日本女子サッカー界のレジェンド・澤穂希のメッセージ本は、泣いて笑える恋愛譚!
#サッカー #Jリーグ
「メッセージ本」、と筆者が勝手に呼んでいるジャンルがある。
アスリートやタレントが、一人称で自分語りをしながら、自身の人生や考え方を通して読者に向けて「メッセージ」を送る、というのがその最大の特徴だ。
また、自己啓発書や実用書の体裁を取って製作されることが多く、キャッチーな見出しから各テーマが平易な文章で手短にまとめられているため、普段あまり読書の習慣がない人でも読みやすい様に編集が施されている。
出版に携わっている人間ならお分かりだと思うが、この作り方だとそこまで製作に時間はかからない。そのため旬の人物を取り上げやすく、近年ではサッカーに限らず量産傾向にあると言える。
筆者は、そんな「メッセージ本」が大好物である。前述の通り、自己啓発書や実用書の体裁を取ってはいるのだが、読んでみると恋愛や仕事についてかなり踏み込んで話していることが多いからだ。
今回はその中から、日本女子サッカー界のレジェンド・澤穂希がドイツW杯優勝直後に出版した「メッセージ本」を紹介したい。
ちょうど女子ワールドカップが開催されている現在、本書の内容に触れる前に、まず澤穂希の業績を振り返っておこう。
サッカー女子日本代表ミッドフィールダーとして、6度のW杯と4度の五輪に出場。2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会では得点王とMVPに輝き、同年アジア人史上初のバロンドールを受賞。2012年ロンドン五輪では銀メダルを獲得。日本女子代表史上、出場数・ゴール数共に歴代1位(205試合83得点)である。
改めて列挙してみると、「ブラボー!」としか称えようがない。男女通じて、日本サッカー界でここまでの実績を残した選手は澤穂希以外にいないだろう。本書では、そんなレジェンドの恋愛歴、そして恋愛観が赤裸々に語られているのである。
1999年、20歳の年に大学を中退してアメリカのクラブに移籍した私は、彼の地で年上のアメリカ人男性と恋に落ちました。その男性とは真剣に結婚を考えてはいたけれど、2003年にアメリカ女子サッカーリーグが突然、休止を発表したため、将来を考え直さなくてはいけませんでした。(P126)
WUSAと呼ばれていた女子プロサッカーリーグが発足したのは、2001年のこと。アメリカ女子サッカー代表が、96年アトランタ五輪で金メダルを獲得、そして99年女子ワールドカップアメリカ大会で優勝を果たし、アメリカ国内での女子サッカー人気が高まったことを受けてのリーグ創設だった。しかしメインスポンサーの撤退などもあって、わずか3シーズンでその幕を閉じている。
所属先を失った澤は、引退することも検討したという。だが、思い留まらせたのは他ならぬ当時の恋人であった。
サッカー選手を引退し、結婚することも考えました。家庭に入って彼を支えるのもいいかなって。けれど、お互いの話し合いの中で、彼はこう言いました。
「ここでサッカーをやめたら、きっと後悔するよ」
その言葉は、私の心に響きました。
もし、「穂希、もうサッカーはやめて、結婚しよう」と言われていたら、私もそう考えたかもしれません。本当に自分でも、どうしようかと毎晩悩み抜きました。でも、悩んでいるということは私自身もまだサッカーをやり尽くしたとは思っていなかったということ。2人だけで真剣に話している時に彼からの言葉を聞いて、私の心の中で、サッカー人生に悔いを残したくないという気持ちが動かなくなりました。(P126)
彼の説得がなければ、後のバロンドーラーは早々に引退していたかもしれないのだ。リーグ消滅後、澤は現役を続けるために、アメリカからの帰国を余儀なくされる。
翌年の2004年シーズン、私は6年ぶりに、自分を育ててくれた古巣の日テレ・ベレーザに復帰しました。そうして離ればなれになった彼とは、話し合いの結果、別れることにしました。(P127)
アメリカ女子サッカー代表が男女平等賃金支払いを求めた“Equal Pay”ムーブメントも記憶に新しいが、もしも澤が2003年時点で男子選手と同等の給与をもらっていたら「結婚して彼が澤穂希を支える」という選択肢もあったのだ。幸い、澤は現役を続行したが、彼女が現役を退いていたらもしかしたら日本のW杯優勝も五輪銀メダル獲得も無かったかもしれない。優れた才能を失わないためにも、そして望まぬ別離を強いないためにも、あらゆるジャンルで“Equal Pay”は引き続き標榜されるべきだと思う。
ところで、結婚と言えば。澤穂希は、2015年に元Jリーガーでベガルタ仙台スタッフ(当時)の辻村裕章氏とご成婚と相成った。2017年には長女を出産している。そんな澤は、本書で恋愛対象となる男性について、以下の様に理想を語っていた。
彼氏はサッカー関係者じゃないほうが断然いいですね。だって、彼氏から「おまえ、あのプレーはないだろう」とか「こうすればよかったんだよ」とか、サッカーのことに口出しされたら、仕事とプライベートの区別ができなくなっちゃいそうだから。
もし言われたら、たぶん私の性格上、ムカついちゃうと思います。むしろ、彼氏はサッカーに興味がなくていいぐらいです。(P120)
思いっきりサッカー関係者と結婚をした澤だが、まあそこは恋愛と結婚は別、もしくは人生観はうつろうもの、という結論でいいのではないだろうか。こんな具合に、後年読み返すと思わず著者でさえ苦笑してしまう箇所が多いことも、「メッセージ本」の良いところである。
と、意地悪な書評に見えるかもしれないが、これでも本気で、本稿をキッカケに女子サッカーを観て欲しいという一心で書いたつもりだ。幸いにも女子ワールドカップはテレビ中継もある。残念ながらなでしこジャパンは敗退してしまったが、テレビ越しでも良いから、女子サッカー選手たちのパフォーマンスに目を向けてみて欲しい。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事