千鳥は「努力したことない」と語った……芸人にとっての「努力」とは何か
#千鳥
「わしとノブって、マジで努力したことってないよな」
お笑いに関して努力したことは一度もないと、千鳥・大悟は語気を強めた。
18日深夜放送のラジオ『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)に、千鳥がコンビでゲスト出演。今月から配信されているNetflix『トークサバイバー2』の番宣トークがおおかた済んだ後の一幕だった。
4度の『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)決勝進出は「選んでもらっただけ」、『THE MANZAI』(フジテレビ系)2年連続準優勝は「たまたま、運よく」。特に謙遜するわけでもなく、どちらかといえば自虐のニュアンスを込めて、千鳥の2人はまったく同じトーンで話す。
「2人とも、これやろうぜっていうのが恥ずかしいから」
「どっちかがしっかりしてたら、ケンカしてたと思う」
脱力したまま、悠然と、千鳥は天下を取った。だからといって、汗をかいていないわけではない。この日の収録スケジュールも平日の昼間の2時間を「Netflixの力を使って強引にこじ開けた」(佐久間)というほど多忙な日々を過ごし、当の『トークサバイバー2』でも、もっとも過酷な撮影を強いられたのは、ほかならぬ大悟だった。
芸人にとっての努力とはなんだろうか。そんなことを考えてしまう。
「囲碁将棋なんか、すげえなって思いますよ、全部計算して、面白いし」(ノブ)
今年5月の『THE SECOND』(フジテレビ系)でベスト4まで勝ち上がった囲碁将棋は、一言一句練り上げたワードを正しい順序で積み上げていく漫才師だ。あるいは20年の『M-1』で、ナイツ・塙宣之をして「(エントリー数)6,000組の中で、いちばん上手い」と言わしめたインディアンスは膨大な稽古量で知られるし、昨年の『M-1』王者・ウエストランドの井口浩之は「僕がいちばんがんばってる」と言い切ってはばからない。
一方で千鳥は、「ネタ合わせの時間を決めるだけで精一杯」「まあ明日までに考えとくわ、と言って、そのまま舞台で初めてボケを聞く」といった風合い。本人たちにそんなつもりはなくとも、やはり「わしらは天才やから」と受け取ってしまいそうになるスタンスだ。
大悟はそうなのだろう。早い話が、最初から天才だったのだと思う。
だが、ノブに関して言えば、大阪時代とは大きな変化を感じる。チンピラ風情のまま『M-1』決勝にたどり着き、2年連続で最下位となって悪態をついていた千鳥を今ほどメジャーな存在にしたのは、明らかにノブの努力によるものに見える。
ノブは一時期を境に、徹底したイメージ戦略の実行に舵を切った。ミーハーを隠そうとせず、佐藤健、川谷絵音、本田翼らと積極的に交流し、それをマメにInstagramにアップする。そのフォロワーが、298万人に達する。家庭用消臭剤のCMの顔になる。03年の『M-1』初登場時はもちろん、14年に『ゴッドタン』(テレビ東京系)で「千鳥ノブにピンでも入るようにしてあげよう」企画が放送され、“格差コンビ”として取り扱われていたころと比較すれば、隔世の感がある。
大悟はほとんど変わっていない。酒とギャンブルのイメージは染みついて離れないし、あいかわらず肌もすぐ荒れる。その大悟の毒を残したままポップで無害なイメージを定着させたのは、ノブの功績にほかならない。そのブランディングに使った労力は途方もないはずだ。
ノブがそれを努力と呼ばないのなら、大悟も「いや、ノブは努力してるよ」とも言わない。そんなことは誰の目にも明らかなのに、言わない。その代わりというわけではないだろうが、大悟はよく「千鳥」を主語に使う。
「千鳥は、あの芸人、好きなんよ」
「千鳥はあんまり、そういうこと考えてへんなぁ」
互いを尊重し合うより少し濃い、互いを包摂し合っているコンビに見える。強いはずだ、大悟とノブ、千鳥は。
(文=新越谷ノリヲ)
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