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カード会社による「表現規制」との指摘も…ニコニコ、Mastercardでの決済停止で波紋

※イメージ画像:GettyImagesより

 ニコニコ動画やニコニコ生放送などを提供する動画投稿サイト「ニコニコ」(運営:ドワンゴ)が、一部Mastercardを使った有料サービスの決済を一時停止したと発表した。大人気だった「猫動画」への非公開要請をめぐるカード会社と運営のトラブルが原因ではとみられ、一部で「実質的な表現規制では」との声が上がるなど波紋が広がっている。

 ニコニコは8日、サイト内で「諸般の事情により、2023年11月8日22時頃から、一部Mastercardで有料サービスの決済を一時停止させていただくこととなりました」などと発表。こうしたお知らせを当日に告知するというのは普通なら考えられず、この時点でキナ臭さが漂っていた。

 理由は「諸般の事情」としか説明されていないが、このお知らせの前にある人気動画が非公開にされており、その動画が原因になっている可能性が高いことが分かった。問題の動画は、2014年に投稿された「汚い仔猫を見つけたので虐待することにした(1匹目)」と題するもので、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の有名なコピペ文になぞった内容だ。

 タイトルだけ見るとギョッとしてしまうが、実際は「嫌がる子猫を風呂場に連れ込みお湯攻め」「お湯をかけた後は薬品を体中に塗りたくりゴシゴシする」などとして、汚れている子猫を優しくお風呂に入れるなど手厚く保護するという、ほっこり系の動画だ。長らくユーザーたちに愛されていた動画だったが、投稿主は自身のユーザーページで「この動画に対してMastercard社から非公開要請があった」とし、10月8日に非公開になっていたと明かした。

 要請の理由は「動物虐待などの要素を含むため、違法もしくはブランド棄損に当たる禁止商材に該当する」というもので、人力チェックでの誤解なのかAIの誤判定なのかは分からないが、タイトルをそのまま受け取ってしまった可能性があるようだ。投稿主が公開したニコニコからのメールによると、同社は「クレジットカードブランドからの指摘や要請があった場合、その判断でニコニコ全体でのクレジットカード利用を制限される場合があるため、本件対応に至っている」と非公開にした理由を説明している。

 ただ、ドワンゴは「本件については、当社としても指摘内容が正確なものであるとは疑わしい」「事実確認や改めての内容精査要請を行い、カード会社から対応撤回の要請があれば動画を復旧する」とも記しており、その後に今回の「Mastercard決済の一時停止」を発表したため、動画をめぐってドワンゴとカード会社が衝突しているのではと推察されているようだ。

 Mastercardをめぐっては、昨年7月にDMM.comが決済契約の終了を突如発表。成人向け作品を扱う「FANZA」(運営はDMMから分社化したデジタルコマース)も同時にMastercardとの決済契約が終了となり、一部では今回と同じようにコンテンツの表現をめぐるトラブルがあったのではと指摘されていた。

 実際、海外ではカード会社がアダルト系サイトに決済停止を突き付けたり、PayPalが成人向けコンテンツの決済に厳しいルールを適用していたりといった事例が見受けられ、一部では「決済停止をちらつかせた検閲行為」とも指摘されている。日本でも同じような影響があるようで、昨年4月にはある成人向け同人漫画家がSNSで「取引先のダウンロード業者から『クレジットカード会社より禁止表現の指摘が入った』とかで作品紹介文が差し替えになるとの連絡が来た」と告白し、その例として「凌辱→汚染」「虐待→おしおき」「折檻→制裁」「強制→アグレッシヴ」などのように表現が変更されるようだと明かしていた。

 これに対して、ネット上では「カード会社にそんな権限があるのか」「カード会社が表現規制をしたがる理由が分からない」といった声が相次いでいる。国際的なカードブランドによる“検閲”が始まった背景には、児童ポルノをめぐるアメリカでの裁判の影響があるようだ。

 2020年、カナダ発の大手ポルノ動画サイト「Pornhub」に児童ポルノが投稿されていたことが問題になり、性的搾取と戦う国際活動団体などが、クレジットカード会社に対して当該サイトでの決済を停止するように要請する事態に。さらに、10代前半当時の性的動画を掲載されていた女性がアメリカで裁判を起こし、サイトの運営会社だけでなく、決済業者であるVisaに対しても「支払いを処理することで法律に違反した」と主張。この訴えについて、2022年に米カリフォルニア州の連邦地裁が「サイトに決済手段を提供しているVISA社は、児童ポルノから収益を得ることを支援する意図があった」と判定し、カード会社の責任を問う姿勢を示した。

 リスクヘッジなのか、こうした一連の騒動をきっかけとして米国を拠点とする国際カード会社が決済停止をちらつかせて“検閲行為”に及ぶ事例が増えたと指摘されている。

 非人道的な動画が公開されているとなれば許されないことだが、先述のニコニコのケースは完全に誤解とみられ、カード会社側がネットサービスの生命線ともいえる「決済」の停止をちらつかせ、間違った認識で主張を押し通そうとしているのであれば問題だ。カード会社がこのような雑な認識での要請を繰り返せば、サービス側がトラブルを恐れて必要以上に委縮し、表現の自由が失われるおそれがある。表現問題については法規制に目が向きがちだが、私企業による「規制」はそれ以上の脅威といえるかもしれない。

SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。

さとうゆうま

最終更新:2023/11/11 09:00
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