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「すき家」従業員が「ひとりできません」と独断で営業休止…飲食業の倒産増加に拍車かける「人手不足」の深刻度

すき家オフィシャルサイト

 大手牛丼チェーン「すき家」の都内の店舗が、店員が手書きしたとみられる「ひとりできません」と記された貼り紙をして営業を休止していたことが話題になっている。貼り紙を撮影したSNS投稿が拡散され、飲食業界の人手不足を物語っているとして波紋が広がっているようだ。

 話題となっている貼り紙の写真は、X(旧Twitter)でウーバーイーツの配達員をしているというユーザーが投稿。店舗のガラス窓に「7時まで閉めます。ひとりできません」と記された貼り紙があり、端っこに小さく書かれている「ごめんなさい」という文字は横線で消されている。投稿者は「すき家店員のワンオペに対する魂の叫びだね」とのコメントを添え、この画像は他のサイトやユーザーによって転載されるなどしたことで広く拡散された。

 深夜に従業員ひとりでのワンオペ営業を迫られ、限界に達して独自に休業を決断したのではないかと推測されたことから、ネット上では「店員さんかわいそう」「つらかったんだろうなあ」「文章が外国の人っぽいから余計に深夜のワンオペとか気の毒」などと同情の声が飛び交った。

 「すき家」をめぐっては、かつては深夜帯を中心に接客・調理・洗い物などの業務をすべてひとりでこなすワンオペ体制の店が少なくなかったが、強盗被害が多発したことや従業員の負担が大きいとの批判を受けたことで、午前5時から9時までの早朝帯に限ってワンオペを認める方針に転換。しかし、昨年1月に名古屋の店舗で50代のパート女性がワンオペでの勤務中だった早朝5時半ごろに心筋梗塞で倒れ、別の店員が出勤する約3時間後まで放置されて死亡する事件が発生。これを受け、同社は同年6月に早朝帯も含めて全時間帯で複数勤務体制を徹底すると発表していた。

 もし今回の貼り紙の店がワンオペ勤務をしていたのならルール違反となりそうだが、同社は26日付の「J-CASTニュース」の記事で、深夜から早朝にかけ従業員2人で勤務する予定だったが急きょ1人が出勤できなくなったと説明。本来は想定外のワンオペとなった場合は本部に連絡した上で営業休止にするというルールだそうだが、その認識が従業員に十分に伝わっておらず、深夜2時半ごろまでワンオペ営業をしていたという。その後、従業員の独自の判断で貼り紙を掲示して営業を休止し、別の従業員が出勤した7時ごろに再開したそうだ。

 今回の一件は突発的な出来事で「ワンオペ営業を強いられた」というわけではないそうだが、飲食業界の人手不足は深刻化する一方となっている。

 東京商工リサーチの発表によると、今年上半期の飲食業の倒産は過去30年間で最多の424件(前年同期比78.9%増)となった。コロナ禍で受けた各種支援金が打ち切られたことや原材料費の高騰なども影響したが、特徴的なのは今まであまりなかった「人手不足」が倒産の原因となるケースが少なからず見受けられたことだ。

 正確にいえば、物価高騰によるコスト増大で苦しんでいたところに、人手不足が倒産の決定打となるようなパターンが目立つ。飲食業界はコロナ禍で外食需要が落ち込んだことで人員削減を進めたが、需要回復後も労働力が戻ってきていないのだ。本来なら賃金を上げて人を集めるべきだが、コストが増えているので人件費に十分な資金を回すことができず、時短営業や休業などをしなくてはならなくなり、利益が落ち込んで倒産に追い込まれる事業者が増えているのだ。

 そもそも飲食業界は賃金水準が低く、正社員を減らしてパートやアルバイトの比率を上げ、人件費を抑えることでビジネスが成り立っていたという歴史がある。アメリカ発の会員制倉庫型スーパー「コストコ」が地方に出店し、時給1500円でアルバイトを募集したことで、時給950円などで募集していた地域の飲食店が「人材確保が難しくなる」「1500円は無理」などと嘆いていると伝えられ、ネット上で「1500円が高いという認識がおかしい」「これをきっかけに賃金相場を上げるべき」などと議論を呼んだこともあった。

 時給を上げたからといって人が集まるとも限らず、沖縄では地元紙が「国際通りの飲食店は、時給2000円を提示しても従業員を十分に確保できていないケースがある」と報道。賃金問題に加え、人手不足の影響もあって従業員の業務負担が大きくなっていることも「割に合わない」と敬遠される理由になっているようだ。外国人労働者に期待すべきとの意見もあるが、日本は長引く円安によって「魅力的な出稼ぎ先」ではなくなってきている。また、最近は面接なしで隙間時間に働けるバイトマッチングアプリが注目されているが、人手は集められても従業員の質が担保できないという問題が生まれる。

 何より待遇改善が急務となるだろうが、それだけで問題解決になるかは不透明で、倒産増加に拍車をかけている飲食業界の人手不足をどのように解消していくのかという難題に事業者は今後も頭を悩ませることになりそうだ。

SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。

さとうゆうま

最終更新:2023/10/30 18:00
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