世界の基軸通貨「米ドル」の危機…対ロシア制裁が裏目、中国人民元の決済が急拡大
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世界の基軸通貨である米ドルの地位が危うくなっている。米国による経済制裁の中でロシアと貿易を続ける国の「米ドル離れ」が進んでいるほか、経済の混乱で途上国によるドルの調達が困難になっているからだ。決済手段としても外貨準備の手段としてもドルが減っている。代わりに利用が増えているのが中国人民元で、イデオロギーによる世界の分断が、基軸通貨の分断につながる可能性が出てきた。
「脱米ドル」の流れが、ことのほか加速しているのは南米だ。1月に就任したブラジルのルーラ大統領は「脱米ドル」の急先鋒で、ブラジル中央銀行に人民元の決済機関を設けることで中国当局と合意した。3月にはブラジル産大豆の主要輸出先である中国との貿易や投資について、米ドルを介さずに、地元通貨のレアルと人民元を交換することでも合意している。
ブラジル中央銀行の外貨準備に占める人民元の割合は増加し、2022年末時点で5.37%となり、4.74%のユーロを抜いて米ドルに次ぐ2番目の地位を占めるようになった。
中国の大手銀行の傘下にあるブラジルの銀行BOCOM BBMは3月、標準指定通貨(デフォルト通貨)として米ドルを使う代わりに、レアルと人民元を直接交換できる協定を中国と結んだ。
インフレ率が100%を超えるアルゼンチンは4月、中国からの輸入品の決済を米ドルから人民元に切り替えると発表した。歴史的な干ばつなどの影響で農作物の輸出が激減し、外貨準備として積み立てている米ドルが圧倒的に不足し、外貨準備を取り崩さないために、中国からの輸入品の支払いを人民元ですることにした。さらに、IMF(国際通貨基金)への返済の一部についても人民元で支払う。
電気自動車のバッテリーの原料であるリチウムの資源埋蔵量が世界トップのボリビアは、7月27日に政府が輸出入の決済手段として人民元を使用していることを明らかにした。5~7月の人民元での決済は対外貿易全体の10%ほどになっている。バナナなどの農作物や亜鉛、木材製品などの貿易について国営銀行が決済を実行したという。ボリビアもアルゼンチンと同様、外貨準備としての米ドル不足に悩まされており、人民元での支払いは外貨準備の温存という意味合いもある。
ラテンアメリカでの中国の経済的な影響力は2000年以降急速に拡大した。この20年間で中国への経済的依存度は17倍に膨らんだ。ただ、人民元を決済に直接使う動きは、今年に入って急速に広がりを見せているものだ。通貨が浸透するということは、貿易量が増加するということよりも経済的なインパクトは大きい。中国のラテンアメリカへの経済進出は、新たな局面を迎えている。
アジアでも、動きが加速している。ロシアからの原油輸入を続けているインドで、複数の石油精製会社が、調達した原油の支払いを一部、人民元でしていることが7月、明らかになった。ロイター通信が報じた。米国などの制裁で面倒なことになることを恐れた銀行が、ドルでの支払いを拒否した場合の措置だという。
米ドルは長らく、世界の原油取引通貨になっているが、ウクライナ侵攻に対する米国の経済制裁でロシアがドルとユーロの決済ネットワークから締め出されたことで状況は一転した。中国の原油の輸入先はこれまでサウジアラビアがトップだったが、米国による経済制裁以降、ロシアが最大の輸入先となった。中国はロシアからのエネルギー輸入のほとんどを人民元で決済している。
インド政府は人民元での決済は「あくまで一部の支払い」だと認識しているようだが、民間での現場では額はまだ少ないものの着実に広がっている。中国当局は石油取引での人民元の決済を世界に促しており、インドでの人民元での決済は中国当局の取り組みを後押しする形となっている。
バングラデシュでは、ロシアの国営原子力会社ロスアトムが原子力発電所を建設しているが、建設費用などを人民元で支払うことでバングラデシュとロシアが合意したという。ブルームバーグやワシントン・ポストなどが報じた。米ドルでの支払いができないバングラデシュにロシアは、ルーブルでの支払いを求め、1年ほど交渉が難航していたが、中国がバングラデシュの一部の銀行に中国との取引の決済を人民元で行えるように許可したことから、4月にバングラデシュとロシアが人民元での決済に合意した。
3月にモスクワで開かれたロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席との会談では、国際経済における人民元の役割についても議題になった。プーチン大統領は「ロシアは、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々とロシアの間の支払いに中国人民元が使われることを支援する」と話し、人民元を世界の基軸通貨にしようとする中国の政策を支持した。米国の経済制裁を逆手にとったロシアと中国の試みは、この会談で弾みがついたともいわれている。ロシアへの経済制裁は人民元を利するだけだ、という声は米国政府内にも根強い。
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