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日刊サイゾー トップ > エンタメ > お笑い  > 『キングオブコント』ネタレビュー1st後半

『キングオブコント2023』非・感傷的ネタレビュー【1stステージ後半】

1stステージ後半 | TVer

「1stステージ前半」からつづく

■ゼンモンキー「神社」

今まで見たことのある中でも、もっともオーソドックスでよくまとまっているネタを1本目に持ってきたという印象。ヤザキとむらまつと彼女の関係性の説明の手際にはほれぼれするし、脚本には一切のムダもソツもないように見える。

逆に言うとそのムダとソツのなさが、序盤から火力勝負になってしまった今回の大会では不利に働いた。ヤザキとむらまつが最初から最後までテンションが高いままなので、平板な人物に映ってしまっている。人物の厚みというか、彼女が好きだという本音の裏にある2人の個人的なフェチやエゴのようなものまで描ければ、よりパワーワードを生む可能性があると思う。つまりは、まだ伸びしろが大きいネタだということで。そこまでやんなきゃいけないの? とも思うけど。

それにしても、まだ芸歴4年。これで自己紹介は済んだし、ゼンモンキーは広く知られることで強くなるトリオに見える。ネタ中に観客が荻野の登場を待ち遠しく思うようになったら、もう無敵だろう。

■隣人「チンパンジーに落語」

橋本の妙な色気とチンパンジーのコントラストが冒頭から楽しいし、チンパンジーに落語を教えるという仕事をさせらている現状に対する諦念と、それでも情熱を持って指導法を工夫する人柄の良さもあって、こんな奇想天外なネタなのに全体として上品な雰囲気を醸しているのも不思議な魅力だった。

終盤に向けてパワーダウンしていったのは、この物語の本来の目的が提示できなかったことが原因のように思える。チンパンジーがチンパンジー語の落語を覚え、素直に座布団の上に座るところまでは想像できても、その先、依頼主が落語家に指導を依頼した理由が不明なので、感動的な展開に気持ちが乗せにくいし、脱走するというオチがどんな正解に対する裏切りなのか伝わってこなかった。

そんなの関係なく笑えればいいだろという話ではあるのだけれど、そうだったほうが笑えたんではないのかという仮定の話です。はい。

■ファイヤーサンダー「ものまね芸人」

むちゃくちゃ面白い設定。まずこてつがものまね芸人であることが明かされ、この時点で崎山はたぶんマネジャーなんだろうなと予想していると、少しして崎山もものまね芸人だったことがわかるという二重のバラシも絶妙で、この瞬間に2人がすごく仲がいいんだろうなという、関係性における過去の時間の経過が想像できて、一気に物語の世界が広がっていった。

「なんで日本代表より層厚いねん!」とか「俺らがゼロからものを生み出せるわけないやろ!」とか「なんかフレーズ残せ!」とか、いわゆる“ものまねあるある”も、見る側が想像するよりひとつ奥にあるものを拾ってきていてセンスを感じるし、それをきっちりパワーワードとしてハメてくる段取りも巧い。

さらにオチでは、今度は2人の未来も想像させてくれる。物語時間の前後数年という時間がくっきり想像できる脚本を5分のコントで仕上げてくる崎山の能力の高さには、舌を巻くしかない。

ここまでやって3組のファイナルにすら残れないとは。もう。

■サルゴリラ「マジシャン」

白状してしまえば、準決勝終了後に決勝10組の予想をしたときに15組くらい候補を挙げて、そこにサルゴリラは入っていなかった。そして、この「マジシャン」はサルゴリラの2本のうちでも弱いほうだと思っていた。つまりは、決勝に残った10組が用意していた20本のコントの中で、これがいちばん弱いと思っていたのだ。節穴である。このレビューは節穴が書いている。ごめんなさい。

あんまりこういう言い方は好きじゃないのだけれど、この日のサルゴリラは神がかっていたとしか言えない。笑いの神が2人に微笑んだとしか。なんか知らんが、全部おもしろかった。ピーチペンチを取り出したときに、消滅したはずの靴下ニンジンがイカ箱からはみ出してしまうという演技のミスもあったが、まったく気にならなかった。

構造としてはルールさんという冴えないおじさんのキャラコントと小道具大喜利を並走させながら、同じくらいの振り幅で崩しを重ねていくという、わりと複雑なことをやっているのだが、準決勝ではバラバラに見えたこの2つのラインがどうして決勝では1つにまとまって推進力を得たのか、あんまりよくわからない。こういうことがあるから、コントを見るのは楽しい。

■ラブレターズ「アパートの隣人」

「ポップなお芝居ができる部分があるので、それを見てもらいたい」という事前VTRの塚本のコメントが、実にしたたか。ホラーテイストのネタをかける前提で、始まる前からフリを入れていたことになる。

ハスキー犬を室内で放し飼いにしているという「ちょっと怖い家」から、いきなりトップギアで壁を叩いた溜口の「めちゃ怖い」までスピード感で一気に世界観に持っていかれるし、冷静で遠慮がちな塚本が本来の目的である「娘さんをください」だけは聞こえるように言いたいという強い気持ちも伝わってきた。

何が足りないとか、何がよくないとか、そういうことは何も思い浮かばないラブレターズらしい、ラブレターズの中でも歴代最強クラスのコントを歴代最強クラスの暴れっぷりで見せたと思う。3位のニッ社とは4点差。カゲヤマは下ネタだし、ニッ社はグロいし、サルゴリラはジジィだし、普通のライブなら「ラブレターズいちばん笑ったね」と言って帰る若い女性客も多くいるだろう。最後に、やっぱりちょっと凄まじい大会だったと実感させられた。

 * * *

「ファイナルステージ」に続く

(文=新越谷ノリヲ)

新越谷ノリヲ(ライター)

東武伊勢崎線新越谷駅周辺をこよなく愛する中年ライター。お笑い、ドラマ、ボクシングなど。現在は23区内在住。

n.shinkoshigaya@gmail.com

最終更新:2023/10/22 13:58
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