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『ファルコン・レイク』が紡ぐ思春期特有の危うさと、楽しさと隣り合わせの恐怖

『ファルコン・レイク』が紡ぐ思春期特有の危うさと、楽しさと隣り合わせの恐怖の画像1
C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

 8月25日よりカナダ・フランス合作の映画『ファルコン・レイク』が公開中。原作は邦訳版が第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞に輝くなど、高い評価を得たフランスのバンド・デシネ 『年上のひと』だ。

『aftersun/アフターサン』にも似た、スクリーンで観てこその映画

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C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

 監督・脚本は俳優としても活躍するシャルロット・ル・ボン。初の長編監督作ながら第75回カンヌ国際映画祭での上映を皮切りに、第58回シカゴ国際映画祭ゴールド・ヒューゴ (新人監督賞)など世界中の映画祭で受賞を重ね、米批評サイトRotten Tomatoesでは批評家支持率が96%にまで到達している。

 繊細な思春期の少年の心理を大胆に綴り、ほとんどホラー的に見える瞬間もある本作は、16ミリフィルムならではの映像美が映えるスクリーンでこそ、真に堪能できるのは間違いない。切なくも危ういドラマと、淡々としているからこそ観客の想像力を刺激する作風は、2023年5月26日より公開されたばかりの『aftersun/アフターサン』にも似ているので、そちらが好きな方もきっと気にいるだろう。さらなる魅力を記していこう。

思春期特有の危うさを容赦なく描く

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C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

 もうすぐ14歳になる少年バスティアンは、母の友人のもとでひと夏を過ごすため、家族と共にカナダ・ケベックの湖畔にあるコテージを訪れる。そこで3つ年上の少女のクロエに惹かれたバスティアンは、彼女を振り向かせるために湖へ泳ぎに行くのだが……。

 本作で何よりも目立つのは、「20歳未満の飲酒・喫煙、及び薬物使用の描写」のためにPG12指定のレーティングがされたことに大納得できる、思春期の少年少女の危うい行動の数々。彼らは大人の目の届かないところで、そうした「やってはいけないこと」を、特に罪悪感もなく「付き合い」としてやっているようにも見える。加えて、3歳年上の少女だけでなく、もう少し年上の青年からも性的な話題が展開していくのだ。

 主人公の少年はそうした危うい行動の数々に迎合しているように見える一方で、ナイトパーティーなどで居場所を無くしてしまっているように見える場面もある。本作はそうした思春期特有の生々しさや居心地の悪さを、良い意味で容赦なく描いている。

 少し大人びたこと、それこそ飲酒やセックスへの憧れが思春期の少年少女にあることは理解できるのだが、それにしたって「この子たち、大丈夫かな……いや、もう大丈夫じゃないかも……」と不安を超えた焦燥感を得る。そうした気持ちを受け手に喚起させる映画なのだ。

湖で泳ぐ、楽しさと恐怖の両方の体験

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C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

 本作は森や湖、深い自然に囲まれた舞台が神秘的で美しい。それと同時に、夕方に差し掛かるにつれて闇が深くなるため、どこか恐ろしくも感じられる。しかも、湖には幽霊が出るという噂があり、さらに「もしかすると本当にいるのかもしれない」と思わせる出来事も起こる。

 この舞台そのものが、映画の主題とも密接に絡んでいる。何しろ、シャルロット・ル・ボン監督は、本作で「自然と、そのありったけの美しさは、同時に悩みにもなり得る」ことを描きたかったと語っている。その理由のひとつが、監督にとって湖で泳ぐことは「はしゃぐ喜びは、いつもうっすらと感じる不安と共にある」「楽しさと恐怖の両方の体験」であるからなのだとか。

 これは、子どもの頃に自然の中で遊んだ経験があれば、きっと抱えたことがあるアンビバレントな気持ちだろう。楽しく遊んでいたけど、いつの間にか夕方を超えて暗闇がやってきたり、はたまた湖で泳いで遊んでいた時に、急に溺れかけたりと……そうした楽しい思い出と裏返しの恐怖が、間違いなくこの『ファルコン・レイク』の中にあり、多くの人が「あの頃」を思い出して、その美しい光景に浸りながらも、良い意味でゾッとできる内容でもあるのだ。

衝撃的で、かつ解釈の分かれるラスト

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C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

 本作で何より強烈に印象に残るのは、原作をベースにしながらも、映画オリジナルで紡がれたラストだろう。観る者によってかなり解釈が異なる結末でもあり、それを持って心にズシンとくる余韻が残る物語にもなっている。

 「映っているもの」をよく見ると答えは描かれているとも言えるのだが、それをはっきりさせるのも野暮だろう。この映画の意義のひとつは、やはり美しい自然の中で紡がれる少年少女の思春期特有の危うい心、それを大人が追体験することそのものなのだから。

 このラストから、主人公の少年と、3歳年上の少女が「秘密」として語り合ったことを思い出すと、よりこの物語が切なく胸に響いてくる。その感覚は美しくも恐ろしい舞台を映した、16ミリフィルムの映像美があってこそ。ぜひ、スクリーンで見逃さないでほしい。

『ファルコン・レイク』 8月25日(金) 渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー
監督・脚本:シャルロット・ル・ボン
出演:ジョゼフ・アンジェル、サラ・モンプチ、モニア・ショクリ
原作:バスティアン・ヴィヴェス「年上のひと」(リイド社刊)
提供:SUNDAE 配給:パルコ 宣伝:SUNDAE
原題:Falcon Lake|2022年|カナダ、フランス|カラー|1.37:1|5.1ch|100分|PG-12|字幕翻訳:横井和子
C) 2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI

ヒナタカ(映画ライター)

「ねとらぼ」「cinemas PLUS」「女子SPA!」「All About」などで執筆中の雑食系映画ライター。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Twitter:@HinatakaJeF

ひなたか

最終更新:2023/08/26 07:00
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