『量産型リコ』グルメドラマの手法で“プラモ作りの気持ち良さ”を見事に映像化
#ドラマ #成馬零一
『量産型リコ -もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』(以下、『量産型リコ』)が最終回を迎える。テレビ東京系列で木曜深夜0時30分から放送されている本作は、スタートアップ企業「ドリームクレイジー」の社長の小向璃子(与田祐希)ことリコが、プラモデル作りに没頭する姿を描いた1話完結のドラマ。
一年前に放送された『量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系)の続編的作品で「もう一つの世界」を生きる小向璃子の物語となっている。
前作ではイベント会社で働く若手社員だったリコだが、今作では大学の仲間と立ち上げたスタートアップ企業の社長となっている。そして、前作では同僚の若手社員役だった望月歩、前田旺志郎がいっしょに会社を立ち上げた仲間となっており、藤井夏恋、マギー、田中要次といった出演者も続投している。
物語は、仕事の人間関係で悩んだリコや彼女の同僚が、矢島模型店でプラモデルを作る姿が毎回の見せ場となっている。登場するプラモデルはユニコーンガンダムやガンダム・エアリアルといったガンプラが多いが、仮面ライダー、マジンガーZ、熊本城といったプラモも登場するバラエティ豊かなラインナップとなっている。
このシリーズの原案・企画・プロデュースを担当しているのは畑中翔太。CMやバラエティなど幅広い映像作品を手がける畑中の作るドラマはどれもユニークで、ローカルグルメサイト「絶メシリスト」を原案とした、日本全国の絶滅しそうなメシを求めて中年サラリーマンが一泊二日の旅に出る『絶メシロード』(テレビ東京系)、バッティングセンターを舞台に女性たちの悩みを野球に例えた人生論で解決していく『8月は夜のバッティングセンターで。』(同)、ポッドキャストとチェンメシ(チェーン店グルメ)を題材にした『お耳に合いましたら。』(同)といった深夜ドラマを制作している。
これらの作品は『孤独のグルメ』(同)を筆頭とするグルメドラマの手法で作られている。グルメドラマは料理を美味しそうに食べている姿を魅力的に描ければ成立し、料理を食べる主演俳優が一人いれば低予算で作ることもできるため、深夜ドラマ枠でたくさん作られている。
また、近年はグルメドラマの手法を用いることで、サウナやキャンプといった食事以外の題材を扱ったドラマも作られており、今や“趣味ドラマ”とでも言うような独自の世界を形成している。
この『量産型リコ』もグルメドラマの手法を用いることで「プラモ作りの気持ちよさ」が見事に映像化されている。本作のプラモ作りの場面では、プラモのパーツをペンチで切り取っていく様子をリズミカルに見せ、各パーツがパチッとハマる瞬間の心地よさや、エアブラシで塗装していく楽しさを追体験させてくれる。
何より、リコがプラモ作りに没入している姿がとても魅力的だ。リコを演じる乃木坂46の与田祐希がプラモ作りに集中している時に見せるキリッとした表情は実に美しく、女性アイドルが出演するドラマに求められる、女優を魅力的に撮るという課題を完璧にクリアしていると言えるだろう。
なお、タイトルの「量産型」とは、ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』に登場する量産型モビルスーツのザクから取られたものだが、仕事は起用にこなしているが、突出した個性も情熱もないため「量産型」と揶揄されているリコの姿とも重ねられている。
近年、おしゃれでかわいいが、他の子と見分けがつかないファッションの女子を「量産型女子」と呼ぶ風潮がある。当初は揶揄する言葉として用いられていたが、「量産型女子です」と自称する若い子が増えたことで、プラスのイメージとしても使われるようにもなってきている。
そんな量産型女子を見る度に、アイドルグループ・乃木坂46の女の子みたいだと思っていたため、「量産型」と呼ばれるリコを乃木坂46の与田祐希に演じさせたのは、実に批評的なキャスティングだと思った。
本作もまた、リコの姿を通して、量産型という言葉をポジティブな意味として捉え直している。前作の『量産型リコ』は、一見やる気がないように見えるリコたち若手社員が抱える、静かに燃えている情熱が繊細な映像を通して描かれていたが、その流れは今回の『量産型リコ』でも踏襲されている。
第9話。ライバル会社の社長・中野京子(藤井夏恋)にプラモ対決を挑まれたリコは、シャア専用ザクを作ることになるのだが、メインカラーの赤ではなく、あえて量産型ザクのメインカラーである緑で全体を塗装し、左肩だけを赤く塗る。
ズルいかもしれないが、目立たず逃げ切りたい。狙われやすい赤では自分は生き抜けない。だから「私は量産型がいいんです」とリコは言う。ネガティブな発言に聞こえるが、リコの言葉に迷いはない。
プラモ作りを通して静かに成長していくリコの姿を通して、量産型という言葉をポジティブな意味に読み換えた本作は、極めて現代的な成長物語だったと言えるだろう。
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