もはや変な笑いが出てくる『ミッション:インポッシブル』最新作の魅力
#映画 #ヒナタカ
7月21日より『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が公開中だ。すでに世界累計ではシリーズ最高のオープニング記録を樹立しており、その評価もすこぶる高く、米批評サービスRotten Tomatoesでは350人以上による批評家の支持率が96%にまで到達した。
それも納得の面白さと完成度。トム・クルーズががんばり続ける姿がまたも“史上最高”を更新しており、とんでもない“強度”のアクションに呆然とする、(後述する意図的なギャグシーン以外でも)もはや変な笑いが出てくるほどの内容だった。
なお、主人公であるイーサン・ハントの“これまで”も踏まえた作劇もあるので、シリーズを観ていたほうが良いところもある。だが、初めて観る方でも、ヘイリー・アトウェル演じる新キャラクターのグレースの目線で物語を追うことができるとも思う。本編のさらなる魅力を記していこう。
「その場所があってこそ」なアクションの数々
本作は何しろアクション超大作。世界のさまざまな場所でド派手な見せ場が展開することが大きな魅力だ。アブダビの砂漠、ヴェネツィアの迷路のような道と運河、ローマの歴史的な首都、(オーストリア・アルプスの代理としての)ノルウェーの広大な山々など、それぞれの風景だけでスクリーン映えするのだが、注目は「その場所ならではのアクション」があることだろう。
例えば、砂漠で“砂嵐”が来ることがとあるサスペンスとつながっているし、ローマの街でのカーチェイスは“路地”や“階段”までも活かし、さらなるコミカルな見せ場へと展開する。クリストファー・マッカリー監督は 「ロケーションを中心にシーンを構成している」「ロケがアクションを決定する」とまで断言しており、なるほどその通りの、ロケを最大限に活かしたバラエティ豊かなギミックを楽しめるのだ。
ちなみに、本作の製作費はトム・クルーズ主演作および、『ミッション・インポッシブル』シリーズ史上もっとも高い2億9100万ドルにまでのぼっている。もちろんこれらの大規模なロケのためもあるのだろうが、やはり新型コロナウイルスによる度重なる製作の延期も大きかったようだ。トムは陽性者が出た時のため、キャストとスタッフが隔離できるよう、古いクルーズ船の購入のため個人的に50万ポンドを支払ったこともあったらしい。
トム・クルーズを止めたくなる目玉の“ベースジャンプ”の凄まじさ
目玉となるのが、予告編で誰もが度肝を抜かれたであろう、断崖絶壁へ向けてバイクでフルスピードで突っ走り、そしてバイクを捨てながら崖下へと飛んでいく“ベースジャンプ”だ。もちろん、この危険にもほどがあるスタントを実現させるための準備は入念、いや執念と言えるほどのもので、その準備期間は計15ヶ月にも及び、トム・クルーズはスピードが上がるまで536回ものジャンプ練習を行ったりもしたらしい。
そのトムはジャンプ直前にはさすがに恐怖心があったことも語っているのだが、「仮に大ケガや事故死したら映画が続けられなくなる」という理由で最初にこの超危険なスタントを撮影したというのはいろいろな意味で恐ろしい。このシリーズは観るたびに、「イーサン・ハントのすごいアクションがもっと観たい!」「トムが危険なスタントに挑みすぎていつか死んじゃいそうだから誰か止めてあげて!」とアンビバレントな気持ちになってくるのだが、それが今回のベースジャンプで頂点に達したと言っていい。
なお、前作『ミッション・インポッシブル フォールアウト』でも、トムは7620mの高高度を飛行機から飛び降りて、約304~609mの範囲でパラシュートを開くという“HALOジャンプ”に挑んでいたが、今回のベースジャンプではそれが約152~182mとなり、数字的にもさらに危険度が増していることがわかる。崖そのものにぶつかる可能性があるベースジャンプが、スカイダイビングとまったく異なることは、言うまでもないだろう。
また、その『フォールアウト』でのHALOジャンプは、正直「そんな高いところから飛んで忍び込む必然性がまったくないよね」と物語上でのツッコミを入れたくもなった。だが、今回のベースジャンプでは「そこまでしなければいけない理由」がしっかり描かれていて、その過程がほぼほぼギャグとなっていて爆笑してしまった。別の場所でのシリアスなやり取りとの“ギャップ笑い”も楽しんでほしい。
シリーズ中もっともダークだが、“重くなりすぎない”バランスに
今回の物語と言えば、世界の平和を脅かす謎の“鍵”の争奪戦をするという、それだけを取り出せばシンプルなもの。だが、主人公のイーサン・ハントが“過去”に向き合い、そしてとある“選択”にも迫られるという、シリーズを“総決算”するような、ダークな印象も強くなっている。
また、タイトルのデッドレコニング(Dead Reckoning)とは、進んだ距離、起点、偏流などから、過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う“推測航法”を意味しているのだが、なるほどそれが今回のイーサンの物語上の立ち位置を示しているとわかる。また、とある現代的なモチーフも登場し、荒唐無稽なアクション映画のようでいて、根底にある問題提起は決して絵空事ではないとも思い知らされた。
そうしたシリアスさやダークさが加速していながらも、“重くなりすぎない”バランスになっているのも長所だろう。前述した“ギャップ笑い”でいい感じに中和もされるし、スパイものの醍醐味とも言える敵をあざむいて「ざまぁ!」とスカッとする逆転劇など、やはりエンタメ度マシマシな作劇も用意されているのだ。
また、何しろベースジャンプが予告編から大きな見せ場となっていたので、それ以上のアクションはさすがに望めないだろうと思っていたら、クライマックスで「なんて面白いんだ!」と心から思える、さらなるギミックも用意。最後までサービスがぎっしりと詰まっているのも嬉しかった。
唯一の大きな不満と、トムのさらなる「実際に自分でやってみる」エピソード
ほぼほぼ文句なしの出来栄えと言えるが、それでもあえて不満を言うのであれば、やはり物語がこの1本だけでは終わらないことだろう。シリーズ最長となった164分の上映時間があっという間に感じられるほど面白いし、しっかりとした区切りのあるところで終わってもいるのだが、それでもやはり「早く続きを見せてくれ!」となってしまう。
この2023年公開の大作映画は『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』も「パート1なので続きはまた後で」だった。その“飢餓感”は良くも悪くも覚えてしまうだろう。これはもう、仕方がない。
最後に、トム・クルーズならではのエピソードをもう1つ紹介しておこう。劇中でイーサンと、新キャラクターのグレースが空港で初めて出会う時、トム・クルーズは文字通りにキーアイテムとなる“鍵”の半分を、実際の“手品”として披露したのだという。何度も失敗もしたそうだが、おかげで視覚効果をほとんど使わない、トム直々による本物の手品が映し出されているのだ。そんなふうに超危険なスタント以外でも「実際に自分でやってみる」トムらしいサービス精神を、ぜひ劇場で感じてほしい。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』7月21日(金)全国公開!
監督・脚本:クリストファー・マッカリー(『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』)
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、ヘンリー・ツェニー
全米公開:2023年7月12日
原題:Mission: Impossible – DEAD RECKONING PART ONE
配給:東和ピクチャーズ
C) 2023 PARAMOUNT PICTURES.
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