正体判明の乃木がダークヒーローと化した『VIVANT』は“大博打”に勝利できるか?
#ドラマ #成馬零一 #VIVANT
日曜劇場(TBS系日曜夜9時枠)で放送されている『VIVANT』は、豪華なキャストと映像が話題になっているアドベンチャードラマである。
丸菱商事に勤める乃木憂助(堺雅人)は、取引先の会社に誤送金された契約金を回収するために、中央アジアにあるバルカ共和国に向かう。しかし、乃木は自爆テロに巻き込まれたことで、日本大使館に駐在中の公安警察の野崎守(阿部寛)、WHI(世界医療機構)の医師・柚木薫(二階堂ふみ)と共に、重要参考人としてバルカ警察から追われる身となってしまう。
事前の宣伝では、あらすじが伏せられていたため本作が、どういうドラマになるのか、皆目見当がつかなかった。わかっていたのは、堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、松坂桃李、役所広司が共演する豪華キャストと『華麗なる一族』や『半沢直樹』といった日曜劇場のヒット作を作り続けてきた福澤克雄が原作・チーフ演出を担当することのみ。
そのため、これまでの日曜劇場の作品とは違うスケールの大きなドラマになることは予感していたのだが、第一話冒頭の、広大な砂漠をスーツ姿で堺雅人が歩いている姿を観た時は「これから何が始まるのだ?」と、一気に惹きこまれた。
このバルカ共和国での映像は、モンゴルロケで二カ月半かけて撮影されたという。 広大な砂漠から始まり、バルカ警察とのカーチェイス、そして第一話最大の見せ場となる無数の羊と山羊に紛れ込んで乃木たちが馬でクーダンのゲートを通過して日本大使館へと向かうシーンは、日本のテレビドラマにはないスケールの大きな映像となっており、ハリウッド映画の超大作を観ているかのようだった。
一方、話題の豪華キャストも、適材適所の座組みとなっている。それは、一番魅力的で話題になっている出演者が、堺雅人でも阿部寛でも、本放送まで出演が伏せられていた二宮和也でもなく、野崎の協力者・ドラムを演じる元力士の富栄ドラムだということからも明らかだろう。日本語が話せないドラムは、スマホの音声翻訳機能で乃木たちと対話するのだが、音声は本作のナレーションを担当する声優の林原めぐみが担当している。この外見と音声のギャップが実に可笑しい。
日本人キャストの豪華さばかりに目が行きがちだが、敵対するバルカ警察の警察官・チンギス(バルサラハガバ・バタボルド)や、砂漠で乃木を助けてくれた少女・ジャミーン(ナンディン・エルデネ・ホンゴルズラ)といった外国人キャストも魅力的に描かれている。話題先行で終わらない、配慮の行き届いたキャスティングだ。
その意味で、映像と俳優に関しては期待以上のクオリティに仕上がっていると言えるだろう。では、肝心のストーリーに関してはどうか?
バルカ警察の追跡を逃れて、日本に帰国した乃木は、野崎の協力で、誤送金を通してテロ組織・テントに資金を送ったモニター(テロリストの協力者)が、同僚の山本巧(迫田孝也)だと突き止める。山本は、謎の男・黒須駿(松坂桃李)の協力で海外逃亡を図るが、実は黒須はテロリストから日本を守る自衛隊の秘密組織・別班の工作員だったことが判明。そして乃木もまた、別班の人間だったことが第4話末で明らかとなる。
タイトルの『VIVANT』(ヴィヴァン)が別班(べっぱん)のことであることは、第2話の時点で明らかとなっていた。CIAの友人にハッキングを頼んだり、Fというもう一人の人格を宿しているといった謎の部分が乃木にあることも匂わされていたが、彼が別班だと明らかになったことで、物語は様変わりする。
第5話は、野崎が乃木のこれまでの行動を洗い直す中で、乃木が幼少期にバルカ共和国で起きた内乱によって家族と離れ離れになったことや、乃木家の家紋がテロ組織・テントのマークと類似していることを突き止めていく。
一方、バルカ共和国に黒須と共に向かった乃木は、テントの上位幹部で日本担当だったアリ・カーン(山中崇)の家族を人質にとり、尋問することで、テントのリーダーであるノゴーン・ベキの正体が、父親の乃木卓(役所広司)であることを確信する。
正体が判明して以降の乃木は、テント関係者を次々と追い詰めていくダークヒーローと化していく。乃木のエキセントリックな振る舞いは『半沢直樹』で堺が演じた半沢直樹を彷彿とさせる芝居となっており、物語の方向性が一気にクリアになったと感じた。
おそらく今後の物語は、乃木の率いる別班と、野崎の率いる公安が、テントを追う中で対立しながらも、共闘していく展開となっていくのではないかと思う。しかし、原作なしのオリジナルドラマゆえに、先の展開は全く想像がつかない。
豪華なキャストと映像に目が行きがちだが、ここまで大規模な連続ドラマをオリジナルの脚本で作ることは本作最大の冒険で、一番の賭けである。内容もさることながら、これだけの予算規模の連続ドラマにオリジナル作品で挑戦したことこそが『VIVANT』の魅力だろう。この大博打に本作が勝利することを祈っている。
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