『VIVANT』『ハヤブサ消防団』…今期一番の期待作は? 夏ドラマ序盤ランキング
#ドラマ #ハヤブサ消防団 #最高の教師 #VIVANT #真夏のシンデレラ
民放ゴールデン・プライム(GP)帯の夏ドラマは、いち早くスタートした『CODE-願いの代償-』がすでに第6話まで進み、ほとんどが第4話~第5話まで進むなど、序盤というより中盤に差し掛かっているタイミングではあるが、恒例、民放GP帯連ドラの「序盤ランキング」を行いたい。
今回もまた序盤(中盤)までの内容から、今後も楽しく観られそうな「期待作」と、放送前の期待や初回の内容に反して……な出来だった「ガッカリ作」を3作ずつピックアップする。なお、本企画ではシリーズ物の新作(『刑事7人』など)は除外とするが、加えて今回は放送時期が極端にズレていることもあり、8月6日にスタートしたばかりの『何曜日に生まれたの』(テレビ朝日系)も除外とする。
期待のドラマ3位 『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』土曜21時~(日本テレビ系)
〈あらすじ〉
2024年3月10日。鳳来高校3年D組の担任教師・九条里奈(松岡茉優)は卒業式を迎えていた。教師としてただただ適切な距離と適切な判断を選ぶだけの1年を過ごした九条が職員室へ戻ろうとしたその時、九条は突き落とされる。九条の視界に入ってきたのは、「D組 卒業おめでとう」と記された深紅のコサージュが腕に飾られた、自分の背中を押したであろう何者かの生徒の手だった。思わず「死にたくない!」と願った九条が目を開けると、なぜかそこは3年D組の教壇の前。黒板には、2023年4月6日、1年前の始業式の日付が。そして目の前にいるのは、1年後、自分を殺す「30人の容疑者」。自分の死の未来を変えるため、生徒との向き合い方を改めていく九条だったが……。
日テレの学園ドラマといえば、物議を醸した『女王の教室』を始め、『野ブタ。をプロデュース』『35歳の高校生』『学校のカイダン』『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』『俺のスカート、どこ行った?』などなど“攻めた”作品が目立つが、『学校のカイダン』『3年A組』などを手がけてきた福井雄太プロデューサーの本作もまた、いじめや学級崩壊に立ち向かう教師モノにSF設定を組み合わせた異色の内容だ。
主人公の九条(松岡茉優)がD組の問題児たちを指導していく動機が、1周目の人生で知った死の運命を回避するためという利己的なところから始まっているのもおもしろいし、そのために本気で生徒たちと向き合う覚悟を決めた結果、生徒たちの変化に合わせて九条もまた変化していくという成長譚になっている。のだが、30人の生徒の中に(おそらく)九条を突き落とした犯人が存在するという犯人捜しの面も当然持ち合わせているうえに、九条が「2周目」であることが今後ストーリーに波紋を及ぼしそうな展開も見せており、SF的なおもしろさも期待できる。ドラマの仕掛けとしても、3年後を描くスピンオフ『3年後の僕たちは』を配信したり、同時期の隣のクラスの物語を中心に描く(が『最高の教師』ともリンクする)クロスオーバー作品『最高の生徒~余命1年のラストダンス~』を放送・配信したりと、ドラマの世界観を別軸で掘り下げる試みをやっているのも楽しい。
個人的にはこのドラマの設定を考えると、“あの人物”が犯人ではないかと予想しているが、動機などをどう説明づけるのかが気になる。そんな考察要素や、『3年A組』のような盛り上がりを見せるかどうかも含め、今期の注目作であることは間違いないだろう。
期待のドラマ2位 『VIVANT』日曜21時~(TBS系)
〈あらすじ〉
丸菱商事エネルギー開発事業部の乃木憂助(堺雅人)は、中央アジアの「バルカ共和国」にある取引先「GFL社」に契約金を誤送金するというトラブルに見舞われる。その損失額はなんと130億円。金を取り戻すべく、やむなく乃木は単身バルカへ渡るも、金はすでにダイヤに変えられ、「アマン建設会社」へと渡っていた。乃木はさっそくアマン建設のザイール(Ganbold Erkhembayar)という人物に会おうとするが、道中でタクシー運転手に騙され、砂漠に置き去りにされてしまう。地元の少女・ジャミーン(Nandin-Erdene Khongorzul)に助けられ、彼女の父親の助けもあって、なんとかザイールに接触することができた乃木。しかし、ザイールはなぜか身体に爆弾を巻いており、「すべてはお前(乃木)が悪い」と、その起爆スイッチを押して――。
今期1位に選んでもいいぐらい、圧倒的なスケールとエンタメに満ちたスピード感のある大作で、このあたりはもう好みによるといったところだろうが、個人的には、乃木の正体について初回からヒントを出しすぎていて、第4話の展開に驚きが少なかったことで2位とした。
自衛隊の「別班(陸上幕僚監部運用支援・情報部別班)」は現実にニュースにもなったことのある存在(菅義偉内閣官房長官=当時は記者会見で存在を否定)だが、別班を扱うフィクションといえば最近でも『陸上自衛隊特務諜報機関 別班の犬』(講談社)というマンガが連載中ということもあり、ミスリードではなく、ストレートに別班を扱う内容だったのはむしろ驚きではあった(ちなみに乃木の“設定”あたりに『平和の国の島崎へ』(同)あたりを思い出している人も少なくないのでは?)。そのスケールなどから映画のようだと言われることが多いが、個人的な印象としてはビデオゲームに近く、『アンチャーテッド』のノリとテンポで『メタルギアソリッド』のシナリオを展開しているような感覚を覚えた。CGかのような美麗な砂漠の映像の非現実感や、初回の逃亡劇、第3話でのサーバールーム侵入の際にご丁寧な“チュートリアル”があったりするあたりにも、映画というよりゲームっぽさを感じた次第。まぁ挙げたゲーム自体が映画を強く意識した作品なのだが……。
ただ豪華キャストにより、誰もが怪しくも感じられるなど、このスケール感だからこそ生まれているおもしろさは今後も担保されそうで、あとは張りめぐらされた伏線をちゃんと回収できるか、「F」やテントの謎をどう着地させられるか、といった脚本がカギだろう。『VIVANT』というタイトルにも「別班のことだった」以外のサプライズがあることを期待したい。
期待のドラマ1位 『ハヤブサ消防団』木曜21:00~(テレビ朝日系)
〈あらすじ〉
三馬太郎(中村倫也)は、スランプ気味のミステリ作家。ある日、太郎は亡き父から相続し放置したままになっていた一軒家の様子を確認するため、山間の集落“ハヤブサ地区”を訪れる。ハヤブサの豊かな自然に心をつかまれ、この地に移住することを決意する太郎。都会のストレスから解放され、穏やかな生活が送れるかと思いきや、地元の消防団に加入したのを機に太郎は連続放火騒動に巻き込まれ、さらには住民の不審死など怪事件に遭遇。真相を探りはじめた太郎の前に浮かび上がるのは、集落の奥底にうごめく巨大な陰謀で――!?
個人的に『VIVANT』と『ハヤブサ消防団』で大いに迷ったのだが、『VIVANT』は先ほどの理由で2位に。また、『VIVANT』はあらすじや役柄を放送開始まで伏せていたとはいえ、キャスティングや製作体制、ティザー映像などから期待は高まる一方だったが、『ハヤブサ消防団』は放送前のティザービジュアルが妙にポップだったこともあり、いい意味で裏切られたと感じた人は多いのではないだろうか。
ドラマ中にも言及があったように横溝正史を想起させる田園ミステリーなのだが、満島真之介、岡部たかし、梶原善、橋本じゅん、生瀬勝久といったクセのある演技巧者を消防団員に据え、ほかにも山本耕史、金田明夫、麿赤兒、一ノ瀬ワタルなどなど渋いキャスティングが目立ち、こちらも『VIVANT』のように誰もが怪しく感じられる。怪しさだけでいえばこちらのほうが一枚上手で、ミステリーの雰囲気にもぴったりだ。『VIVANT』がいわゆる国内ドラマの枠組みから外れた大作エンタメとしたならば、『ハヤブサ消防団』はその枠組みの中でいかに面白いものをつくるかという試みにおける傑作だろう。池井戸潤原作という安定感もあるが、消防団員たちの掛け合いなど、演技によってかなり膨らまされている部分も大きく、単なるミステリーにとどまらないヒューマンな“おかしみ”も加えてくれる。そしてこのクセ者たちを相手に、“都会から来たよそ者だが、徐々に田舎になじんでいく”という主人公を絶妙な塩梅で演じる中村倫也も素晴らしい。シリアス一辺倒ではなく、むしろ田舎の人情コメディっぽく思わせておいて急にサスペンスな展開が襲ってくるというバランス感覚がおもしろいのだ。
この手のミステリーでは、人が次々に死んでいくために警察の介入がないのが不自然になってしまうのだが、『ハヤブサ消防団』は(人も死んでいるが)連続放火事件が主で、そこに主人公が田舎の消防団員として関わっていくという設定もうまい。『世界水泳』の影響で放送が1週休止されたためか、初回や最新の第4話だけでなく、第2話・第3話も今のところTVerで無料配信中のため、未見の方はぜひ追っかけてもらいたい。
期待のドラマ次点(4位)『こっち向いてよ向井くん』水曜22時~(日本テレビ系)
今期は期待度が高かった作品はそのままおもしろく、低かった作品はそのまま……という傾向にあると思う。中でも『ハヤブサ消防団』『VIVANT』『最高の教師』の3作が抜きん出ている印象で、他の作品はわりと横並び感があるが、強いて次点作品を挙げるなら『こっち向いてよ向井くん』だろうか。
初回放送はさながら『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系)の再現ドラマのようだったが、向井くん(赤楚衛二)の“勘違い”を答え合わせしていくあたりはアンジャッシュのすれ違いコントのようでもあり、わりと淡々としていて短くまとまっている原作マンガのエピソードをうまく膨らませていた。特に原作にはない地獄のミサワ風のセリフ「もう、降参。付き合いますか」は赤楚衛二の演技と相まって最高のインパクトを放っていた。それだけに、以降(特に第3話・第4話)にやや失速感を覚えてはしまったが……。同じ日テレ水曜枠の『東京タラレバ娘』などにも通ずる恋愛の“リアル”に迫るタイプの作品だが、男性目線も交えているところが『向井くん』のおもしろさだろう。坂井戸(波瑠)が想いを寄せる相手を演じるのが市原隼人というキャスティングも絶妙で、原作がまだ完結していないだけにどんな結末となるのかも楽しみだ。
なお、GP帯ドラマを対象とする企画のため、深夜ドラマはランキングに選んでいないが、菊池風磨(Sexy Zone)主演のカンテレ制作・フジテレビ系列放送の火ドラ☆イレブン『ウソ婚』に少し触れておきたい。ジャニーズ俳優を起用したマンガ実写化ラブコメだと侮っていたが、ATP賞テレビグランプリ優秀賞に輝いた『しずかちゃんとパパ』(NHK BSプレミアムほか)の蛭田直美による脚色に驚かされた。原作であまり出番のないキャラクターの原作では明示されていない設定をドラマオリジナルで掘り下げ、このキャラクターが「ウソ」をついているとしたらどんな内容になるのかと丁寧に描いた第4話・第5話で心を掴まれてしまった。配信人気も高い『ウソ婚』だが、へたなGP帯ドラマよりずっと面白くなりそうだ。
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