ゾフィー最終章『しくじり先生』で“解散の真相”を告白した意味
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6日に解散したお笑いコンビ・ゾフィーが、10日公開の『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(AbemaTV)に出演。解散に至るまでの経緯や、今後の展望について語った。
いろいろなことを考えてしまう番組だった、本当に。ゾフィーはいいコンビだと思うし、解散は寂しいよなという気持ちはある。いずれにしろ、もう結論は変わらないわけだから、取り留めなく、思ったことを記録しておきたい。
まず、この解散発表の後に、こんな番組を放送する意味があるのかと感じた。例えば、コマンダンテは何も言わなかったことで多くのファンを置き去りにしたし、赤もみじはYouTubeで全部言いすぎて(言わされすぎて)禍根を残している。どちらがいいと簡単に言える話ではないが、解散を“見世物”にするには、それなりの理由が必要だろう。そう考えた。
上田航平も、それはわかっていた。番組冒頭、自分たちが解散の経緯を語ることで「誰かがハッピーになれるかもしれない」と言った。
思えば上田は、決して「自分たちだけが売れればいい」という芸人ではなかった。「コントで食えるようになる芸人が増えてほしい」という思いからユニット「コント村」を立ち上げ、村長を名乗っていた。かつて『日村がゆく』(AbemaTV)に出演した際には、音楽の「Spotify」のようなコントのサブスク「コンティファイ」を作って、コント芸人の間で利益を配分したいと、具体的なアイディアを熱弁していたこともある。そういう芸人が、自分たちの解散の経緯を語ることで「誰かがハッピーになれるかもしれない」と言うのだ。真剣に耳を傾けないわけにはいかなかった。
解散の理由は、思いのほかシンプルだった。「チェだぜ!」でおなじみの相方・サイトウナオキが、酒と女遊びをやめない。特に女遊びが深刻で、女性スタッフに手を出すこともある。上田に、サイトウの妻から電話がかかってくるようになった。サイトウには、娘もいる。事務所スタッフや仲のいい芸人を集めた会議は8時間に及んだ。その最後、上田は「酒をやめてゾフィーがんばるか、解散して酒飲むか、どうする?」と迫り、サイトウが「酒飲みたいです」と答えたことで、解散が決定したという。
サイトウは、上田がこの一部始終を話している間、どこか虚ろな目をしていた。時おりスイッチを入れて芸人らしいリアクションを取るものの、やはり思うところがあるように見える。
上田の話を受けて、サイトウは「言い分がある」という。「私にも信念というものがある」と。
「芸人なんだから、酒と女遊びは絶対やめられない」それがサイトウの信念だった。
マジかよ、サイトウ、それはチェだぜ……そう思った。
「そもそもチヤホヤされたくて、モテたくてやってる。酒は飲みたい。これがなくなったときに、やるアレ(意味)が見つからなかった」
コントに対して、お笑いに対して、とことんストイックな上田の話を聞いた後に、これである。チェだぜ、どころじゃない。こいつマジでクソだなと、誰もが思うはずだ。だが、これも現実なのだ。
「今、すごく売れてるとか、CM抱えてるとかだったら、もちろんこんなのないですけど、今の状態では捨てられなかった」
サイトウが酒を飲み、不倫を楽しもうとするのは、それはサイトウの問題だ。だが、ゾフィーがすごく売れているわけではない、CMを抱えていないというのは、サイトウ個人の問題ではない。ゾフィーの問題なのだ。
「チヤホヤされたくて、女にモテたくてやってる。じゃなきゃ意味がない」
まったく悪びれることなく、そう公言する芸人もいる。ネタに真剣に向き合うわけでもなく、賞レースでの実績もなく、タワマンと高級外車と女遊びを主たる目的に活動してきた芸人だっている。この日の収録スタジオの、ゾフィーの目の前にいる。平成ノブシコブシ・吉村崇は、そういう芸人だ。そして、すごく売れている。
誰かがサイトウに石を投げるなら、平等に吉村にも投げるべきだろう。売れているか売れていないかは結果論であって、もしくは今現在というタイミングでの単なる経過であって、サイトウが他人から「そんな考えだからダメなんだ」と叱責されるようなスジのものではない。競争社会に身を置く限り、そこにはウィナーとルーザーが存在する。
例えばアルファルファは……と、20年前に消滅したお笑いコンビが頭に浮かんだ。コントにとことんストイックな飯塚悟志は、モチベーションを表に出さない豊本明長とのコンビ活動に行き詰まりを感じ、解散を考えていた。偶然そのタイミングで、まるで天使のように角田晃広が舞い降り、東京03を結成するに至った。
「売れてなかったら解散していた」と明かす芸人は少なくない。芸人が売れる唯一の方法は「やめないことだ」とはよく言われるが、芸人がやめる理由のほぼ100%が「売れなかったから」であることは間違いない。繰り返しになるが、ゾフィーがすごく売れているわけではないのは、サイトウ個人の問題ではなく、ゾフィーの問題だ。
上田は海外でも自分のコントが通用することを実感し、コント作家としてアメリカを目指すという。そしてまた「コントを作る人が食えるようになる道筋を作りたい」と明かした。
「『解散』っていう言葉だけで、みんな寄ってきて『やめろ』って言うんだけど、もしかしたら僕らみたいな、方向性が違うのに無理やり同じ場で活動させられてる人もいるかもしれないと考えたときに、これ(解散の理由)は言ったほうがいいなと思って、この機会をもらった」
それが、上田がこの企画を受けた理由だった。「解散という選択肢も、前向きではある」と、ゾフィーほどのコンビが身をもって語ることで「誰かがハッピーになれるかもしれない」というのが、上田の真意だった。
いずれにしろ、38歳の上田と5歳年上のサイトウが、よく考えて話し合って決めたことだ。外野がとやかく言っても仕方がないし、スタジオの吉村、オードリー・若林正恭、アルコ&ピース、ハライチ・澤部佑が「とやかく」言わないギリギリの線でガヤを飛ばし続けることで、シリアスな解散報告はお笑い番組としても成立していた。
番組の最後に、サイトウが上田への感謝と謝罪を伝える。もう、まったく芸人のトーンではない。ずっしりと、スタジオの空気が沈んでいく。サイトウもうつむいている。
「チェだぜ!」
吉村がその空気を切り裂いた。
「チェだぜ!」
サイトウが瞬時に反応する。
ああ、これができるのだ、吉村は。モテたいだけの芸人から、モテたいだけの芸人への、これ以上ないエールだった。
(文=新越谷ノリヲ)
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