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『VIVANT』タイトルどおりの「生きている」可能性と未回収の伏線に高まる続編への期待

『VIVANT』タイトルどおりの「生きている」可能性と未回収の伏線に高まる続編への期待の画像
ドラマ公式サイトより

 40年のときを経て再会した親子の物語は、壮大な冒険の果てに衝撃の結末を迎えた。堺雅人主演のTBS系日曜劇場『VIVANT(ヴィヴァン)』は9月17日、最終話が放送され、全10話の物語が幕を閉じたが、余韻が冷めやらぬまま翌日を迎えた視聴者も多かっただろう。さらに、重要な人物の生存を匂わせるセリフや、回収されないままだった伏線などから、早くも続編を期待する声が多い。

 丸菱商事に勤める冴えない商社マン・乃木憂助(堺雅人)が誤送金トラブルに巻き込まれるところから始まった『VIVANT』の大冒険。中央アジア「バルカ共和国」での太陽エネルギープラント事業計画のため、取引先のGFL社に契約金1000万ドルを送金したが、翌日なぜか送金が1億ドルになっていることが発覚。130億円の損失となりかねないこの問題を解決すべく、乃木は1人でバルカ共和国のGFL社に向かう……というのが物語の出発点だった。

 あらすじやキャストの役柄などがすべて伏せられたまま始まった大冒険は、雄大なモンゴルの風景と息をつかせぬアクションで視聴者の心をつかんだ“バルカ脱出編”の序盤から、日本に戻ってからは誤送金事件を引き起こした犯人捜しをめぐるサスペンス/ミステリー要素で考察を盛り上げた。そして乃木がただの商社マンではなく、自衛隊の陰の諜報部隊「別班」の一員であり、謎に包まれた国際テロ組織「テント」から日本を守るために行動していることが明かされた後半では、ふたたび舞台をバルカに移し、テントの謎が紐解かれると共に、日曜劇場らしい親子・家族といった「愛」の要素が主題となるという、3部構成で楽しませるエンターテインメント作品だった。

 主人公・乃木もまた、誤送金の濡れ衣を着せられる冴えない商社マンから、ミリタリースクールを全科目主席で卒業するほど優秀な陰の諜報員、そしてテントの創始者でリーダーであるノゴーン・ベキ(役所広司)の実の息子、とそのキャラクターが物語の変化と共にカメレオンのように切り替わっていく。別人格・Fの存在と合わせ、乃木の謎めいたキャラクターと、それを支える堺雅人の演技力が本作を引っ張ったことはいうまでもない。

 乃木が「ベキの息子」という立場を利用して、別班を裏切ったフリをしてテントに潜入していたことが第9話ラストでバレてしまい、最終話はロープで吊るされた乃木に、ベキが刀を振り下ろす……という絶体絶命のシーンから始まった。しかし、ベキが斬ったのは乃木を吊るしていたロープだった。ベキは手に乗せるだけで重さがわかるという乃木の特殊能力から、乃木とともに捕まった別班員・黒須駿(松坂桃李)を撃てと命じた際に乃木が渡された拳銃の弾数を把握して行動していたことを見抜き、「すべて承知の上で……ここまで生かしておいた」と乃木が別班の任務で潜入してきたことに気づいていたことを明かしていた。黒須が拷問を受けても口を割らず仲間を売らなかったこと、乃木が国を守るという己の任務を貫こうとしたことをベキは評価する。乃木の“裏切り”の真意を測るためにベキが乃木に渡した拳銃には弾が込められていなかったことと合わせ、この場面は終盤への伏線にもつながっていた。

 「敵か味方か、味方か敵か」というキャッチコピーのとおり、最終話の最後まで誰が「敵」で誰が「味方」か、どちらが「正義」なのか、目まぐるしく移り変わり、「正解」のない展開を見せた。バルカの広大な土地に眠る、半導体に欠かせない高純度のフローライトの採掘権を手にすることによって、そこから生まれる莫大な利益を孤児たちや貧しい人々に分配するのがベキおよびテントの目的。そこに協力することは、テントが土地購入のための資金稼ぎのために行っていたテロ活動を未然に阻止できるたけでなく、フローライトを日本に優先的に回してもらえれば日本の国益にもつながる。別班の乃木と黒須は、テントと共同戦線を張って、フローライトの採掘権を奪おうとするバルカのワニズ外務大臣(河内大和)と対立。あたかも『半沢直樹』かのような逆転劇を見せた。

 そしてフローライトの採掘権を守り抜いたテントは、乃木のメッセージを受け取っていた公安の捜査員・野崎守(阿部寛)が協力した交換条件として、ベキと幹部のバトラカ(林泰文)、ピヨ(吉原光夫)を日本の公安に引き渡し、テントを解体することに応じる。フローライト事業は「息子」ノコル(二宮和也)に引き継がれ、バルカの未来はノコルに託された。乃木とベキの父子の和解、テロ組織の解体、バルカの孤児救済……すべてが解決したかと思われたが、4日後、日本に到着したベキたちが逃亡。前話で謎に包まれていた「日本のモニター(協力者)」は、野崎の部下である公安の新庄浩太郎(竜星涼)であり、新庄の手引きでベキたちは内閣官房副長官・上原史郎(橋爪功)の自宅に向かう。上原は元公安外事課課長であり、40年前、公安警察だったベキ=乃木卓がバルカ潜入任務で危機に陥った際に己の保身のために見捨てた張本人だった。「テントの最終標的は日本」というのは、ベキの個人的な“復讐”だったのだ。しかし、そこに乃木が駆けつける。「息子に命を奪われるなら、本望だ」というベキは、乃木の銃撃を受けて倒れる。

 日本の重要人物である上原を守るという「任務」に忠実に行動した乃木が、すべての元凶である上原への復讐を果たそうとする父親を撃つ。40年ぶりに再会した父子の結末は悲しいものとなってしまったかに思われたが、本当にこれで終わりなのか、と思わせる最終話でもあった。乃木がノコルに電話でベキの顛末を報告した際、乃木は燃える上原邸を後に、「“皇天親無く惟徳を是輔く”。……花を手向けるのは、まだ先にするよ」と言って、微笑を浮かべた。皇天親無く惟徳を是輔くとは「天は公平で贔屓せず、徳のある人を助ける」という意味の漢語であり、つまり孤児救済に励んでいたベキたちが生きていると考えられるセリフだ。乃木がテントに潜入するために別班のメンバーを銃撃した際も、「神業」でわずかに急所を外してみせたことから、ベキらにも同じことをしたのではないだろうか。タイトルの『VIVANT』が指すものが、別班だけでなく、フランス語の「生きている」というそのままの意味――ベキは生きているという意味だったのではとの考察もある。

 ラストシーンからも新たな「冒険」を思わせる。乃木の自宅近くの神田明神で医師で恋人の柚木薫(二階堂ふみ)との再会を喜ぶその脇の祠には、別班の連絡手段である赤い饅頭が。乃木の別人格・Fが「おいおいおい、いいところ悪いけどよ、憂助。そろそろ見た方がいいんじゃないの?」と、饅頭を見るよう語りかける。テント潜入後は登場の場が少なく、少し寂しい印象だったFの存在感。Fの活躍を見たいがためにも、次回作への期待が高まる。

 だが、結局Fがなぜ「F」なのかは明かされないまま。他にも、回収されていない伏線はいくつかある。ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)が「奇跡の少女」であることは別班司令の櫻井里美(キムラ緑子)も言及していたことだったが、この「奇跡の少女」が何を指す言葉だったのかは結局明かされることはなかった。

 最終話で気になったのが、野崎が上原に言った「別班はどこにいるかわかりませんからね」という言葉だ。薫はただのヒロインという枠だけで収まるのか、野崎の仲間・ドラム(富栄ドラム)の正体も明らかにされないままだ。薫、野崎、ドラムは”裏の顔”がないとは信じがたい。3人のうち、誰かが別班であっても不思議ではないだろう。

 今期、いや、今年最高のエンターテインメントを提供してくれた『VIVANT』。考察系ドラマ、アドベンチャー、はたまたヒューマンドラマとして、さらにパワーアップして戻ってくることを期待したい。

■番組情報
日曜劇場『VIVANT
TBS系毎週日曜21時~
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、迫田孝也、飯沼愛、山中崇、河内大和、馬場徹、二宮和也、井上順、林遣都、檀れい、濱田岳、坂東彌十郎、橋本さとし、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李、役所広司 ほか
プロデューサー:飯田和孝、大形美佑葵、橋爪佳織
原作・演出:福澤克雄
演出:宮崎陽平、加藤亜季子
脚本:八津弘幸、李正美、宮本勇人、山本奈奈
音楽:千住明
製作著作:TBS
公式サイト:tbs.co.jp/VIVANT_tbs

東海林かな(ドラマライター)

福岡生まれ、福岡育ちのライター。純文学小説から少年マンガまで、とにかく二次元の物語が好き。趣味は、休日にドラマを一気見して原作と実写化を比べること。感情移入がひどく、ドラマ鑑賞中は登場人物以上に怒ったり泣いたりする。

しょうじかな

最終更新:2023/09/18 13:16
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