何でもA24ってつければいいって問題じゃない! 今こそ落ち着いてついて考えよう
『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などの映画を世に送り出し、大手とは一線を画した映画スタジオとして注目を浴びてきた「A24」。
「ユリイカ」(青土舎)でも特集が組まれ、A24作品ファンを公言するサブカル界の著名人も少なくない。SNSを駆使した映画作品の多角的な宣伝戦略なども特徴で、関連映画のTシャツなどのオリジナルグッズが、即完売することも珍しくないという。
しかし、そんな注目度・話題性の高さに違和感を感じる人も増えている模様。そもそもかならずしも全作品を制作しているわけでもなく、配給のみのものあるし、ミステリーやホラーばかりを扱ってるわけでもない。だが間違いなく、同社の関連作品には映画界を超えた注目度が集まっているわけで……。
今回は、そんなA24作品との“正しい向き合い方” について、映画宣伝ウォッチャーのビニールタッキー氏に話を聞いた。
配給と制作を区別しない“A24 presents”というマジックワード
――A24のWikiを見ると、ニューヨークに本社を置く映画・テレビ番組の製作・出資・配給を専門とする、インディペンデント系エンターテインメント企業。とのことなんですが、けっこういろんなジャンルの作品を手がけているんですね。
タッキー:2020年以降のA24制作作品だけ見ても、実は日本未公開の作品がけっこうありますね。8割方の作品は観られる状況ですが、当然ある程度興収が見込めるような作品が日本で公開されるということなのかなと。
そもそも”A24作品”というと同スタジオが全部製作した作品と考えられがちですが、製作作品だけじゃなくて配給作品も含まれるんですよね。A24の創業事業は配給で、確かに一部の映画は製作していますが、基本は配給の部分でブランディングを行ってきた会社です。
――なかなか一般の観客にはわかりにくいところですよね。
タッキー: A24は公式サイトのフィルモグラフィーでも、自分たちでつくった作品と配給作品の区別がなく、A24もあえて曖昧にする戦略をとっているように見えます。なので日本公開作品のPRで、例えば『フェアウェル』『Zola ゾラ』『ネバー・ゴーイング・バック』などの作品はポスターなどで“A24(A24 presents)が贈る”と書かれていますが、これらはすべて配給のみのA24作品です。
――まあ、映画を選定して客に届ける配給は映画業界で重要な役割ですし、嘘ではないですけど……。そういったお話を聞くとちょっと、ミスリードを誘うような謳い文句にも見えてしまいます。
タッキー:例えば僕が大好きなA24作品で『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019年)という映画があるんですが、この映画のチラシには「A24とプランBがアカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』以来のタッグ」との記載があります。
プランBはブラット・ピットらが設立した制作会社で、確かに『ムーンライト』はA24との共同制作でしたが、『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』でのA24の関与の仕方は配給権のみ。2社のタッグの中身が全く違うので、“A24が配給権を買って贈る”というのがより正確な言い方ですね(笑)。
批評家ウケは良いが、観客の好みは分かれるA24の制作作品
タッキー:また、近年のA24作品を語る上で欠かせないのがやはり『ミッドサマー』の存在で、『ミッドサマー』以降、A24が配給・制作する映画の宣伝では「“ミッドサマーの”A24が~」という枕詞が定番になっています。
――『ミッドサマー』は相当なバズりでしたもんね。
タッキー:全米公開から半年以上遅れたことなどもあり、2020年2月の日本公開前からホラー映画ファンの間で話題作となった『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスター監督最新作との触れ込みで、かなり盛り上がって。A24にとって大きな特異点となりました。
――SNSを使った宣伝なども含めて『ミッドサマー』は象徴的な作品だと思いますが、その神通力が今日まで健在で擦られ続けていると。
タッキー:『MEN 同じ顔の男たち』(2022年)や『X エックス』(2022)、この7月公開の『パール』にも“ミッドサマーのA24”といった文言が並んでいますね。まだホラー作品はわかるんですが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のポスターにも、“ミッドサマーのA24が送る”と小さめに書かれていて(笑)。
――確かに『エブエブ』もわりと見る人を選ぶ映画ではありますけどね……。
タッキー:それで言うとA24作品には批評家ウケが良い一方で、一般観客の評価が低い作品も多いことも特徴です。映画『The Humans』(2021年、日本未公開)は、批評家の支持率が92%と高い一方、オーディエンススコアは42%。『グリーンナイト』などの作品も同様の傾向が見られます。とくにA24の製作作品の場合、非常に尖った作品というイメージや認識は映画好きの間でけっこうあります。
――批評家ウケの良さや賞レースでの強さの要因はなんだと思いますか?
タッキー:一言で言うとインディーズ映画っぽさですよね。僕は日常のそこら辺にある話を映画にしてくれることがインディーズ映画のひとつの良さだと思うんですが、要するに作家性の強い作り手を連れてきてつくりたいようにつくらせるんです。そこが大きな魅力で、王道の映画づくりのセオリーに沿ってつくられていない。だからこそ結果的にハマらない人も出やすいということでもあるんですが。
――確かに話題のわりにイマイチに感じた作品や、観たはずなのに全然覚えていない作品も正直多いです。『Mid90s』とかは好きなんですけど。
タッキー:『Mid90s』は僕も好きな作品のひとつですが、あれもわりとニッチなカルチャーを題材に、俳優のジョナ・ヒルが半自伝的に撮った初監督作品で、大手の制作・配給会社が手を出しにくい系統の作品と言えるかなと。
ちなみに配信時代に逆行する話ですが、同社作品は意外と映画館で観るのがおすすめだったりします。家だとけっこう気合い入れて観ないと流し観しちゃって、頭に入ってこないってことがあるので……。
細かいところでは色々あるけど……インディーズ映画を牽引してきた功績の大きさ
――あと、A24作品というと『エブエブ』や『ムーンライト』などのように、多様性やLGBTQを取り入れた映画も多く手がけているイメージがあります。
タッキー:とはいえ、欧米ではA24は白人男性監督の作品が圧倒的に多いという批判的な指摘もあります。確かにアジア系監督や女性監督もいるんですが、まだまだほんの一部の作品に限った話で、とくに女性監督は比率的にもっといてもいいんじゃないかなと個人的に感じますね。
――なるほど……。最後にA24やその作品に対するタッキーさんの評価を改めてうかがいたいです。
タッキー:作家が好きなことやっている海外の映画が、日本でもある程度ちゃんと観られることは、いち映画ファンとして単純に嬉しいことですし、その功績は大きいと思います。細かいところではいろいろありますけど、2010年代後半から存在感が増してきた結果、映画のバラエティが豊かになったことは確かですから。
――マーケティング的に研究し尽くされた大作映画のセオリーとは違う挑戦的な映画を届けてくれる唯一の存在で、同社に取って代わる競合も現状では存在しないと。
タッキー:そもそも監督という作家単位ではなく、A24という配給会社単位で作品が括られ、語られること自体がこれまであまりなかった現象ですよね。90年代のミニシアターブーム後、『ハリー・ポッター』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの大作映画が席巻していた2000年代に比べれば、ある意味いまは映画ファンの裾野が広がりやすい環境というか。
――同社の台頭は作家単位やシリーズごとに真面目に追いかけることが、可処分時間的にも敷居が高いと感じる人が多い時代なども反映しているのかもしれませんね。
タッキー:なのでA24って音楽レーベルに近いんですよ。「このレーベルのアーティストなら聴いてみよう」という感じで、知らない監督の作品でも「A24作品なら」と手を出しやすくなっている。
ただ、これだけ作品数が増えてブランディングも高まってきたなか、配給と製作を区別したコピーが今後増えるのかなどは映画宣伝的に注目したいです。コンプラ的な意識変化もあるのか、『LAMB/ラム』(2021年)ではA24が「北米配給権を獲得」としっかり明記されていたので、受け取る側も“A24が贈る”の先にある作品情報に少し敏感になってもいい頃合いかもしれません。
(プロフィール)
ビニールタッキー
おもしろ映画宣伝ウォッチャー。映画ブログ『第9惑星ビニル』管理人。海外映画が日本公開される際に行われる不思議なPRイベント、へんてこな企業コラボなどの「おもしろ映画宣伝」を日夜観察し、毎年グランプリを決めるブログ記事「この映画宣伝がすごい!」を主催。https://planetvinyl.hatenablog.com
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