お笑い芸人が「耳心地」よりも大切にしなければならない「しゃべり心地」の極意
#お笑い芸人 #檜山豊
8月23日にTBSにて「日本でいちばん明るい賞レース 耳心地いい-1グランプリ」が放送された。この賞レースは元々TBS系で放送されている朝のバラエティ番組「ラヴィット!」内のいち企画として始まったもので、そのタイトル通り「聞き心地が良くて面白いもの」に特化した賞レースだ。
とにかく耳心地が良いネタであれば、漫才、コント、歌ネタなどジャンルは問わない。なのでネタは音楽や効果音を使ったものを中心になっており、会場にいる審査員やお客さんはヘッドホンをして「耳心地」をメインとして審査をする。
「ラヴィット!」内で放送された第一回はレゲエ調でフリップネタを行う「シオマリアッチ」、第二回は出囃子を利用して漫才をするというリズム漫才でお馴染みの「メンバー」が優勝している。
そして第三回となる今回は、初の特番。しかもゴールデンタイムという、今までの大会よりかなりグレードアップしたものとなった。審査員も伊達みきお(サンドウィッチマン)さんやバカリズムさん、くっきー!(野生爆弾)さん、という売れっ子お笑い芸人から、坂本冬美さんやヒャダインさんといった、音楽の専門家たちという豪華な顔ぶれとなった。
エントリー数815ネタの中から勝ち上がったファイナリストは、メンバー、シオマリアッチ、ゆんぼだんぷ、BPM128、ザ・マミィ、ラブレターズ、ザニーフランク、連合稽古、いちばんかわいい、三拍子の全10組。さすが耳心地が良ければネタのジャンルは問わないという大会だけあって、ベテランから新人、露出度の高い芸人からそうでない芸人まで、かなり多種多様な芸人が揃った感がある。
すでにネタバレしてしまうが、今大会は耳心地を追求してきた芸人である「ゆんぼだんぷ」さんが優勝し、335(みみご)万円を手にした。
賞レースとは言っているが、番組内のいち企画として発生した大会ということもあり、他のM-1グランプリやキングオブコントとは違い、そこまでの緊張感はないように感じた。SNS上では「平和な大会」や「タイトル通り明るくなった」などのコメントが寄せられているので、視聴者からすれば気軽に見られてとても楽しい賞レースだったと言えるだろう。
他の賞レースほどの緊張感や感動や、仰々しさは感じられないが、テレビに出ることを目的としている芸人からすれば、知名度に関係なく出られそうな番組が増えたことはとても良い事で、新たなスターを誕生させる可能性が大いにある。
しかしジャンルは問わないとは言っても、耳心地に特化した大会なので、応募するネタのシステムはかなり狭まってしまう。それこそ今回出演した芸人たちも音ネタとは言っているが、ただのリズムネタではなく、ザ・マミィさんのように、特殊な機材を使ってみたり、ラブレターズさんのように、SE音を使ってはいるが音に頼らずネタのクオリティ自体が高いなど、他との差別化を意識しなければならず、ただリズムネタをやっていたり、音に乗せてフリップネタをやっているだけでは、他の芸人と被ってしまい、ファイナリストになることすら難しい気がする。
つまり漫才やコントといった広いくくりではなく、耳心地という広そうで狭いくくりが芸人を苦しめてしまうかもしれない。しかし音やリズムを使ったネタをしている芸人の数は圧倒的に少ないので、大会自体の結果が露呈されるまでは参加する芸人もそこまで多くないので、参加しようかどうか悩んでいる芸人は早めに参加することをお勧めする。
さてこの大会で取り上げられている「耳心地」だが、ゆんぼだんぷさんのように明確にこだわっている芸人や、麒麟の川島さんのように声を意識しているような芸人でない限り、あまり意識することはない。それは「耳心地」よりも芸人が大切にしなければならない「心地」があるからだ。
僕が思う大事な「心地」は「喋り心地」だ。もちろんそんな言葉はなく、勝手に僕が生み出した造語なのだが、この「喋り心地」は普段の会話に存在するのではなく、台本などのセリフを口にした時に登場する「心地」なのだ。あくまでも感覚的なことなのだが、喋ったときに気持ちよくないセリフというものがある。例えば
「昨日お前のお母さんから電話があって、めっちゃお前のこと心配してるみたいだったぞ」
というセリフがあったとする。これを口にしたときに皆さんは違和感を感じないだろうか? 特に後半に。このセリフを喋り心地が良いセリフに変えると
「昨日お前のお母さんから電話きて、めっちゃお前のこと心配してた」
多少ニュアンスは変わってしまうが、喋り心地としては2番目のセリフの方が圧倒的に良い。言いやすいというだけではなく、語呂的な部分も関係しており、語呂が良くないとやはり喋り心地も良くないのだ。語呂だけでいうと
「どうする?日傘を持っていく?」
何とも語呂が悪い。これを変えると
「どうする?日傘持ってく?」
ということになる。この細かな喋り心地にこだわることこそが芸人にとっては大事なことで、喋り心地が良いセリフばかりのネタにすれば必然的に耳触りが良くなり、聞き心地、つまり「耳心地」の良いネタになるのだ。
「耳心地いい-1グランプリ」のような意識した「耳心地」ではなく、無意識の中に存在している「耳心地」こそがとても大事で、笑いにとってはとても繊細な部分になる。どれだけ面白いネタでも喋り心地が悪いセリフが入っていると、お客さんは無意識に耳障りの悪さに違和感を感じて、100%の笑いが80%や70%に落ちてしまうのだ。なので漫才だろうがコントだろうが、セリフ口調だろうが喋り口調だろうが、喋り心地を意識してこそ良いネタに繋がるのだ。
ちなみにこの喋り心地はお笑いに限らず、一般社会のプレゼンテーションなどにも使用できる手法だ。なのでプレゼンテーションで言っていることは面白いのだが上手く伝わらない人は喋り心地を意識してみてはどうだろうか。
これは余談だが、僕はお笑いが得意とする「言葉の立て方」「間」「喋り心地」を使い、とある方を大きなプレゼン大会で優勝させた実績がある。
……ただの自慢。
図らずも悩んでいる若手芸人とプレゼンが苦手な人へオススメするコラムとなった。次はどんなテクニックを話そうかしら。
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