『葬送のフリーレン』、成功が約束されている金ロー初の試み
#金曜ロードショー #しばりやトーマス金ロー
40年近い歴史を持つ日本テレビ系「金曜ロードショー」。さまざまな作品を紹介してきた同番組ですが、2023年9月29日の放送は番組史上初となるでしょう。なぜなら今冬からはじまるアニメ新番組の初回2時間スペシャルが放送されるから。
「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中のマンガを金曜夜11時に新設される「FRIDAY ANIME NIGHT」(略称フラアニ)でアニメ化、その初回部分をお送りする『葬送のフリーレン 初回2時間スペシャル ~旅立ちの章~』が今週の金曜ロードショーだ!
『葬送のフリーレン 初回2時間スペシャル ~旅立ちの章~』はこんなエピソード
魔族を率いる魔王によって危機に瀕していた国を10年に渡る冒険の末、魔王を退治し平和を取り戻した勇者ヒンメル(CV:岡本信彦)とその一行は王国に凱旋する。
国中をあげての祝賀会が行われる最中、50年に一度降り注ぐ半世紀(エーラ)流星群が夜空に現れる。
その美しさに見惚れる中、不老長寿であるエルフ族の魔法使いフリーレン(CV:種崎敦美)は「街中では見えにくい。もっときれいに見えるところがあるからまた50年後に案内する」と何の思いれもなく言い放つ。ヒンメルらは再会を約束し、別れる。
50年後、約束を思い出し王国に戻ってきたフリーレンはヒンメルと再会する。だが彼は昔の面影を残すものの、頭髪も禿げ上がり、杖をついて歩く老人になっていた。それはそうだ。ヒンメルは勇者とはいえ普通の人間だから。
同じく人間の僧侶ハイター(CV: 東地宏樹)、エルフ族ほどではないが長命のドワーフ族のアイゼン(CV: 上田燿司)らもすっかり老いていて、未だに十代の少女と見まがう外見のフリーレンとの再会を喜ぶ。
4人は「綺麗に見える場所」で再び半世紀流星群の美しさに目を奪われる。そしてヒンメルは「最後の冒険」を終えて寿命を終える。
伝説の勇者の国葬が行われ、参列した国民らが涙する中、悲しみもせず立ちつくすフリーレンを見て「仲間だったのに、薄情もの」と蔑む声が聞こえる。
「たった10年一緒に旅しただけで、この人のことは何も知らなかった」
事に気づいたフリーレンの目からは涙がこぼれ落ちる。
1000年以上の時を生きているエルフ族のフリーレンにとって10年は瞬きぐらいにしか感じられず、ヒンメルらにとってかけがえのない美しい思い出だった10年間には思い入れも何もなかった。
何も知ろうとせず、何も知らなかったフリーレンは「人のことを知る」旅に出るのだった。
この人気マンガがどうやってアニメになるのか?
『葬送のフリーレン』はよくある勇者もの・魔王もののパロディとして始まる。普通は勇者一行が魔王を倒す冒険に出るのが物語のはじまりだ。ところが『葬送のフリーレン』は冒険が終わってすでに魔王が倒されたところから開幕するという逆転の発想が面白い。
よくよく考えると、RPGの勇者たちは魔王を倒した後、何をして生きていくのか?それを勇者ではなく、パーティ(仲間たち)のひとりを主役にして展開する。
フリーレンは1000年以上の時を生きている種族だから、考え方が他とは違う。人間を相手に「50年後にまた会おう」なんてさらっと言ってしまう。自分にとっては一瞬の出来事だけど、人間の50年は……相当長いよ……。
仲間たちとの10年間の冒険も「人生の100分の1にも満たない」冒険に出る時に弟子を取らないのかと聞かれて「色々教えてもすぐに死ぬから時間の無駄」とそっけない。長寿の者から時間の無駄って言われちゃあねえ……。
ヒンメルは冒険の途中で救った町々で「お礼」として自分たちの像をつくってもらう。フリーレンにその理由を聞かれたヒンメルは「君が未来でひとりぼっちにならないため」だと。
10年間の冒険が遠い記憶になっても、像があれば自分たちが確かに存在したことの証明になる。1000年以上を生きるフリーレンとその10分の1も生きない人間との埋めがたいギャップがなんともいえない笑いを誘う。
フリーレンは趣味である魔導書を収集する旅を続ける。集めるのは役に立つのかどうかもわからない本ばかり。「かき氷が出てくる魔法の本」(シロップは出ない)「服が透けて見える魔法の本」(それはちょっと欲しいかも)といったものを集める。集めても集めても世界中のありとあらゆる魔法の本があるので、終わらない。マニアの収集は死ぬまでやっても終わらない。千年以上の寿命があっても、だ!
この世界では魔王は滅んでも配下の魔族たちはまだ生きているので、実は戦争は終わっておらず、あちこちで戦いは続いていた。普通の漫画なら生死を賭けた戦いが繰り広げられる熱い展開になるはずが、『葬送のフリーレン』は妙にテンションが低く、熱くならずに冷めた視点で物語が進んでゆく。ローテンションでオフビートの利いたタッチで展開するあたりが他の作品とは違う独特の面白さを誇っており、ジャンプやマガジンといった体育会系ではない、どちらかというと文科系のサンデーで連載しているのは納得。
旅の過程で「人を知ろうとする」目的を得たフリーレンはハイターの弟子だった少女フェルン(CV:市ノ瀬加那)に魔法の指導をする。老い先短いハイターの頼みを聞き入れ、彼女を一人前にしてやる。
フェルンの成長を見届けたハイターは戦災孤児であった彼女を引き取った話をし、自分の寿命が尽きる前に旅立たせてほしい、これ以上、誰かを失うところを見せたくないというが、フリーレンは告げる。お前がするべきことは、彼女に別れを告げて、たくさんの思い出をつくってやることだ、彼女は別れの準備ができているのだから、と……。
弟子を取ることなんか時間の無駄だといい、10年間の冒険の思い出すら一瞬のことだとしていたフリーレンが!
オフビートの笑いの中に心を揺さぶるキャラクターのドラマやセリフが忍ばせてあり、単なるパロディか?といった先入観を裏切ってくれてたまらない。
この人気マンガがどうやってアニメになるのか? という部分でも楽しみだ。
アニメ制作は『サマーウォーズ』『マイマイ新子と千年の魔法』『きみの声をとどけたい』『若おかみは小学生!』『金の国 水の国』などの高クオリティの作画を誇る劇場用アニメで知られるマッドハウス。
音楽は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のEvan Call、監督は2022年最大の話題作『ぼっち・ざ・ろっく!』の斎藤圭一郎という、最初から成功が約束されたかのような布陣ではないか。
TVアニメの初回2時間スペシャルを金ローでやるという新たな試み、期待を裏切らないと思われる。作品自体は傑作なのだから。
そんな中、唯一の突っ込みどころがオープニング主題歌が音楽ユニット、YOASOBIだということ。タイトルが……『勇者』!
YOASOBIはアニメ『【推しの子】』の主題歌『アイドル』をヒットさせたが、アイドルをテーマにした作品で『アイドル』ってそのまんまだよ!『葬送のフリーレン』も勇者の出てくる物語だから『勇者』って……これがZ世代(すでに死語)の感覚なのか!?
物語は王道の物語をひねっているのに、主題歌はそのまんまなんだね……。
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