『キングオブコント2023』非・感傷的ネタレビュー【ファイナルステージ】
#キングオブコント #サルゴリラ #ニッポンの社長 #カゲヤマ
■ニッポンの社長「手術」
狂気一辺倒に見えるが、この日の『ベストワン』でビスブラが披露した彫り師のネタと似た構造で、専門家に無茶をされてダメージを負っているクライアントが、身動きが取れないゆえに強引にそれを止めさせることができないというジレンマを描いたコント。
要するに、おそらく2人の関係性の原型はさまぁ~ずが発明したといわれる美容室ネタで、そのひとつの発展形なのだが、医者が手術中に患者の内臓を「出しすぎる」という着想からして、どこから降ってくるのか全然わからなくてすごい。「前髪、切りすぎじゃね?」が「出しすぎじゃね?」になっているということ。内臓出しすぎってなんだ。
美容室の設定に比べれば、より患者側に動きの制約が大きく、パワーバランスが一方的になりそうなところ「全身麻酔が切れる」という不条理を観客に飲み込ませることと、辻が異様な冷静さと寛大さを見せることで成立させている。
そういう強引さと緻密さ、ぶっ飛んだ発想と計算された段取り。そういうものがきちんと両輪で走っているからこそ、今回の「パワーこそすべて」みたいな流れの中で、しかも準備に時間がかかって不利に働く間があったにもかかわらず、ちゃんとウケてる。すごい。
■カゲヤマ「うんち」
このネタが大会通していちばん好きだった。というか『キングオブコント』史上でも上位に入るくらい好き。
しかも1本目で人間のガワを楽しむバカコントをやっておいて、2本目で内面の恐ろしさや不条理に訴えかけてくるという、鮮やかすぎるコントラスト。インテリジェンス、振り幅、正反対の方向性なのに2本ともカゲヤマのニンに合っているという周到さ。タバやん。が書き手として天才と称される意味がよくわかる。
「そのカギじゃない」「部屋が多すぎる」とか、ワードの部分でもう少し詰められる余地はある気もするけれど、往年の別役実とか、そっちの方面まで透けて見えてくるという、コントという枠からちょっとはみ出してる名作だと思う。
ちょっと設定脚本がすごすぎて、あんまり語れることがない。6回見た。これからも何度も見ると思う。ここまでの人たちが16年も日の目を見なかったという現実も怖ろしい。優勝してほしかった。というか、人間界の優勝。
■サルゴリラ「高校野球」
カゲヤマが人間界の優勝であるからして、この日のサルゴリラ、特に児玉にはちょっと何かが舞い降りていた感がある。たぶん魚だと思う。
2本目のネタは、決して驚くような仕掛けがあるわけでもないし、凝った構造があるわけでもないし、美しい展開があるわけでもない。単純なワードの積み重ね一点突破で、台本だけ読んだら「面白いけど、まあ」くらいの感じだと思う。というか準決の配信で見たときの印象も、「ああーバカバカしい、面白いけど」だけだった。
児玉があの膨大なセリフ量を、テンションを乗せたまま一切噛むことなく、走ることもなく、あの監督を通して面白いことを言う人ではなく、そういう監督として演じきったことが勝因といえば勝因だろうけれど、じゃあなんでそんな演技ができたのかはちょっとわからない。キャリアとか経験とか稽古量とか、そういうもので身につく技術ではなく、本当に何かこの日、見ている人が全員、児玉を愛してしまうオーラのような、スター性のような、そういうものが現出していたように思う。ネタの後半で「昔、お世話になった魚がいてな」というところでは、客席からちょっとお笑いでは聞いたことのない「ひょぅ~」みたいな悲鳴まで聞こえてきた。誰もが引き込まれ、奪われていた。ミラクルとか、マジックとか、そうとしか表現できないサルゴリラだった。赤羽が高校生役ってちょっと無理あるだろと思ってたけど、「変な可愛い世界」が成立してしまっていたので、まったく気にならなかった。
『キングオブコント』が、そういう奇跡の類を起こさないと優勝できない大会になってしまったのだとしたら、これは大変なことだと思う。
* * *
なるべく、この日起こったことだけを書こうと思った。彼らが「この5分」に賭けていたのだから、「その5分」の話だけをしたいと思った。これから、さまざまなメディアでさまざまな人生ドラマが語られるに違いない。感傷に浸るのは、そのときでいい。
最後にひとつ、言っておきたいことがある。そこにある長大なドラマは、いったん置いておく。
ナレーション、今日もカッコよかったよ、チャンプ。
(文=新越谷ノリヲ)
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