『らんまん』万太郎と田邊教授、それぞれの優先順位と喜び(第20週)
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大学の学長の座や、女学校の校長の職などをめぐって競い続ける、田邊教授(要潤)と美作教授(山本浩司)。白浪五人男を真似る寿恵子(浜辺美波)と一緒に「ちいせえちいせえ!」と一喝したくなります。あのふたり、若い人たちに教育の場を与えることではなく、自分の地位を高めることに夢中になってますよね、それもあの狭い大学の廊下で。やってることが、場所を含めて本当に小さい。
そんな争いの最中、後ろ盾だった森有礼(橋本さとし)が暗殺され、一気に力を失っていく田邊教授。女学校校長の職も大学学長への道も失い、やけ酒する田邊教授を叱る妻の聡子(中田青渚)、かっこよかった。「あなたが始めたんです!」と、日本の植物学の始祖である誇りを思い出させ、励ます姿は、おどおどしていたかつての彼女とは大違い。彼女を助けに飛び込んできた寿恵ちゃんによって、もともとの強さが、呼び覚まされたんでしょうか。家を取り囲む者たちに、震える手を隠して笑顔で「ごきげんよう」と対応する聡子。愛する家族を守るための彼女の戦いは、男たちの小さい争いとは違い、とても大きい。
そんなふうに生き生きと自分の戦いをしている聡子や寿恵子(=槙野家の軍師)ですが、この時代の女子は、男たちとはっきり差をつけられている。この年に初めて選挙があったと質屋の中尾(小倉久寛)が語っていましたが、女性には投票権がない。久しぶりに帰国した佑一郎(中村蒼)がアメリカで見た差別について万太郎(神木隆之介)に話したけれど、多分ふたりとも、日本での女子への差別については、日常的すぎて見えてないんですよね。
憲法が作られ、選挙が始まる。鉄道網が発達し、運送会社が大きくなり、そこに倉木(大東駿介)が就職する。時代が移り、いろいろな新しいものができて、人々の働き方も変わり、たんぽぽの綿毛のようにみんなが長屋から飛び去っていく。さみしいけれど、全員、就職や結婚などの幸せな理由での旅立ちなのがうれしい。新しい場所で、新しい花を咲かせますように。
植物学教室教授の肩書きのみになった田邊教授が、久しぶりに学生たちと植物採集旅行に出かけて見つけた美しい花、キレンゲショウマ。同じ頃、採集仲間の虎鉄(寺田心)から万太郎に届けられたのも、同じキレンゲショウマ。同じ花を見て、同じように仮説を立て、同じ道のりで新種かどうかを探っていくふたり。別々の場所で同じ花に夢中になっているふたりの姿、ひとつの音楽を一緒に奏でるように響き合ってすてきでした。あの時の教授は、あんなに執着していた「槙野万太郎」のことは何も思いださなかったんじゃないでしょうか。ただ未知の植物と自分の、一対一の世界。地位をめぐって小さい争いをしていた時とはまるで違う、教授の瞳の輝き。本当にやりたかったのは、こういう純粋な研究だったんですよね、教授。
そして学会への新種の発表を成功させたのは、田邊教授のほうだった。だけど、万太郎もそれを悔しがるでもなく、祝福する。彼は彼で、採集旅行よりも家族(いつの間にか子どもふたりと、寿恵子のおなかにひとり!)を優先したことを悔いていない。寿恵子が園ちゃんを妊娠中に留守にして、それが早産につながったかもと後悔しているから、今回は後悔しない道を選んだ。人生の優先順位と喜びは、それぞれ違う。しかしそんな、教授にやっと戻ってきた植物学の喜びも、やはり小さい争いで消し去られる。大学を追われ、せっかく埃を払った胴乱を部屋に置いて去る田邊教授。彼はこのあとどうするんだろう。
重苦しく終わった週でしたが、寿恵子が借金取りの磯部(六平直政)に「蔦屋重三郎みたいに」と投資を持ちかけるシーンで噴きました。それ、2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公ですよね……と、にやにやしているこちらにむかって借金取りもにやりと「べらぼうめ!」と言って去っていく。こういう遊び、大好きです。
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NHK連続テレビ小説『らんまん』
[NHK総合] 月~金 8:00-8:15 / 月~金 12:45-13:00(再放送)
[BSプレミアム・BS4K] 月~金 7:30-7:45 / 土 9:45-11:00(再放送)
[見逃し配信] NHKプラス
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子、松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介、成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一、いとうせいこうほか
作:長田育恵
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん「愛の花」
語り:宮﨑あおい
制作統括:松川博敬
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
植物監修:田中伸幸
制作:NHK
公式サイト:nhk.jp/ranman
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