トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > インタビュー  > “感情のつながり”を描いたスラッシャームービー
『異物-完全版-』の宇賀那健一監督の最新作公開

連続殺人鬼の“感情のつながり”を描いたスラッシャームービー

連続殺人鬼の感情のつながりを描いたスラッシャームービーの画像1
宇賀那健一監督(写真/宇佐美亮)

『異物-完全版-』などさまざまなジャンルを行き交う作風で海外からも注目を集める宇賀那健一監督の最新作『Love Will Tear Us Apart』が8月19日より順次公開される。

 本作の主人公は、いじめられていたクラスメイトの小林幸喜(青木柚)を助けて以降、周りの人たちが次々と殺されていく真下わかば(大久保沙友)。その犯人が判明したとき、わかばは本当の愛を知る……というストーリーだ。

 ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でのワールドプレミアを経て、上映を控える本作について、宇賀那監督をインタビュー。豪華キャストと共に、ロマンス、サスペンス、スラッシャー、コメディなどの要素を詰め込んだ本作に挑んだ背景などを聞いた。

高校時代の彼女の影響で俳優の道へ

連続殺人鬼の感情のつながりを描いたスラッシャームービーの画像2
(写真/宇佐美亮)

――制作プロダクション「Vandalism」の代表を務める宇賀那監督ですが、もともとは浅野忠信さんの作品に影響を受け、俳優として活躍されていたとか。

宇賀那:17歳で映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」の舞台版オーディションを受けたのを機にこの業界に入りましたね。そもそも役者を目指し始めたのは、高校のとき付き合っていた彼女が浅野忠信さんのことが大好きだったからなんですけど。当時、「浅野忠信がなんぼのもんだよ」とか思いつつ、浅野さんが出演する映画のDVDを軒並み借りて観てみたら、自分のほうが好きになったという(笑)。

――その前から映画自体はよく観ていたんですか?

宇賀那:うちは母がスプラッター映画好きで、ちょっと変わっているんですけど、家では幼稚園の頃から僕もスプラッター映画ばかり観ていました。小学校に入ってもいわゆるハリウッド大作ばかり観ていたので、高校生になるまで邦画は全然通っていなかったですね。ミニシアター全盛期だったこともあり、高校の頃から邦画のおもしろさに引きつけられていきました。

――長編映画の監督としては『黒い暴動❤』がデビュー作とのことですが、俳優から監督業にシフトされたのは、またどのような経緯があったんでしょうか。

宇賀那:自主制作で撮り出したのは大学生のときで、映画『着信アリFinal』の撮影で韓国に滞在したのがきっかけですね。韓国で3週間ほど相部屋だったのが僕より4つ年下でまだ高校生だった森岡龍で、すでに役者と監督の二刀流で活躍していた彼の話に刺激を受け、僕も『着信アリFinal』のメンバーで自主映画を撮り始めたんです。当時は事務所に入っていたとはいえ仕事がなかなか決まらず、悶々としていた頃だったので。「待っているだけではダメだ」と。

――もともとは自身が芝居する作品をつくるために監督になったんですね。

宇賀那:ただ、いざ監督やってみたら現場を回すのにいっぱいいっぱいで、結局、自分が作品に出る余裕なんてなかったんですけどね。監督として映画をつくる経験自体がおもしろくて、どんどんハマっていった感じです。

「麿さん、それはやり過ぎです!」

――本作では『サイコ』や『悪魔のいけにえ』など、名作ホラーへのリスペクトも感じられました。

宇賀那:ホラーオマージュみたいな遊びの要素はいろいろ仕掛けました。今回の作品は内容的にも社会の道徳や正義に則ったものではないんですが、ちゃんと自分のやりたいことを突き通した作品をつくりたいということは、企画当初から考えていましたね。リスクヘッジをする余り、日本の商業映画がつまんなくなっているような感覚も個人的にはあって。

――なるほど。

宇賀那:「これは怒る人がいるからダメ」というように減点方式で作品がつくられると、確かに誰も怒らない映画はできるかもしれないけど、誰も求めていない映画が出来上がるんじゃないかなと。

――今回、そんなアツい監督の作品づくりを支えた俳優陣も素晴らしかったなと。

宇賀那:本当にみなさん印象的なんですが、なかでも麿赤兒さんはバケモノだなと思いましたね(笑)。大ベテランなのに現場でめちゃくちゃ率先して動いてくださって、脚本を何十倍にもおもしろくしてくれました。「麿さん、それはやり過ぎです!」みたいな(笑)。

――ベテラン俳優陣で言うと、吹越満さんのお芝居も印象的でした。

宇賀那:主演の2人もそうですが、狂気のバランスをどうおもしろく見せるかみたいなところで作品を引っ張っていってくれていましたね。僕もわりとてんこ盛りな演出するほうですけど、現場では吹越さんもノリノリで「もっと血糊いっちゃおう」という感じで。

――本作では監督からキャストの方々にどんなことを求めていたんでしょうか。

宇賀那:観る方が冷めないように、どんなにシュールなコメディっぽいシチュエーションでも、「あくまで役に入り切って演じてほしい」という話はけっこうしていました。なので、俳優陣から「この行動はどういう気持ちなのか」みたいな質問はちょいちょいあって。僕は現場前のリハとか本読みとか基本しないタイプですが、今回は珍しく話し合う時間をつくりました。

連続殺人鬼の感情のつながりを描いたスラッシャームービーの画像3
(写真/宇佐美亮)

ジャンルごった煮で“仮面の男”の人間臭さを描く

宇賀那:役者さんって相手役の芝居を見たり、何回も演じるうちに自分の芝居に飽きちゃったり、相手がこうくるだろうからこう返そうとか考えたりしすぎがちだと思っていて、考えること自体は正しいことですけどそこで出てきた演技が作品にとって正解かって実はわからないじゃないですか。本番前に段取りとテストの2回は現場で芝居するわけだし、僕はその役者さんをキャスティングした時点で既にその人を信じている。だから役者さんの中で演技が何回も反芻されるのは、できるだけ避けたいと思っていますね。

――ちなみに作中での死に方・殺され方が斬新だったんですけど、こうしたアイデアは普段から“ネタ”みたいな感じで書き溜めているんですか?

宇賀那:けっこうその都度考えていますね。いつも忘れるのでメモしとけばいいんですけど。あと、今回はジェイソン、レザーフェイス、マイケル・マイヤーズなど、ダークヒーローとして憧れてきた“仮面の男”のビジュアルにもこだわっていて。夏の暑さケアと動きやすさなど、現実的な検証をしながらつくりました。

――そのお話と繋がるのかわかりませんが、本作はドラマ部分などで不思議なリアリティを感じられた気がします。

宇賀那:レザーフェイスとかも実はけっこう人間臭かったりしますけど、やはり“感情のつながり”は観る人が理解しやすくしたいと考えていましたね。本作も小林幸喜という殺人鬼のバックグラウンドを描かなければ、もっとシンプルなスラッシャームービーになったとは思います。

――“仮面の男”や連続殺人鬼のある意味、人間的な面を描くことも本作のテーマのひとつだったんですね。宇賀那監督の作風だとも思いますが、ジャンル横断的なコンセプトは本作でも企画当初から意識していたんですか。

宇賀那:ジャンルの括りをなくすことは最近の僕のテーマで、『異物-完全版-』もそうですが、いろんな要素のごった煮という点は突き詰めたいと決めていました。ジャンルのわかりやすさに振り切ると特定の層には届けやすくなる一方、作品を窮屈にしてしまう面もあるのかなと思っていて。実は僕が高校時代に初めて書いた脚本にも“小林幸喜”という登場人物がいて、それもいろんなジャンルが混ざった脚本なんです。内容は全然違うんですが、本作で小林幸喜がやっと供養できた感覚もあります。

――最後に本作や今後予定している作品に関して、改めてメッセージをいただければ。

宇賀那:「ホラーだから」とあまり敬遠せず劇場にお越しいただけたら嬉しいですね。ロマンスやコメディの要素もありますし、夏に映画館で観るにはぴったりの作品になったと思います。現時点で具体的に告知できるものはないんですが、いま新作が3本ぐらい控えているので、そちらの情報にもぜひ期待いただければ。

(写真/宇佐美亮)

1988年生まれ、道東出身。いろんな識者にお話を伺ったり、イベントにお邪魔するのが好き。SPA!やサイゾー、マイナビニュース、キャリコネニュースなどで執筆中。

Twitter:@tsuitachiii

いとうりょう

最終更新:2023/08/20 07:00
ページ上部へ戻る

配給映画