山里亮太が失敗した「先輩芸人が後輩芸人に奢る」システムの謎と裏事情
#山里亮太 #檜山豊
19日の深夜、南海キャンディーズの山里さんがTBSラジオで放送されている「JUNK 山里亮太の不毛な議論」においてとある失敗談を語った。
山里さんがとあるもつ鍋店に入店したところ、ハライチの澤部さんが家族で食事を楽しんでいたという。それを発見した山里さんは、自身が芸人の先輩ということもあり、澤部さん家族の分もまとめて支払おうと計画した。自分たちはまだ入店したばかりなのだが、澤部さん家族の話を聞く限り、もうまもなくご飯を締めようとしているようで、このままではまとめて支払う事ができない。
そこで山里さんグループは急いで食事をし、澤部さんファミリーより早く食べきるという作戦をたてたのだ。口の中を火傷しながら何とか食べきった山里さんは無事にまとめて支払うという当初の目的を遂行し、店を出ることに成功した。
ただ山里さんにとある疑問が生じた。それは「隣の席にいたのは本当に澤部一家なのか」ということ。確認する方法が思いつかず、結局本人に聞くという一番格好悪い方法をとった。実際のところ、隣にいたのは澤部さんファミリーだったのだが、急いで食べて急いで会計を済ませようとしている会話までばっちり聞こえていたらしく、先輩芸人としてカッコよく奢りたいという気持ちとは裏腹にカッコ悪い先輩になってしまったようだ。
この話からもわかるように、芸人の世界では先輩が後輩に奢ると言うのは当たり前の行為である。これは先人たちから代々受け継がれている慣習で、先輩芸人や大御所芸人の「奢り」エピソードは数えきれないほど存在している。
有名なところでいうと「ビートたけし」さんのエピソード。贔屓にしているお店にはたけしさん本人が不在でも奢れるように、常にお金が置いてあり、たけしさんが知っているであろう人が来た時にはそのお金から奢るようなシステムにしているとのこと。
それからダウンタウンの松本人志さんは過去30年で後輩に奢った金額は総額1億円を超えていると明かしている。元々吉本興業には先輩が後輩と行動を共にする場合、先輩が全額負担するという不文律があり、食事などはもちろんのこと、旅行などに関しては宿代、交通費など全て先輩持ちになるのだ。この風習は吉本興業だけにとどまらず、芸人全般に広がっており、吉本興業の芸人以外にもこのルールが適用されていた。
しかも先輩が後輩に奢るというシステムの中に「お金を持っている先輩に限る」という文言はなく、「先輩」ならお金を持っていようが持っていまいが奢らなければならないのだ。その結果借金をしながら後輩に奢るという芸人は数多く存在していた。吉本興業で言うと品川庄司の品川さんや、千鳥の大吾さんの話は有名で、あとはさまぁ~ずの大竹さんも消費者金融からお金を借りながら後輩に奢っていたと伺った。
実はこのルールは今は少し和らいでいるらしく、インディーズで活躍しているような芸人たちは先輩だろうが後輩だろうが割り勘にしたり、自分が食べた分を払うという当時の芸人からすれば信じられないようなルール改定が行われているようだ。
ちなみに僕が芸人をやっていた頃はまだこの「先輩が奢る」というシステムが有効な時代で、僕も一度えらい目に合っている。所属していた事務所のライブを終え帰路につこうとしたその時、後輩の芸人が僕に声をかけてきたのだ。
「檜山さん、今日飯でも食いにいきません?」
普段後輩とご飯を食べに行ったり飲みに行くことがないので、たまには良いかと思いその誘いに乗った。すると後輩は「他にも後輩誘っていいですか?」と尋ねてきたのだ。自分の財布の中を瞬時に頭で計算し、ある程度の人数でも奢ることは可能だと判断した僕は「いいよ」と気軽に答えてしまったのだ。
これが運の尽き。普段あまり後輩と接していない僕と飲みに行きたいという後輩が集まってしまい総勢15名ほどで飲みに行くことになってしまったのだ。かなりの計算外。最初に声を掛けてきた後輩は僕のそんな気持ちも知らずに「みんな遠慮しないで飲め!」と冗談交じりに後輩たちを煽り、ちょっとした宴会と化した。会計は10万を超え、果たしてどうしたものかと悩んでいると、ライブの楽屋でパチンコで大勝ちしたと言っていた後輩がいたことを思い出した。恥を忍んで後輩へ足りない分のお金を借りて無事にその場を切り抜けたのだが、いつもと違うことをするととんでもない目に遭うということを思い知らされた日だった。
ちなみに僕にお金を貸してくれた後輩へ対して、会うたびに小銭で返済するという謎の約束を一方的に取り付けて、数万円を3年ほどかけて完済したという思い出も追記しておく。
苦労して売れるという時代から、ふとしたきっかけで売れる時代になった今、多くお金を持っているのが後輩というパターンも少なくない。そんな時代だからこそ、先輩が絶対に奢るという暗黙のルールが消え始めているのだろう。
古き良き芸人の生き様は新しい芸人像で塗り替えられていく。何年後かには「デビューして1ヶ月で先輩たちに奢ってあげた」というエピソードが武勇伝として語り継がれていくのかもしれない。型にはまった破天荒な芸人よりも、個性が強い真面目な芸人の方が今の時代には合っている。
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