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遅々として進まない海洋プラスチックごみ対策に切り札、群馬大が新プラ開発成功

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海洋プラスチック(写真/GettyImagesより)

 海洋生物の声明を危険にさらし、生態系への影響や漁獲量の減少、さらにはプラスチック成分を取り込んだ魚や貝などを摂取することでの人体への影響まで懸念されている海洋プラスチックごみ問題。群馬大学の研究チームは7月7日、海洋プラスチックごみ問題解決の切り札となる、新しいタイプの海洋生分解性プラスチックの開発に成功したと発表した。

 https://www.gunma-u.ac.jp/information/160447
 
 様々な研究機関が海洋プラスチックごみ問題の研究を行っており、2015年段階で世界の海に存在しているプラスチックごみは、合計で1億5000万トンと推計されており、その80%以上が漁業や漁船などの海で発生したものではなく、陸から発生して海に流出したものと見られている。
 
 この陸から発生して海に流出したもののうち、4分の3は収集されなかった廃棄物によるもので、残りは廃棄物管理システム自体からの発生なっている。さらに、毎年、少なくとも800万トンに及ぶプラスチックごみが新たに海に流出している。
 
 2016年の世界経済フォーラムでは、現在、海へ流入しているプラスチックごみはアジア諸国からの発生によるものが全体の82%を占めると指摘されている。
 
 こうした海洋プラスチックごみを海鳥の90%が摂取しており、2050年までに海鳥全種の摂取量が99%に達すると予測されている。また、2050年には、海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えると推計されている。
 
 発表文によると、こうした問題を解決するため、海洋流出後に分解する新たな海洋分解性プラスチックの開発が進められている。ほとんどの生分解性プラスチックは、土壌では分解が始まるものの、海洋での分解開始は遅いものが多く、このため海洋に流出後に十分に生分解性を発揮できないといった問題があった。
 
 そこで注目されたのが、生分解性プラスチックで、このプラスチックは環境流出時に微生物によって無害な化合物にまで分解される。ただ、多くの生分解性プラスチックは海洋環境では十分に分解しないという問題があった。
 
 そこで研究チームは問題を解決するために、あらかじめ生分解性プラスチックに分解酵素を生産する微生物を休眠状態で封じ込め、材料が古くなった際、材料内部の微生物が増殖し分解酵素を生産し、急速に生分解が進む「摩耗スイッチ搭載海洋生分解性プラスチック(微生物埋込型プラスチック)」を開発した。
 
 これに用いた微生物は休眠状態では、高い熱安定性を発揮するため、プラスチックを溶かしながら練り込むことも可能で、海洋では分解しにくいという生分解性プラスチックの海洋生分解性向上を実現した。
 
 研究グループは、同様の技術により土壌中での生分解性向上に効果があることも実証済みで、特許登録も済んでいる。
 
 研究グループは、「この技術は、生分解性プラスチックの安定した海洋生分解性発現に役立つと考えられる」とコメントしている。
 
 研究の成果は7月6日、国際学術誌PolymerDegradationandStabilityにオンライン掲載された。
 
 日本のプラスチック生産量は世界第3位で、日本からも多くの海洋プラスチックごみが発生している。レジ袋の有料化など様々な対策は進められているものの、一海洋に流出したプラスチックごみ対策は遅々として進まない。
 
 今後、海洋プラスチックごみの流出を抑え、流出した際に自然環境や海洋生物に影響を及ぼさないようにしていくためにも、今回の技術が実用化されることを期待している。

鷲尾香一(経済ジャーナリスト)

経済ジャーナリスト。元ロイター通信の編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで様々な分野で取材・執筆活動を行っている。「Forsight」「現代ビジネス」「J-CAST」「週刊金曜日」「楽待不動産投資新聞」ほかで執筆中。著書に「企業買収―会社はこうして乗っ取られる 」(新潮OH!文庫)。

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Twitter:@tohrusuzuki

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最終更新:2023/07/17 08:00
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