『リバー、流れないでよ』、永遠と続く2分間のループ、その全てが愛おしくなる
#お笑い #映画
全ての2分が愛おしくなります
こんにちは私、お笑いコンビ「さんぽ」の岩永いわなと申します。今回はヨーロッパ企画の映画『リバー、流れないでよ』のレビューを書かせてもらいます。
物語の舞台は京都の貴船、自然と人間の暮らしが調和した美しい情緒溢れる街で起きる「2分間だけ時間がループする」SFコメディ。
ヨーロッパ企画の映画 第二弾になる今作『リバー、流れないでよ』は とてもクリエイティブで情熱的で可愛らしい映画でした。
京都府にある老舗旅館「ふじや」で突然、2分間だけ時間がループするという――。
この、絶妙に何もできないけど、頑張ったら何かしらはできそうな時間 「2分」が「予想通り」で「予測不能」なストーリー展開になっており、物語後半はそのストーリーの展開と相まって、同じ2分間のはずなのにぐんぐんと加速していくような、とんでもないグルーヴ感を作り出していて、そのグルーヴ感は、役者の方々は勿論、スタッフの方々、美術さんカメラマンさん監督、全員が作り出しているグルーヴ感なんです。
小規模な映画だからこその手作り感や、情熱、苦労や喜びみたいなもの温度が、ダイレクトに伝わってくるような、そんな映画です。
登場人物達がループにどんどん慣れていって「私の初期位置はここです」や「このターン」みたいに自然と、状況を勝手に把握してそういう言葉遣いをしていく様や一向に温まらない熱燗や減らない雑炊、面倒臭い旅館の部屋の移動など……普通のSFループ物では味わえない、とても庶民的で可愛らしいアイデアが心地良くて。
日常から少しはみ出してしまった非日常の面白さが、あまりほかの映画では感じないような、笑えるし、尖ってるし、愛らしくて暖かい、という不思議な気持ちになりました。
そのギャップやバランスが本当に良い映画です。
実は本作の監督、山口淳太監督にお話しをお伺いしたところ 全てのループシーンは実際に2分間きっかりになっており、数秒でもオーバーしてたら全て撮り直し。現場では「歩数」で秒数を調整していたという、その画面の素朴さとは裏腹に、とんでもなくシビアな撮影が行われており、物語の内容もまずロケ地を探してそこから物語を考えていくという、脚本の上田誠さんの、その才能が眩しすぎるくらいの所業。
情熱を持って自分たちの「面白い」に向かって 愚直に創作活動をするこの方々の真面目さや丁寧さが、この作品の画面全てに写っているような、そんな気がします。
監督のお話しで特に印象深かったのが物語の終盤、登場人物達が全員ある地点に駆けつけるシーンがあるんです。そのシーンは全員、長い階段や坂道を全力ダッシュ!
役者さんはもちろん、カメラマンさんも全力ダッシュ! ベテランのカメラマンさんにそんな何度も撮り直しをさせるわけにはいかないと、監督がカメラマンをやると名乗り出た所、そのカメラマンさんは「俺に撮らしてくれ」と答えた話がとても好きでした。
そこに、この映画の根っこの部分のような、全員で良いものを作ろうという気持ちや空気を感じます。
終盤ので特に僕が好きだったシーンがあります。ネタバレになっちゃうので詳細を省きますが、必死にビールを注いでるので少しこぼれてしまうシーンがありまして、そのこぼれはもちろん演出や台本ではなくシンプルにアクシデントだったらしいのですが、そこが、絶対にそのシーンを成功させたいという気持ち、そして頭で考えた演出を超えた演出になっていて。そのアクシデントが、全員の気持ちで生まれた「奇跡の演出」に昇華している気がして、 画面で起きているストーリー以上に、そのシーンにはグッと来てしまいました
エンディング曲のくるりの「Smile」も本当に素晴らしかったです
監督曰く、単にくるりの楽曲に「リバー」という曲があるのでオファーをしたそうなんですが、あがってきた曲の歌詞を見て「この映画のその後、まんまのような歌詞だ」と思ったみたいです。そう聞いて歌詞を読むと、本当にそんな感覚になりますし、そういうある種の運命のような縁のような物を感じるエピソードも素敵ですよね。
毎日忙しくて、仕事に追われてたり、目の前の問題から逃げ出したくなったり、少し立ち止まりたくなるような瞬間にそっと寄り添って、同じように立ち止まってくれるような、そして気持ちが落ち着いたらポンっと背中を押してくれるような、そんな気分になるエンディングでした。
この感想を読んで、まだ観に行ってない方、気になってるけど迷ってる方、シンプルに面白いものが好きな方、是非劇場に行ってこの映画を観てください ループを体感してください。きっと全ての2分が愛おしくなります、
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事