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高速道路、遊園地…続々導入される「料金変動性」が行き着く“究極の格差社会”

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 神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインで、7月22日から新たな試みが行われている。東京湾を横断するアクアラインは毎週末、激しい渋滞に襲われるが、これを解消するため、上り線(木更津→川崎方面)で時間帯別の料金を導入。平日のETC料金は800円だが、土日祝は13時~20時を1200円とし、代わりに20時~24時を600円に下げる社会実験を始めた。

「週末のアクアラインはゴルフや行楽帰りの車が夕方に集中し、全線にわたって渋滞することもしばしば。せっかくのショートカットルートが用をなさない状況です。渋滞箇所は大きく分けて4か所。入口の料金所、見晴らしの良い『海ほたるPA』、上り坂でスピードが落ちるトンネル内、浮島ジャンクションと、渋滞ポイントだらけで、全長15kmを通過するのに1時間近く掛かることもザラです」(トラベルライター)

 NEXCO東日本は26日に会見を行い、料金が切り替わる19時台は昨年同時期より約350台の減少が見られ、20時~24時は約300台の増加があったと発表。一定の効果があったとの見解を示した。時間帯によって料金を変える試みは今後、増えていく流れだが、めでたいことばかりではない。

「料金を変動制にして交通量を抑制するロードプライシングは、東京五輪の際に首都高速で導入され、その際は基本料金が1000円上乗せされました。これについて警視庁は『最大96%の渋滞減少があった』と効果をアピールしましたが、これは首都高速だけの話。

実際には、上乗せ料金を嫌って一般道を走るトラックが増加し、『下道がメチャクチャに渋滞して、普段より大幅に時間が掛かった』という声がドライバーから相次いで、賛否は大きく割れました。

『渋滞解消のため』といえば聞こえは良いですが、見方を変えれば、“渋滞がイヤなら金を払え”“貧乏人は一般道を走れ”ということ。何とも世知辛い世の中です」(同上)

 利益を最大化するため、変動制の料金を導入する業界は多い。ホテルや飛行機は以前からピーク時に高い料金を設定しているが、最近はディズニーランドやUSJも変動料金(ダイナミックプライシング)を導入。Jリーグでも、人気の試合とそうでない試合で料金を変える試みが行われている。

「日本に先駆けてダイナミックプライシングを導入した欧米では、文字通りダイナミックな価格設定をするケースが多く、大物ミュージシャンのライブでは最前列に数十万円の値がつくケースもあります。

これまでは運さえ良ければ、1万円程度の料金でアーティストを目の前で見ることも可能でしたが、これからは“金持ちほど前に座る”というのがスタンダードになりそう。えげつない例では、最後列から1列ごとに値段を上げていくやり方さえあります」(エンタメ誌記者)

 需要が多ければ値段が上がるのは経済原則としては正しいが、それが正解かどうかは、そう簡単ではない。

「最新の例で言えば、インバウンドが戻ってきた北海道や大阪などでホテル料金がべらぼうに上がるケースが相次いでいます。確かに、客が殺到すれば料金を上げるのは当たり前ですが、これまで数千円で泊まっていた客が、いきなり2万、3万といった料金を求められれば、当然、満足度は下がる。短期的に見れば売上は上がっても、長期的に見れば顧客を失うわけで、ビジネスとしてどちらが正解なのかは、簡単に答えが出る問題ではありません。

 それはサッカーやコンサートでも同じこと。不景気が続く今、庶民の財布の紐は締まりに締まっている状況ですから、コンサルの口車に乗せられて安易に値段を変動制にして、富裕層ばかり優遇するようなことを行えば、きっと手痛いしっぺ返しを喰らうことになりますよ」(大手紙記者)

 料金変動制は、その気になればどんなことでも行える。

「JR東日本は2020年、乗車距離によって料金が決まる現在の運賃設定について、時間によって運賃を変える制度の導入を検討していることを明らかにしました。これについては国土交通省も前のめりで制度設計を行っており、遠からず導入される可能性は高い。鉄道各社は大幅な値上げはしないという姿勢ですが、こればかりはフタを開けてみなければ分かりません。

 これが実現すれば、通勤通学の際、ピーク料金を払う余裕がない人間はムダに早起きしたり、遅く会社に出る分、遅く帰る生活を強いられることもあり得ます。混雑解消の試みは続けられるべきですが、“すべては金次第”というやり方は、利用者の意見も募るなど、慎重に進める必要があるのではないでしょうか」(ビジネス誌記者)

 時間や快適さを金で買える世界は金持ちにとってはユートピアだが、大多数の庶民に待ち受けているのはディストピアなのかもしれない。

藤井利男(ライター)

1973年生まれ、東京都出身。大学卒業後に週刊誌編集、ネットニュース編集に携わった後、独立。フリーランスのジャーナリストとして、殺人、未解決事件、死刑囚、刑務所、少年院、自殺、貧困、差別、依存症といったテーマに取り組み続けてきた。趣味はダークツーリズム。

ふじいとしお

最終更新:2023/07/29 21:00
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