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世界は映画を見ていれば大体わかる #49

『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』が、清水・中田以降のJホラー金字塔に!

『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』が、清水・中田以降のJホラー金字塔に!の画像1
『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』公式サイトより

 うだるような暑さの酷暑が続く中(連日最高気温30度以上)、映画業界は盆休みが明け、9月のシルバーウィーク期間に突入する。盆休みに次ぐ稼ぎ時として、この時期は注目作や話題作が投入されることが多い。

 書き入れ時の話題作と注目されているのが9月8日に全国公開される『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』だ。‟ホラー・カルトの鬼才”‟和製フェイク・ドキュメンタリーの異才”など呼び声も高い白石晃士監督の人気シリーズ『コワすぎ!』の8年ぶりの最新作だ。

『コワすぎ!』シリーズは2012年にオリジナルビデオ作品として登場。レンタルビデオ屋(今の時代じゃ、そういう店もだんだん少なくなってきてますが)に行くと必ず邦画ホラーもののコーナーに『ほんとうにあった怖い話』といったレンタル向けのオリジナルビデオシリーズが必ずあり、海外製の気持ち悪いホラー映画は見る勇気がなくても、これぐらいなら、まあ……といった感じでレンタルすると結構怖い映像が見られるので、映画の奥深さを教えてくれます。

『コワすぎ!』は『ほん怖』のスピンオフ『ほんとにあった! 呪いのビデオ』の影響を受けているといえる。『ほん呪』では投稿者から超常現象としか思えない映像、幽霊か何かが写っているビデオが送られ、スタッフがその映像を元に取材、調査をし、謎を徹底的に解明するというフォーマットが共通している。

 つまりはフィクションをドキュメンタリーのように見せる『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようなフェイク・ドキュメンタリーの形式だ。

 主観映像(POV)による臨場感あふれる映像や、投稿者による映像の検証などには目新しさはないものの、『コワすぎ!』シリーズは二ッチでカルトな人気を誇っている。なぜこの作品が一部で熱狂的な支持を受けているのかについて語ってみたい。

 まず、題材の取り上げ方の旨さがある。口裂け女、トイレの花子さん、コックリさんといった題材は定番の上、擦られすぎてどう弄ってもウケなさそうなのに、新たな視点や、そのネタを弄る各登場人物のアプローチが巧みで唸らされる。

 そう、このシリーズはレギュラー出演者たちの異常なまでに立ちすぎているキャラクターが魅力的で見入ってしまう。

『コワすぎ!』シリーズのディレクターとして存在する工藤仁(大迫茂生)は粗暴にして短気、傍若無人である。

 工藤は送られてきた映像を見て「こいつは本物だ! 本物を映像に撮れば間違いなく売れるぞ!」と心霊現象、怪異のネタをまずビジネスとして捉えている。テレビなどの旧態依然としたメディアを「腰抜け」と称し「国内でダメなら海外に持っていけば売れる」として超常現象の謎を解き明かした果てには大金持ちになれるという大層な夢を抱いているが、その実、とてつもないビビりで、ロケ中に様々な怪異に遭遇すると腰砕けな行動を取ったり、同行するアシスタントディレクターの市川(久保山智夏)に「市川!お前行けよ!」と嗾けたりする(情けない)。

 しかし、覚悟を決めると危険を顧みずに突っ込んでいく一面もある。そんな二人の行動を撮影に徹することでサポートするカメラマンの田代(白石晃士監督本人。時折出演もする)。この三人を軸に物語は進行する。

 この工藤のキャラクターがとにかく強烈で、投稿者が真実を語ろうとせず何かを隠すような素振りを見せたり、ロケ中に出会った人間の態度が気に入らなかったりすると誰であろうと、老若男女問わずにつかみかかり、殴る蹴るの暴挙に出る。たまらず市川が止めに入ると「こいつは殴られなきゃわかんねえんだよ!」と市川の手を振りほどき、なんなら市川のことも殴って蹴る。完全にパワハラだ。

 工藤が恐ろしいのは普通の人間相手にそんな態度だから、心霊や怪異相手にも暴力に訴える!

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-03【人喰い河童伝説】』では河童を実力行使で捉えようとし、投網で捕獲を試みるが失敗、最終的にはバット、素手で応対しようとする。陰陽師がつくった五芒星の中で河童を待ち構えるシーンは初期シリーズ最大の対決場面だ。

 基本的に「幽霊など得体の知れない相手に物理的な手段で対応できる」「毒は毒をもって制す」と考える工藤は調査の過程で様々な呪術道具を手に入れる。「呪いの髪の毛飾り」「狐の尻尾」といった道具は持っているものに呪いをもたらしたり、扱いが難しいが、工藤は「なんかあった時に使えるだろ」ぐらいの感覚で持ち歩き、それを使って憑き物の憑いた人間を殴って覚醒させたり、トイレの花子さんや蛇女を相手に拳、バットを振り上げる!

 やはり暴力……暴力はすべてを解決する……!

 この「怪異に対して物理的な手段で立ち向かう」というのは白石晃士監督のテーマのひとつで、『コワすぎ!』シリーズとは無関係な他作品にも高名な霊能力者や陰陽師でも立ち向かえないような異界の化け物相手に力づくで挑んで撃退しようとする場面が多々ある。

 およそ、普通の作品ではチンケな脇役か、メインの悪役にすらならないような工藤を主人公としてアンチ・ヒーローですらない「タダの嫌なやつ」として描いているところが『コワすぎ!』シリーズの見どころだ。

 そしてシリーズを追うごとに工藤の隠された出生の秘密が明らかになっていくという、壮大な世界観をもっているのもシリーズの魅力だ。

 初期のビデオシリーズ4本のあと、『劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】』『史上最恐の劇場版』『最終章』の三部作で世界は破滅に向かって突き進む。諸星大二郎の『妖怪ハンター』も真っ青なハルマゲドンが新宿を舞台に繰り広げられ、工藤たちは破滅寸前の世界を救済する。

 まさかそんな壮大な物語になると思ってなかったので本当にこのシリーズは驚き、というかコワすぎる!

『最終章』で一旦リセットされた物語は『超コワすぎ!』シリーズとして再開する。登場人物は同じだが、どこか違う物語だ。とはいえ工藤は工藤のまま。シリーズ再開第一弾はコックリさんと対決する!

 コックリさんと対決って時点でわけがわからないけど、そこは工藤なので、「なんでコックリさんって‟さん”をつけるんだ? あんなの、コックリでいいだろうが! コックリの野郎がよ!」と相変わらず恐れを知らない男である。

 コックリさんをバットでぶちのめそうとする(やっぱり)工藤は苦戦しつつも怪異の謎を解く。新たな「狐の尻尾」の力を手に入れた工藤は最恐の怪異、蛇女に挑む。

『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!FILE-02【暗黒奇譚!蛇女の怪】』は40歳過ぎで無職のフリーター、そして童貞という冴えないにも程があるダメ男、櫻井が偶然出会った謎の少女に淡い恋心を抱くが、彼女は同居の母親からネグレクトを受けていた。何とか彼女を救いたいと願う櫻井のために、工藤は恋のキューピッドを買ってでる! 恐らく日本でもっともキューピッド役に向いてない男が!

『【暗黒奇譚!蛇女の怪】』は異性との接し方がわからないほぼストーカーの中年男が怪異に恋をするという悲恋の物語で、白石晃士監督はこういう「世間に受け入れられない男」の悲しい生きざまを描くのに秀でていて、ハッピーエンドなのかどうか判断の分かれるラストシーンを見て筆者は感涙に咽びないてしまった。

『超コワすぎ!』シリーズは傍若無人な男、工藤を置き去りにする形で新たな世界線に到達してしまった感がある。そのため今回の『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』まで8年の期間が開いてしまった。

 シリーズ再開に時間がかかったのは単に予算の問題なんだそうだが、予告編を見る限りは総決算の赴きを感じるので、新たな世界観の構築のために時間が必要だったのかも。

 Jホラーのブームを切り開いた中田秀夫(『リング』『女優霊』)、清水崇(呪怨』『犬鳴村』)以降、なかなかこのジャンルの監督の名前が際立たない中で、白石晃士は自分が作った世界をひたすら拡大化させ、そして他のホラー系作品にはない、キャラクター人気を定着させた。

 コワすぎ! をはじめ白石作品に様々な形で登場する呪術師、霊能力者はどれもこれも強烈なインパクトを誇っている。劇中で工藤らを脅威の渦に叩き込む異常な人々たちも、どれもこれもキャラが立ちすぎ。白石作品は「ちょっと変わった人」の描き方が尋常ではなく、視聴者の心をざわつかせる。

 国民的アニメ『名探偵コナン』の劇場版が当初は本格的ミステリータッチを売りにしていたが、興行収入で年間トップ3クラスに入るようになった時、一番のセールスポイントは「人気キャラクター」の登場だった。「どのキャラが今度の劇場版に出てくるか?」が人気のバロメーターになったことで興行成績が右肩上がりになった。

『コワすぎ!』シリーズもまた人気キャラクターの定着化という、ほかのJホラーではあまりないセールスポイントを発掘することによって二ッチな人気を獲得したといえる。

 最新作には『真相!トイレの花子さん』『【暗黒奇譚!蛇女の怪】』、『コワすぎ!』と同じような世界観を持つ白石作品『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』に出演している桑名里瑛がまたまた登場していて、これもキャラクター人気を意識してのことかもしれない。

『コワすぎ!』シリーズはU-NEXTで全作品が配信されているので、映画館に行く前にチェックしてほしい。口裂け女や幽霊、河童を相手に「こいつら映像に収めたら絶対売れるからよ!日本がダメでも海外に持っていったらバカ売れだからよ!」と威勢(だけは)いい工藤の暴れっぷりを見てくれ。そして映画館にもかけつけてくれ!これ絶対バカ売れするから!

しばりやトーマス(映画ライター)

関西を中心に活動するフリーの映画面白コメンテイター。どうでもいい時事ネタを収集する企画「地下ニュースグランプリ」主催。

Twitter:@sivariyathomas

しばりやとーます

最終更新:2023/08/25 19:00
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