立てこもり事件、警察の配置丸見えのテレビ中継に批判…報道ヘリの爆音で「防災無線聞こえない」との苦情も
#マスコミ
埼玉県蕨市の郵便局に拳銃を持った男が立てこもった事件に関して、メディアによる“報道被害”が起きていたとして批判が集まっている。
10月31日の午後1時すぎ、埼玉県の戸田中央総合病院内で発砲があり、医師と患者の2人が負傷。発砲したとみられる80代の男はバイクに乗って移動し、午後2時すぎから蕨郵便局に立てこもった。女性職人2名が人質になっているとの情報が伝えられ、テレビ局など大手メディアは報道ヘリを飛ばして郵便局を空撮し、ちょうど放送時間と重なった日本テレビ系の『情報ライブ ミヤネ屋』とTBS系『ゴゴスマ~GOGO!Smile!~』は緊迫した現場の情報を生中継した。
中継は上空からのヘリ視点を中心に進行されたのだが、パトカーの陰で盾を持って待機している警察官や建物の側面に回っている捜査員の姿など警察の人員配置が丸見えに。状況によっては突入のために刑事部捜査1課特殊班「SIT」や特殊急襲部隊「SAT」の投入も予想されたことから、ネット上で「犯人がテレビ見ていたらどうするんだ」「警察の動きや配置をバラしちゃダメでしょ」といった声が相次いだ。もし警察の動きがテレビを通じて犯人に知られたら、犯人が激高して人質の生命に危険が及ぶ可能性もあった。
『ゴゴスマ』は、まさに警察の配置を上空から丸見え状態で中継し、司会の石井亮次アナは「郵便局の前にはパトカー数台が止まっています。捜査員が盾を持って身構えているという、こういう状況です」などと伝えていた。これに対して、コメンテーターとして出演していた菊地幸夫弁護士が「ちょっと」と切り出し、「郵便局ですから、例えば待合コーナーにテレビがあるとか、もしかしたら中継を犯人が見ている可能性もあると思うんですよね」と指摘。続けて「どんな様子なのかとか、ちょっと考えながら放送したほうがいいと思うんですね。だから『特殊部隊が今来ました』とかですね、そういうことはあまり言わない方がいいのかなとか、そんなことを考えたりしてます」と、謙虚な言葉遣いながらもしっかりと忠告したのだ。
その後はリアルタイムではない映像や近隣住民へのインタビュー、郵便局の入り口のみをとらえた映像などに切り替わり、ネット上では「的確な指摘ができるコメンテーターがいてよかった」「このコメンテーターさん、めちゃくちゃ有能だな」「逆に、菊地弁護士以外は何とも思わず放送してたのヤバくない?」といった声が上がった。番組としては報道規制や報道協定がなかったのでヘリから中継していたのだろうが、人命にかかわる人質立てこもり事件などでは「作戦行動中の捜査員を映さない」といった配慮は暗黙のルールとすべきなのかもしれない。
今回の事件でメディアの行動が問題視されたのは、これだけではなかった。事件が起きた蕨市では、発砲事件が起きたという情報を防災行政無線で市民に呼びかけていたのだが、SNS上で「蕨郵便局の近くに住んでるけど、TV局のヘリが爆音で飛び回ってて防災放送が全然聞き取れなかった。街中は普通に散歩してる人歩いてるし…報道も大事だけど近所の人たちの安全を優先してほしい…」という声が噴出していたのだ。
さらに「もともと防災無線は聞き取りづらいのにヘリの音あったら無理だろ」「上空を飛んでいるヘリの音が子どもたちの不安をあおります。 マスコミの皆さま、自重していただけますでしょうか」といったコメントも散見された。近隣の戸田市なども含めて複数の報道ヘリが周辺を飛び回っていたとみられ、男の身柄が確保された後の深夜もヘリの音が鳴りやまなかったとの声がある。
今回は幸いにも通行人などに危害が及ぶことはなかったが、無線が聞き取れなかったせいで、お年寄りや子どもが知らずに現場周辺に近づいてしまう事態が起きる可能性がなかったとはいえない。今回のような事件だけでなく、大規模災害時に報道ヘリが飛び回ると「がれきの下で救助を求める人の声が聞こえなくなる」という指摘も以前からあり、改めて報道ルールを考え直すべき時期を迎えたといえるのかもしれない。
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