トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 社会  > ふるさと納税爆増とその弊害

ふるさと納税爆増も、その弊害もあらわに

ふるさと納税爆増とその弊害の画像1 

 ふるさと納税の増加が止まらない。総務省が8月1日に発表した「ふるさと納税に関する現況調査」の結果によると、22年度のふるさと納税額は初めて9000億円を突破、件数も初めて5000万件を超えた。ただ、ふるさと納税の増加は、さまざまな弊害も引き起こしている。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zeimu04_02000114.html

 22年度のふるさと納税額は前年度比1351.7億円(16.3%)増加して9654億1000万円に、件数は同737万件(16.6%)増加して5184万3000件となった。

 08年度には、わずか81億4000万円、5万4000件だったふるさと納税は、10年後の18年度に納税額で5000億円、件数で2000万件を超え、その後も、20年度に6000億円、3000万件、21年度に8000億円、4000万件を超え、22年度には9000億円、5000万件を突破した。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像2

 都道府県別のふるさと納税額受入の上位では、北海道が1452億9000万円と圧倒的な納税額を集めた。一方で富山県は28億7000万円と全国で最も納税額が少なかった。両県の間では、ふるさと納税だけで50.6倍もの税収の格差が生まれている。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像3

 ふるさと納税額の格差の背景には、魅力ある返礼品の有無やPRなど、さまざまな理由があるだろうが、各自治体に入る税金に大きな格差が生まれていることは事実だ。

 ふるさと納税を行った分は、申告することで住民税が控除される。23年度にふるさと納税による住民税控除額は前年度比1081億4000万円(18.9%)増加して6798億2000万円に、控除適用者数は同144万8000件(19.4%)増加して891万1000件となった。

 09年度には、わずか18億9000万円、3万3000件だったふるさと納税による住民税控除額と控除適用者数は、10年度の19年度には住民税控除額で3000億円、控除適用者数で300万人を超え、その後も、21年度に4000億円、500万人、22年度に5000億円、700万人を超え、23年度には6000億円、800万人を突破した。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像4

 ふるさと納税による住民税控除の都道府県別上位では、東京都が1689億5000万円と圧倒的に多く、次いで、神奈川県の707億5000万円、大阪府の549億2000万円と続く。つまり、本来は東京都に入るべき住民税約1700億円が、ふるさと納税により控除されていることになる。大都市を中心に、ふるさと納税を行う人が多い都府県では、ふるさと納税により、本来入るべき住民税が減少しているということだ。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像5

 地方自治体別で、ふるさと納税の受入額の上位では、宮崎県都城市が195億9000万円を集めてトップ。次いで、北海道の紋別市、根室市、白糠町と続く。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像6

 一方、ふるさと納税による住民税控除額の上位では、神奈川県横浜市が272億4000万円で最も多く、次いで、愛知県名古屋市、大阪府大阪市、神奈川県川崎市で100億円以上の控除額となっている。

ふるさと納税爆増とその弊害の画像7

 面白いことに、京都府京都市は全国で7番目にふるさと納税受入額が多く、95億1000万円の納税を得ているが、半面、全国で10番目にふるさと納税による住民税控除額が多く、73億9000万円の住民税が減少している。

 こうしたふるさと納税の状況は、さまざまな弊害を生み出している。例えば、ふるさと納税による住民税控除額が全国5番目に多い東京都世田谷区では、これまでに何度も区長自らが、住民税控除の影響により、区の住民サービスが低下する危機感を訴えている。

 一方、ふるさと納税の受入額がすべて自治体の税収となるわけではない。ふるさと納税の受入額のうち27.8%が返礼品の調達費用となり、返礼品の発送費や事務費用を加えると、受入額の46.8%がふるさと納税を募集するための費用となっている。つまり、純粋に各自治体が地元住民のために使えるのは、ふるさと納税により集まった額の約半分に過ぎない。

 それでも、住民数が少なく、企業も少ない地方の自治体では「ふるさと納税による税収が住民サービスを行っていく上で、欠かせないもの」になっているところも多い。だが、ふるさと納税に頼らざるを得ない構図が、本当に適正な自治体運営と言えるのだろうか。

 近年の物価上昇により、返戻品を受け取れるふるさと納税額が引き上げられている。一部の自治体では、例えばこれまでは1万円のふるさと納税で得られた返戻品が、1万5000円の納税額になるなど、50%も納税額を引き上げているところもある。

 こうした返戻品を得るための納税額の引き上げにより、ふるさと納税を行う人が減少すれば、住民サービスの財源をふるさと納税に頼っていた自治体では、危機を迎えることになるだろう。

 ふるさと納税のより、多くの税収を集める自治体、多くの住民税が減少する自治体、ふるさと納税がないと住民サービスを行えない自治体。ふるさと納税はさまざまな問題点を内包している。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

記事一覧

Twitter:@tohrusuzuki

鷲尾香一の ”WHAT‘S WHAT”

わしおこういち

最終更新:2023/08/07 07:00
ページ上部へ戻る

配給映画