「バカリズム印」への信頼感、黒柳徹子との共通点
#テレビ日記 #飲用てれび
テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(7月2~8日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。
バカリズム「みなさん、傘って知ってます?」
変だけど面白い番組だった。8日の『バカリズムと欲望喫茶』(テレビ朝日系)のことだ。
舞台は喫茶店。そこに勝地涼と松本まりかが「久しぶりだね」なんて言いながら入ってくる。さらに平子祐希(アルコ&ピース)と玉森裕太(Kis-My-Ft2)が合流する。秋山竜次(ロバート)も加わる。お互いに挨拶を交わす。そこにバカリズムがやってくる。どうやらこの面々は彼が集めたメンバーという設定のようだ。「集まっていただいたのはほかでもないんですけども」とバカリズムが話しはじめる。
「ここは最近僕が見つけた、ちょっといいなと思う喫茶店なんですね。普通のお店と違うところがあって、いろんな欲望を満たしてくれる」
バカリズム行きつけのこの店では、私たちが普段抱いている些細な欲望、名もなき欲望を満たすメニューが用意されている。そこに勝地らを呼んで欲望を満たしてもらおう――。そんな設定の番組だ。
具体例を見るともう少し番組の趣旨がわかるかもしれない。集まったメンバーが最初に“注文”したのは「自分だけ知ってるセット」。自分だけ知っていることを周りに説明して驚かれたり感心されたりするときの気持ちよさを、追体験できるセットである。誰かが好きなテーマについて話しているとき、周りはそのテーマについて何も知らない状態で話を聞かなければならない。たとえばバカリズムのターンになったとき、彼は次のように切り出した。
「みなさん、傘って知ってます?」
周囲は「傘?」「初めて聞いた言葉」などと反応する。そこから傘の形状についてバカリズムが説明をはじめ、彼が「これすごいのが、折りたたみ式なんですよ」と言うとメンバーが驚きの表情を浮かべる。「骨っていうのがあるんですね」とバカリズムが折りたたみの仕組みについて解説をはじめると、「人の(骨)ですか?」と質問が出てきたりする。さらにバカリズムは、正月になると傘の上に枡を乗せて回す人も現れる、と話しはじめる。あり得ないといった表情で聞く面々。“注文”を終えたバカリズムが感想を述べる。
「知らないって言われたときすごい気持ちいいんですけど、だんだん、なんてこの人たちわからず屋なんだってイライラしてくる」
この喫茶店で提供されているメニューはほかに、かかってきた電話を好きなタイミングでガチャ切りできる「ガチャ切りテレフォンセット」、改めてお祝いしてほしい内容を自分で申告し周りに祝福してもらう「セルフサプライズケーキセット」、わざわざ他人に話すほどでもないことを話してみたい欲を満たすことができる「話すことでもない話セット」など。
このいずれもあまりほかに見たことがないゲームだ。いや、ゲームなのだろうか。トークのようでもあり、コントのようでもある。そんなジャンル不定の何か、どこで面白につながるのか見えにくい何かに出演者が協力しながら取り組み、手探りで“正解”を探り当てていく。さっきのバカリズムのコメントのように、やってみてはじめて「気持ちいいけどイライラする」みたいな感覚を発見し共有する。そんな手探りの様子が面白い。
このほか、「自分だけ知ってるセット」で自分だけコールアンドレスポンスの「Ho~」を知っている設定で話すロバート・秋山、「セルフサプライズケーキセット」で『THE MANZAI』と『キングオブコント』のWファイナリスト達成を改めて褒めてもらうアルピー・平子、「話すことでもない話セット」での眉毛に切れ目が入った人を見ると新潟の「潟」を思い出すというバカリズムの話なども面白かった。
それにしても、番組タイトルからは内容がよくわからないこの番組。そんな番組も、バカリズムの名前がついてるとそれだけで「変な設定だけど面白い番組」の説明が終わる感がある。それだけで食指が動く感じがある。信頼と実績のバカリズム印である。
あるいは、実際に番組を見てみると、“正解”が見えないゲームというかトークというかコントというか、そういう何かだけで構成されていたりするわけだけれど、そんな状況すらも番組全体を一歩引いてメタ視点で見て面白がるところに視聴者を導くような、そんな効果をバカリズムという存在が担っているような気もする。
何が理由で彼の存在がそんな効果を帯びているのかはよくわからないけれど、無二のポジションにいるのは確かなのだろう。
黒柳徹子「初孫があなたと同じ顔だったらちょっとね」
6日の『徹子の部屋』(テレビ朝日系)のゲストは研ナオコだった。
研と黒柳のトークは、夫について、趣味の手芸について、すっぴんを披露したYouTubeでの動画についてなど多岐に及んだ。また、研と長い付き合いがあるという美川憲一がVTRでコメントを寄せていた。それを見た研は目元を拭う。研の口からあまり多くは語られなかったけれど、美川との関係が親密なものであることをうかがわせるシーンだった。
その流れで、研が孫の話をしていた。アメリカに住む息子の家族には2歳の娘がいる。研から見たら孫なわけだが、遠方に住んでいたので(コロナ禍もあったからだろうか)なかなか会いに行けなかったようだ。そのため、アメリカに旅行した美川憲一のほうが研よりも先に孫を抱いたらしい。美川いわく、孫の顔は研にそっくりだったという。研はそのエピソードを自虐気味に「かわいそうにと思って」と語っていたのだけれど――。ここからのトークの展開が、実に黒柳徹子を感じさせるものだった。
研「『顔がナオコだったわ』って。かわいそうにと思って」
黒柳「ちょっとね」
研「ちょっとねって」
黒柳「初孫があなたと同じ顔だったらちょっとね」
普通の会話では、自虐は笑って流すなり、場合によっては「そんなことないですよ」みたいにフォローしたりするものだ。が、黒柳は違う。自虐には塩を塗り込みに行く。予想外の反応だったのだろうか、研が「ちょっとねって」とツッコミを入れるが、黒柳がさらにはっきりと「初孫があなたと同じ顔だったらちょっとね」と言い直す。もちろん、昔から相手のことを知る黒柳と研のベテラン2人だからこそできる踏み込んだやり取りではあるのだろうけれど、黒柳の無邪気さと紙一重のブラックさを感じさせる会話だ。2人のトークは続く。
研「徹子さんお願いしますよ」
黒柳「どうして? おかしい?」
研「おかしくないですけど、もうちょっと言い方を変えていただけませんでしょうか?」
黒柳「どうして? だって孫があなたにそっくりだったからってさ、いいじゃない。私に似てかわいいんだなと思えば」
研は「お願いしますよ」とツッコミのようなものを入れる。重ねて「もうちょっと言い方を変えていただけませんでしょうか?」とあえて丁寧にお願いする口調でトークを面白く脚色していく。が、黒柳は「おかしい?」ととぼけ、さらに「私に似てかわいいんだなと思えば」とさっきの発言のニュアンスとは180度違う話をしはじめる。あえてとぼけているのか、本気なのかもよくわからないこの感じ。というか、自分からわざわざ「初孫があなたと同じ顔だったらちょっとね」と言い直したにもかかわらずその直後にとぼけるってなんなのか。面白すぎるだろう。
研「ええ、私もそう思ってんですけど。違う感想を述べてますよね?」
黒柳「そうかな? それちょっとわかんない」
研「私はそう感じました」
黒柳「そう? ごめんなさいね」
研「いえいえ」
研の「違う感想を述べてますよね?」というそれ自体は正当な指摘も、黒柳の「そうかな? それちょっとわかんない」の前では無力である。「わかんない」をきっかけに、会話は一気に収束に向かう。研が黒柳の言葉に感じたことと、黒柳が研への言葉で意図したこと、その間にどうやらズレがあったことが双方に確認された上で、黒柳から謝罪の言葉が述べられる。研がそれを受け入れる。ここで2人のトークは一件落着するかと思いきや――。
黒柳「じゃあ、研ナオコさんの孫はおばあさんと全然違う顔です」
研「いや、同じなんです」
カメラのほうに向き直って「研ナオコさんの孫はおばあさんと全然違う顔です」と丁寧に訂正する黒柳。いや、そこじゃない。訂正するのはそこじゃない。細部の誤りを訂正するのではなく話の前提それ自体をひっくり返して自身の発言の事実ごとなかったことにするかのような黒柳の挙動。「いや、同じなんです」という研によるツッコミというかボケというか、どちらも混ざったようなコメント(このときの研のきょとんとした顔が絶妙)でオチがつき、一連のトークは完成するのだった。
お笑いのトークとはまた違う、黒柳の独特だけど面白いトーク。途中で会話の流れが淀んで頓挫しそうになっても、そのゴチャっとしたところも見ている側は面白い。フォーマットとかお約束とかそういうものではなく、黒柳徹子という存在がこのトークを成立させている感がある。
何が理由で彼女の存在がそんな効果を帯びているのかはよくわからないけれど、無二のポジションにいるのは確かなのだろう。
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