『RRR』ラーマ役でラーム・チャランに魅せられたファン必見のインド映画『ランガスタラム』
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『マガディーラ 勇者転生』(2009)に続き、『RRR』(22)の大ヒットによって、日本でも圧倒的な知名度を得たインド人俳優ラーム・チャラン。彼が、役者人生の転換点ともいう重要作『ランガスタラム』が、7月14日より公開となった。
ちなみに同作は、テルグ語映画で初めて世界興収20億ルピーを記録した作品としても知られている。
タイトルにもなっているアーンドラ・プラデーシュ州ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯にある「ランガスタラム」という村を舞台とした物語。プレジデントといわれる独裁的な村長が支配している村で、異議を唱えた者は容赦なく抹殺されることから、村民はプレジデントに従うしかないという支配構造が出来上がっている、いわゆる「村」系作品だ。
根底にはインド特有のカーストが影響しているし、差別されていたはずの人が、自分よりも下のカーストに対して差別をする。そういった差別の連鎖、独裁的な支配下で苦しむ人々を描いた作品はどこの国でも多く存在しているといる。特にインドの田舎を舞台にした作品ではよくある設定で、大筋のプロット自体はそれほどめずらしいものではない。
しかし、『ランガスタラム』がそういった作品と圧倒的に違っている点は、ラーム演じる主人公・チッティが難聴という設定であり、それをギミックとして巧妙に機能させていることだ。
設定を初めて聞いたときは、どうしてラームの役を難聴という設定にしているのかがわからなかった。だが、実際に作品を観てみると、巧妙な脚本の中で欠かせない要素であることがわかってくる。
チッティは難聴ではあるが、右耳のみが聴こえづらいという設定。お調子者のチッティは、自分の都合の良いことや好きなことだけを聴いて生活していたが、そうもいかなくなってくる。聴こえなかったもの、聴こえないようにしていたものが、村民の苦しみを目にすることで、どうしても聴こえてきてしまうのだ。つまり、それが今作のひとつのテーマとなっている。
前半では難聴という設定が、ボタンの掛け違いを生むコミカルな要素としてあるが、後半ではシリアスさをより強調するために機能しており、前後編でまったく違う使い方がされているのだ。
また、上映時間の長いインド映画では、よく作中に「インターバル」が入る。文字通りの「休憩」という意味ではあるが、実はもうひとつ、観客側ではなく、映画業界にとっても利点がある。それは作品のトーンを変化させるのに役立つということだ。今作はそんなインターバルもうまく利用して、複数の脚本家によるシーンを調和させている。
監督を務めたスクマールは、近年ではアッル・アルジュン主演の『Pushpa』シリーズの監督として知られており、新作となる『Pushpa: The Rule – Part 2』が今年の12月に公開予定。もともとアクション・コメディを得意した監督であるが、必ずしもアクションとコメディのバランスが毎回うまくいっているとは限らない。しかし今作は、そんなスクマール監督作品の中でも、アクションとコメディのバランスが一番良い作品ともいえるだろう。
【ストーリー】
1980年代半ばのアーンドラ・プラデーシュ州中部、ゴーダーヴァリ川沿岸の田園地帯、ランガスタラム村。チッティ・バーブ(ラーム・チャラン)は、モーターを使って田畑に水を送り込むことを生業にする労働者。難聴で、他人の声がよく聞き取れない障碍を持っているが、さほど気にせずに毎日を楽しく暮らしている。彼は近所に住むラーマラクシュミ(サマンタ)に惚れて、調子はずれな求愛をする。一方、村は「プレジデント」を自称する金貸し兼地主のブーパティ(ジャガパティ・バーブ)によって牛耳られている。チッティ・バーブの兄で中東ドバイで働いているクマール・バーブ(アーディ・ピニシェッティ)は、プレジデントが好き放題にする故郷の村の有様を帰省した際に見て心を痛め、州会議員ダクシナ・ムールティ(プラカーシュ・ラージ)の力添えで、村長選挙に立候補して政治家として村の生活を改善していこうと思い立つ。
ラーム・チャランだけではない、
南インドのしかめっ面クイーン・サマンタにとっても転換点!!
同作はラーム・チャランにとっての分岐作といわれる一方で、実はヒロインを演じたサマンタことサマンサ・ルス・プラブにとっても分岐作といえる作品といえる。
チッティが恋をする村娘ラーマラクシュミを演じているサマンタ。彼女といえば、日本ではラージャマウリ監督作『マッキー』(12)の印象が強いだろう。あるいはインド映画通であるなら、ヴィジャイ主演の『マジック』(17)や『カッティ』(14)のイメージがあるかもしれない。
アイドル的ヒロインの立ち位置の作品が多かったサマンタだが、今作を境に演技派俳優としても知られるようになった。
それに加え、南インドの伝説的女優をジャーナリストの視点から描いた伝記映画『伝説の女優 サーヴィトリ』のジャーナリスト役や、カンナダ語映画『危険なUターン』(16)のテルグリメイク版の主役を演じたことも重なり、18年という年はサマンタにとっても分岐点となったに違いないだろう。
それもそのはずで、今作の中でサマンタが魅せている演技は、それまでの印象を覆すものだった。常にふてくされたような表情が観客を驚かせたのだ。
今作においては誇張されすぎていて、少しやり過ぎなぐらいではあるが、それが逆にコミカルな部分を強調しており、コメディリリーフとして見事に活躍している。
セリフではなく、表情で細かい心情の変化を表現するという点では、同じくテルグ、タミル語映画で活躍する女優で、『グレート・インディアン・キッチン』のタミルリメイクで主演を務めた俳優アイシュワリヤー・ラジェシュにも通じる部分もある。だが、南インドのしかめっ面クイーンは、間違いなくサマンタである。
近年では、演技にもさらに磨きがかかり、日本のAmazonプライムでも配信されているインドドラマ『ファミリー・マン』シーズン2では、反政府組織のメンバーという難しい役どころを演じている。テロリストでありながら、悲しいバックボーンを感じさせる演技を見せているし、『ヤシャダ』(22)では傷だらけの顔でのアクションも印象的だった。
プリヤンカー・チョープラー主演ドラマ『シタデル』のインドサイドのスピンオフとして制作される『シタデル:インディア』で、サマンタは主要キャラクターに決定しており、南北をまたいだ今後の活躍が期待される俳優だ。
主題歌は「ナートゥ・ナートゥ」のあの人
今作の音楽を担当しているのは、テルグ映画界では鉄板ともいえる映画音楽作曲家デーヴィ・シュリー・プラサード。テクノポップやテルグリッシュ(テルグ語と英語のフュージョン)などの近代的な音楽も得意ではあるが、一方で地域性がよく出たドメスティックな曲も得意だ。
特に今作ではドメスティックな部分が際立っていて、ストーリーに見事にマッチしており、デーヴィのふり幅の広さを改めて感じる。
デーヴィのベスト盤にも収録されているラーマラクシュミのチッティに対する気持ちを描いた『Rangamma Mangamma』も良い曲だ。ヴィジャイ、ラシュミタ・マンダナ主演映画『Varisu』(23)の劇中歌『Rajithame』を、南インドを中心にダンスナンバーとして人気を博したヒンドゥスターニー(北インド古典音楽)のアーティスト、M.M.マーナシーが歌っているのも曲の価値を高めている要因だ。
しかし、今作の中で一番印象的ともいえる作中曲はタイトルトラックにもなっている『Ranga Ranga Rangasthalaana』だろう。
歌っているのは『RRR』の劇中歌『ナートゥ・ナートゥ』のリードボーカルを務め、ほかにも『マッキー』や『ヤマドンガ』(07)といったラージャマウリ作品にも参加するテルグのトッププレイバックシンガー、ラーフル・シプリガンジである。
一般的に知られるようになったのは、インドのタレント発掘リアリティ番組『ビッグ・ボス・テルグ』シーズン3で優勝したことがきっかけではあるが、もともとはYouTubeの動画投稿で注目されたアーティストとしても知られている。
ラーフルのスタイルは、独学で学んだインドの準古典音楽、ハイデラバード民謡をベースとしていながら、ヒップホップの要素も取り入れるなど、新旧が共存すること。南北関係なく、インドで人気がある。
『Daawath』や『Baby』といった曲はポップ色も強いことから、北インドにおいても人気を博している。
『ナートゥ・ナートゥ』が世界的に人気になっても、アーティストの名前がほとんど知られていない現状がある。現在、インドでは曲とアーティストがリンクしない問題を深刻に捉えており、アーティストの顔を全面に出したプロモーションも多くなっている。
特にラーフルの場合は、もともとワールドツアーのオファーがあるアーティストということもあって、今後、映画音楽から独立して世界的に活躍する日も近いかもしれない!!
『ランガスタラム』
7月14日より全国公開。
原題:Rangasthalam
2018年/インド/テルグ語/シネスコ/5.1ch/174分
映倫申請中(インドでの区分はPG12相当)
字幕:加藤 豊
配給:SPACEBOX
ⓒMythri Movie Makers
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