なぜ芸人は遅刻が多いのか?大物ぶりも垣間見える「大遅刻」エピソード
#芸人 #檜山豊
どんな仕事でもそうだが「予期せぬ出来事」や「不測の事態」はつきものである。もちろんお笑い界でも例に違わず思ってもいない予測不能な状態になることがある。
ある芸人は自分たちがネタ中にライブハウスの廊下にある消火栓から突如「火災ベル」が鳴り響き、しばらく鳴りやまずネタはおろかライブ自体が出来なくなるということがあったり、芸人が笑いの範疇だと思ってした行動により、他の出演者が怒ってしまい番組から退場するなど、その場の空気を利用するお笑いという仕事は特にそういった事態に陥ることが多い。
基本的には臨機応変に対応できる人材が豊富な為、大きな事態に発展することは稀であり、さらに番組などは収録なのでやり直しがきく為、ほとんどのハプニングはハプニングと認識されずに収束してしまう。
しかしこれがライブや生放送などの場合そうはいかない。その時、その瞬間を切り取るので失敗は失敗、ハプニングはハプニングとして視聴者やお客さんに伝わってしまうのだ。
最も多い芸人のハプニングは何といっても「遅刻」だ。「水曜日のダウンタウン」(TBS系)で「寝坊癖相方遅刻させチャレンジ」という企画が成立するほど、遅刻する芸人は多い。ちなみに今でも記憶に残っているのは2013年の元旦に放送された「初詣!爆笑ヒットパレード」(フジテレビ系)において、出演予定だった千鳥のノブさんが自分の出番のひとつ前の芸人で目を覚まし、番組終了ぎりぎりでなんとか現場に到着したという大遅刻エピソードだ。
毎日同じ時間に起きて同じ時間に家を出るという仕事ではない為、生活リズムがメチャクチャで、僕が芸人をしていたときも、夜中の3時に仕事が終わり、次の日の朝6時に現地集合という何とも普通ではないスケジュールが普通にまかり通っていた。仕事が重なってしまい本当に忙しくなったときは、3日間で家に帰ったのは計2時間、寝るのは移動中や楽屋のみで、トータル5時間も寝られないというとんでもないスケジュールに襲われたこともあった。
そうなると寝坊や遅刻を避けるには寝ないという選択肢が一番良いように感じるのだが、寝ないなら寝ないで、本番のパフォーマンスを著しく低下させるというデメリットもある。なので売れっ子になればなるほど、マネージャーさんや運転手さんに家まで迎えに来てもらい移動中に寝るというスタイルになる。もちろん電車などで顔を差されない為の防止策でもあるのだが。
ちなみに僕も芸人時代に大遅刻をしたことがあった。それはまだ芸人になって1~2年しか経っていない超若手芸人の頃、あの小堺一機さんと松尾伴内さんがMCを務めるネタ番組の収録が決定したのだ。当時、ほとんどテレビに出たことが無かった僕は興奮と緊張でなかなか眠りにつけず、ようやく寝付いたのは明け方。そして気が付いたら入り時間になっていたのだ。その番組はフジテレビの番組で収録はお台場。当時神奈川に住んでいた僕はお台場までどう頑張っても2時間はかかる。完全にアウト。半泣きになりながらマネージャーさんに連絡をし、電車ではなく、タクシーで向かうことになった。
移動中生きた心地がせず、終始パニックになっていた僕はすごくお喋りなタクシー運転手さんの会話を全て上の空でなんとかお台場フジテレビに到着。お金を払い「ありがとうございました」も早々に控室へ向かった。その日は他にも多くの若手芸人が出演する特番だったので、大部屋が控室になっていたのだが、他の芸人はみんなスタジオへ入っている時間。誰もいない大部屋に向かうか、それとも直接スタジオに向かうか迷ったが、とりあえず控室を選択し、全力で走った。控室を開けるとスタジオにいるはずの芸人たちが、わんさかいるではないか。
どうやら技術リハーサルが押してしまい、1時間半ほど待ちぼうけを食らっていたのだ。つまり2時間遅刻した僕が一番ちょうど良い時間帯で到着したということになった。運が味方した瞬間。マネージャーさんからはこっぴどく怒られたが番組に迷惑をかけることはなかった。
ちなみに相方の与座も普段は遅刻しないが、するときは大きな遅刻をするタイプで、一度とんでもない遅刻をやらかした。埼玉で当時所属していたマセキ芸能社の芸人が数組出るイベントがあり、僕たちも出演することになっていた。出番は30分2ステージ。まもなくステージが始まるというのに与座の姿はなく、まったく連絡も取れない。当時担当していたマネージャーさんは顔が青ざめながらひたすら与座に電話をかけていた。
とりあえず僕だけ出てネタはせずにオープニングトークとMCをやるという構成に変更し、まもなく出番というタイミングでようやく与座と電話が繋がった。マネージャーさんが「今どこですか?」と怒りと呆れをミックスした口調で質問すると与座は「ごめん、今起きた」と。その後2ステージ目には何とか間に合ったが、与座は移動するタクシーの中で優雅にコーヒーを飲む姿を当時のツイッターにアップしていた。相方はかなりの大物だとそのとき感じた。
遅刻というハプニングはある意味日常茶飯事なのだが、僕は一度本当の「予期せぬ事態」に陥ったことがある。それは「笑っていいとも!」(フジテレビ系)の出演を控えた前日のこと。僕は「完売劇場」(テレビ朝日系)の収録終わりで番組のプロデューサーとご飯を食べに行ったのだ。こじゃれた居酒屋のような場所でご飯を食べていると、口の中に異物感を感じ、慌ててその異物を吐き出した。その物体が何かわからず「?」となっていると、プロデューサーが僕を見て爆笑し始めたのだ。「何がおかしいんですか?」と聞くと、そのプロデューサーが携帯を取り出し、僕の顔を写真で撮り「これ見てみ」と。そこに映っていたのは前歯の無い僕の顔だった。
僕は食事中に前歯が折れてしまったのだ。その時食べていたメニューは今でも忘れはしない「若鳥の柔らかからあげ」だった。どうせなら固いメニューで折れたかった。よりによって「柔らかからあげ」なんて。その瞬間、翌日の生放送が頭をよぎり、このままだとネタ中前歯がないことになる。さすがに前歯が無い状態で出演するわけにはいかない。しかし現時刻は21時を過ぎている。やれることが限られる時間だ。
とはいってもやれることなど元々限られており、とりあえず自分が通っている歯科医院に連絡をした。明らかに終わっている時間帯なのだが、奇跡的に担当の先生が電話に出たのだ。事情を説明し、翌日朝イチで仮歯を入れてもらうことになった。前歯が折れたのは悪運だが、そのハプニングを修正出来たのは持って生まれた強運が故かもしれない。
なので「笑っていいとも!」に出演した僕は前歯が仮歯だ。どうでもいい情報をお伝えしたところで、そろそろ締めに入ろう。
そういえば生放送中におトイレに行きたくなり、CM中に行ったのだがCM終わりに間に合わず本番中に戻るという失態を犯したこともある。その番組は小堺さんがMCの「ごきげんよう」(フジテレビ系)だった。そう考えると
フジテレビの番組×檜山=「予期せぬ出来事」
という数式が成り立つことが判明した。締めようと思ったらどうでもいい情報をさらに追加してしまった。これ以上追加しない為にもそろそろ終わりにしよう。皆さんも「予期せぬ出来事」が起こったら、とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着くことをオススメする。
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