木原事件ほか未解決事件を収めた『迷宮』はなぜ生まれたのか?【重版決定、電子書籍刊行】
#沖田臥竜 #木原誠二
点と点を想像力で補い、勝手に真実を作ってはいけない
「実は今、大変なことが起きているんです」
4年前、兵庫県尼崎市にある、幼馴染が経営しているカフェで、その人物は切り出した。それが文京区変死事件の話だった。まだ、どこのメディアも噂すら掴んでいなかった。私は瞬時に「これは本にして出版すべきだ」という衝動に駆り立てられ、その日のうちにサイゾーに企画を持っていき、出版を打診し、責任者を口説いてみせたのだ。
それが、ビジネスとして正解だったかといえるかどうかは、売上と反響次第なわけだが、その答えは現状を見ていただければわかるだろう。このご時世に、3年の時を経て、重版が決まったのである。
当時この本を作るにあたりこだわったのが、未解決事件を題材にした、これまで出版されてきた数々の本を否定するところだった。
それらの本は、容易に犯人や事件の背景を推測してみせる。読む分には「〇〇事件の犯人はコイツだ!」とやったほうが面白い。だが、冷静に考えれば、「ならば、なぜ逮捕されていないのだ?」と誰でも突っ込みたくなるだろう。
だからこそ、『迷宮』では、悪戯に憶測などを交えることなく、題材と向き合った。夜中、ひとりで書いていると、想像力が膨らみ、点と点が結びつく瞬間というのが確かにあって、ゾクゾクした感触を覚えたこともあった。時には、真実にたどり着いてしまった…と感じる瞬間もあった。だが、決してその思いに流されるようなことはせず、残されているファクトのみを追究し、莫大な資料と丁寧に向き合いながら、登場する人々の人間模様に、文章の重心を置き続けた。
あれはこうじゃないのか、いやこうしたほうがよい、という人もいるが、だったら、自分で取材をやってみろと思ってしまう。感想などは誰でも言えるのだ。それはジャーナリズムでも、ノンフィクションでもない。テレビのニュースを観て、好き勝手言っている視聴者となにも変わらない。
今回の「週刊文春」の報道を見ていても、特段驚くようなことはない。捜査員やその周辺の誰もが口を開かない中で、細部について、いくつかの点を掘り起こし、憶測を交えながら線で繋いでいるのだ。
それと同じことを、事件の再捜査が始まった2018年当時、誰ができたかと言えば、『迷宮』をつくるきっかけとなったある人物と私にしかできなかったのではないか。
安定した生活の中で、給料をもらえる仕事として、「こいつは鋭い取材をする!」という評価を受けることは、すまないが、当たり前のことではないか。こちらは、経費が出るわけでもなく、日常の空いた時間に調べに調べて書いていくのだ。それでも、書籍になった時にもらえる印税なんてたかが知れている。だが、とにかく本を出す!というエネルギーがそこにはあった。その段階を踏まずに、本来の希望である、小説を出すことなんてできないと考えていたのだ。
果たして、その情熱が今の自分にあるだろうか……。
総合的な見解として、文京区変死事件は、重要参考人となっている本人が何かしら供述でもしない限り、再々捜査が始まり、弾けることはない。メディアや世論がどれだけ騒ぎ立ててもだ。
しかしながら、文春の熱量を見ていると「だが」と一言添えたくなるような感触がないわけではない。文春はジャニーズ問題報道を世に出すにあたり、前編集長の加藤氏が作り出した、世論を動かすための構図があった。その端緒が、元ジャニーズタレント本人による性的被害を訴えた記者会見だ。そこで、NKHと共同通信を狙い撃ったのだ。
自分たちの単独報道にとどめず、公益法人である日本外国特派員協会で公の会見を開き、公共性が比較的強いNHKと共同通信を巻き込むことが狙いだったのだ。そのどちらかが報じてくれれば、回る。つまりは文春以外でも報じられることになると考えて、現場の記者の「それはきつい」ということにも耳を貸さず、会見の実施を押し切ったのだ。その結果、会見の翌日にNHKが報じ、空気は一変し、果ては国連までもが動く社会問題となった。
気づいてくれただろか。そう、今回も同じフォーメーションが組まれているのだ。
3年前と同じことを繰り返し言うことになるが、今のままでは文京区変死事件が弾けることはないだろう。だが、ジャニーズ問題を見てわかる通り、山が動くことはある。その時に備えて、文京区変死事件にかかわる人々は、メディアも含め、なんらかの対処法を考えておいてもよいのではないだろうか。
(文=沖田臥竜/作家)
『迷宮 三大未解決事件と三つの怪事件』
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沖田臥竜・著/サイゾー・刊
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