薄弱な根拠
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「OKとNGの基準が曖昧なんだよ」有吉弘行は語気を強める。刺青だってそうだ。刺青が入っているから裸になれない芸人がいる。サッカーのリオネル・メッシは刺青だらけだ。女性の眉アートが頬まで伸びてカミナリを描いたらどうなんだ。あくまでバラエティのプロローグ映像ではあるが、有吉の言葉は真に迫っている。
13日深夜に放送された特番『有吉弘行の脱法TV』(フジテレビ系)は、現在のテレビで「出来ないとされていること」を、抜け穴を探して実現しようとする番組。スタジオには有吉に加えて、霜降り明星・せいやとニュースキャスターの吉川美代子、それに進行役として、すりガラス越しの女性アナウンサーが座る。企画が企画だけに局アナの出演が叶わず、フリーの女子アナも今後のキャリアを考慮し、顔を晒すリスクを回避したいとのことだ。
ここまでは演出だが、『脱法TV』は「テレビとコンプライアンス」問題を真摯に問う番組だった。
最初の企画は、「タトゥー芸人」について。現在の地上波において、芸人の刺青は放送できないが、アーティストやスポーツ選手はOKとされている。
番組が提案する「脱法案」はこうだ。
「タトゥーが入っているアーティストが芸人になる」
案の補足として、「地上波でタトゥーは映せない風潮がある」とテロップが入り、進行の女性アナが「基本的に地上波でタトゥーはダメとされているんですが」と説明する。タトゥーを映すか映さないかの決定権は、ほかでもないテレビ局にある。にもかかわらず、まるで他人ごとのように「映せない風潮がある」「ダメとされている」としか説明できない。そうした送り手側の矛盾を強調しながら、「タトゥーが入っているアーティストが芸人になれば、テレビにタトゥー芸人が映せるのではないか」という検証に入っていく。
番組が協力を依頼したのは、$URVE¥(サーブ)という若い男性ラッパー。腕と脚にびっしりとイラストのタトゥーが入る。彼が自らピンネタを作り、1週間後のお笑いライブに出演するという企画だ。そのライブがテレビで放送できるかどうかを判断するのは、フジテレビのコンプライアンス担当者や番組プロデューサーをはじめとする「当番組コンプライアンス委員会」とのこと。委員会がNGと判断すれば、VTRは中断されカラーバーが入る。
ライブの前に、重要なシーンが挿入される。$URVE¥が作ったピンネタをフジテレビのネタ番組担当に見てもらうという。表向きは、ダメ出しを受けてネタのクオリティを上げましょうということだが、ここで『脱法TV』が突きつけるのは、いわゆる上層部ではなく、現場はタトゥー芸人についてどう考えているのかという問いだ。
ひとしきりネタ見せが終わり、$URVE¥が控えめに問う。
「芸人のタトゥーをテレビで映すことが難しいのは、なぜか」
答えるのは同局の『THE MANZAI』『爆笑ヒットパレード』『ENGEIグランドスラム』を担当する新井孝輔ディレクター。局員ではなく、制作会社Platformの所属で、フジテレビ以外でもネタ番組を数多く担当している。
「(タトゥーが)武器になるなら、それはそれでいい。タトゥーも触れていいですよという、ひと笑い。笑いになれば何でもいい」
それが現場の答えだった。
$URVE¥の左腕には「EAZY EAZY」と彫られている。$URVE¥は芸名を「EAZYたつろう」とし、ネタの合間に「EAZY EAZY!」というブリッジを挟むことを決める。
それが$URVE¥と『脱法TV』のやり方だった。これなら現場はOKだ。コンプライアンス委員会とやらは、どうなんだ。
ライブ当日、$URVE¥は緊張しながら舞台裏にいる。客電が落ち、出囃子が鳴る。明転。「EAZYたつろう」が舞台に登場した瞬間に、映像はカットアウト、カラーバーになる。
タトゥー芸人のネタは、1秒たりとも放送されなかった。それまで普通に映っていた$URVE¥という人物が、「EAZYたつろう」になってネタを始めようとすれば、その瞬間にNG人物となるのだ。
くしくも「EAZYたつろう」が舞台に上がる直前、有吉が「これで芸人だよ」とつぶやいた。それは、「板の上、客前に立った瞬間にラッパーやアーティストではなく、ひとりの芸人として、ほかの芸人と平等に評価される立場になるよ」という意味だった。だが皮肉にも「タトゥー芸人・EAZYたつろう」は評価の場を与えられることすらなかった。タトゥーラッパーの$URVE¥は、ずっとテレビに映っていたのに。
「タトゥー芸人はテレビに映さない」それはフジテレビの、鉄の意思だった。
そして、その根拠がいかに薄弱であるかも、『脱法TV』は白日の下に晒す。
「タトゥーを見せた状態でネタをするという点では、ここで前例を作るということになるため判断が難しく、現時点ではここで終了」
NGにするが、根拠はない。それがフジテレビにおけるコンプライアンスの現状だった。
その後も、乳首、海賊版ガチャピン、大人のビデオなど、さまざまな「テレビで出来ないこと」を検証していった『脱法TV』。中でも「EAZYたつろう」の企画は、出色といえる出来だった。
少なくとも現場はまだ問うているし、戦おうとしている。そのことがわかっただけでも、テレビの未来を信じていいと思えた。
(文=新越谷ノリヲ)
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