『水曜日のダウンタウン』松本&浜田の涙ドッキリで清々しい気持ちになれたワケ
#水曜日のダウンタウン #檜山豊
僕は過去に「水曜日のダウンタウン」(TBS系)のドッキリを引用して、“ドッキリの進化”をコラムにしたことがあった。このコンプライアンスが厳しい時代に、コンプライアンスに引っ掛からず、どんな斬新な事を企画に出来るか、他の番組がやっていないことは何があるのか。丸を限りなく尖らせるにはどうすればいいのかなど、常に新しい事にチャンレジし続けるこの番組。
なのでドッキリ自体も進化を見せ、面白いだけではなく、ひたすら何かクリアするまで芸人を放置し、芸人が自らその状況を打破する為に試行錯誤する様をモニタリング。「水曜日のダウンタウン」は芸人としてではなく、人間としての限界を引き出すドッキリを企画したり、炎上覚悟のものを我々視聴者に送り続けてくれた。
そして今回またも「水曜日のダウンタウン」が面白い企画を我々に披露してくれたのである。9月6日の放送は8月16日の放送から2週あけてのオンエアとなり、放送が無い期間に流れた「水曜日のダウンタウン」の予告CMが、視聴者の間で話題となったのだ。
その予告CMには、何かしらのVTRを見ながら大粒の涙を流すダウンタウンの浜田雅功さんと、涙を拭う松本人志さんの姿が映し出され、何も説明なくただタイトルをコールするというものだった。
それを見た視聴者たちからは「一体何が起こるんだ」「浜ちゃんが泣いてる」「涙の理由が気になる」などの声がSNS上に寄せられた。番組のX(旧ツイッター)では「高さ5mの金網に囲まれたプロレスリングの中から、100万円が入ったボールを持ったまま外に出られた1人のみがその賞金を獲得できる…100万円争奪金網デスマッチ他」という告知がされ、一部では企画を予想する予想合戦まで行われた。
そしてモヤっとした気持ちを抱えたまま、ようやく2週間ぶりに待ちに待ったオンエアである。実際僕自身もこの予告CMは気になっており、普段は録画予約で見ているのだが、どうしても早く真相を知りたいということで、オンタイムで視聴することにした。
番組前半は告知通り、チャンス大城さん、オードリー春日さん、みなみかわさん、あかつさんによる金網デスマッチが行われた。企画自体がアドリブで進行していくものだったので、もしかしたら最終的に感動的な展開になるのでは? などと予想しながら視聴していたのだが、そのような急展開は無く、ただ面白おかしく進行していく企画であった。
金網デスマッチが終わり、2つ目の企画に移行するタイミングで僕は時計を見た。時計はすでに10時40分過ぎ。番組終了まで15分しかない。あれだけ引っ張ってきた企画がこんな短い時間で終わるのか? と少し疑問に思いつつも、一体何が始まるのかと期待に胸をときめかせていた。
2つ目の企画のプレゼンターが登場した。なんとあのロンドンブーツ1号2号の「田村淳」さんだったのだ。予想外のプレゼンターに対してスタジオは静まり返り、松本さんは「珍しい」と少しあっけにとられ、浜田さんに至っては「こんなところ出てくんの?」と驚きを隠せない状況だった。淳さんは初回放送以来、9年半ぶりの登場。ダウンタウンの涙、そしてプレゼンターは淳さん、間違いなく何かしてくれるという期待感から、ワクワクは倍増していく。
そんな淳さんがプレゼンした説は「番宣CMでダウンタウンがガッツリ泣いてたら流石に視聴率爆上がり説」だった。普段テレビでダウンタウンのお二人が揃って泣くことなどほぼ無い。それを利用し番宣すれば聴率が上がるのではないかという説だったのだ。目薬を使って涙を流す様を何度も撮影し、感動的な何かがあるように見せそれをCMに使っただけ。僕たちが期待したあの大粒の涙はただの目薬だったのだ。
僕は思わず「やられた」と口に出した。ただこの「やられた」は騙されて嫌だったという気持ちではなく、ここまで感情を揺さぶられたことに対しての賛辞の声だ。昨今のドッキリでここまで清々しい気持ちになれるものは無かった。最近のドッキリは過去のドッキリのようにベタなものばかりではなく、芸能人が人間として限界に達した様だったり、時には感動的なものだったりと、いろいろな趣向をこらしてドッキリを仕掛け、その内容によっては仕掛けが行き過ぎてしまい、仕掛けられた側が可哀相などという賛否が巻き起こるのが定番の形だった。
しかし今回のドッキリは仕掛けられた側が我々視聴者で、「してやられた」という気持ちにはなったとしても、誰一人傷つくことはない、素晴らしいドッキリだ。ドキドキしてワクワクして誰も傷つかないなど、まさに今の時代に合っている最高の形なのではないだろうか。
ただこの形のドッキリは進化系ドッキリではないのだ。我々視聴者を騙すというドッキリは実は昔流行ったことがある。もちろん今回の涙ドッキリのような2週間モヤモヤさせてあっさり答えを言うといったものではなく、番組の最初から中盤くらいまで視聴者を騙し、そして終盤でネタばらしをするというもの。
古くは日本テレビ系で放送されていた「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」。「高校生制服対抗ダンス甲子園」や「復興広告計画」など視聴者にスポットをあてた人気企画が目白押しの番組なのだが、その中で「大仏魂」や「半魚人」など実際には無い事を真実のように見せる元祖ドキュメントバラエティとして一世を風靡した企画も多く誕生していた。
さらにフジテレビ系で放送されていた「めちゃ×2イケてるッ!」でも元気が出るテレビよりもさらに真実味を帯びたような演出で視聴者をいい意味でだますような企画が流行った。
僕が個人的に好きだったのは沖縄出身のお笑いコンビ「ガレッジセール」さんの番組で、最初はドキュメント番組のようにリアルな街ブラロケを進行し、途中で問題が起こり、最終的にはミュージカルになるというかなりふざけたエイプリルフール特番。調べても名前がわからないが、昔はこのような番組が多く存在していたのだ。
真実と虚偽を上手く交わらせ、視聴者の期待感を煽り、そして最後振り切ってふざける。これこそが視聴者一体型の番組であり、テレビ本来の面白さを痛感できるシステム。過去のテレビの面白さを現代とフィルターを通してブラッシュアップさせ、別の形で披露するというのが、テレビを風化させない一つの手段なのではないだろうか。
水曜日のダウンタウンはそういった意味で、テレビ業界の最前線を行く番組と言っても過言ではない。時代を踏まえつつ、手を緩めないこの番組を見ていると「攻撃は最大の防御」という言葉が頭に浮かんだ。防御一辺倒は時として退化してしまう可能性がある。何事においても適度に攻める姿勢というのは大切なことなのだろう。勉強になった。
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