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平野紫耀も食べたペルーサンドイッチ屋が松屋のペルー料理を実食!

松屋のロモサルタードは根本的に間違っている! ロモは牛だから!

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撮影:石田寛(以下、同)

 大手牛丼チェーンの松屋は、コロナ禍で海外へ気軽に旅行へ行くことができない中で、「世界中の珍しい料理を、松屋を通して知ってほしい」という思いから2020年より世界料理シリーズをスタートさせた。

 これまで、ジョージア料理のシュクメルリ、イタリア料理のカチャトーラなど、異国の名物料理を打ち出してきて、今回新たに目をつけたのがペルー料理のロモサルタード。

 ただ、マニアックではある。提供されたところで「おお! 本場の味を再現しとる!」とはならない。だって、そもそもペルー料理を知らないので。

「これは実際どうなの?」ということで、歌舞伎町にある日本で唯一のペルーサンド専門店RANITOS(ラニートス)の店主・サクさんに実食してもらい、その味を評価してもらった。もちろん松屋から広告費をもらっていないので、忖度なし! ゴリゴリのガチです。さあ実食!

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──新宿にお店を構えるRANITOSの店主・サクさんは、ペルーで料理の修行をされたそうですね。

サク:そうですね。短い期間でしたけど、首都のリマから少し北へに行った、ビーチリゾートのような海岸エリア・アンコンという小さな街にある、魚介専門店で働きながら勉強しました。

──ペルー料理に惹かれたきっかけはなんだったんですか?

サク:ペルー料理が好きすぎたのと、美味すぎたんですね。実は、ペルーへ行く前にお店を始めちゃったんですよ(笑)。ウチで出しているペルーサンドイッチは、ペルー人が食べると故郷を懐かしむような味なんです。

 群馬とか栃木在住のペルー人の方が、わざわざ新宿にあるウチまでペルーサンドを食べに来てくれるんですよ。で、ことあるごとに「ところで、あなたはペルーに行ったことあんのか?」と言われて「行ったことはないけど、ウチのサンドは美味えだろ?」と返していたんですね。

──行かんでも美味いやろ、と。

サク:そんな感じで突っ張っていたんですけど、新型コロナ禍がやってきたじゃないですか。お店は歌舞伎町の真ん中ですし、売り上げもしっかり下がってきた段階だったので、時間もあるし、ペルーに行って文化とかエリアごとの食材や料理方法を学べたらと思って……飛んじゃいました。

──そもそも、どうしてペルー料理屋を始めようと思ったんですか?

サク:入り口は音楽でしたね。当時は六本木のミュージックバーに勤めていまして、そこのボスがサルサミュージック好きで。仕事が終わったら、よくクラブに連れて行ってもらっていたんです。

 男女ペアで踊る社交ダンスみたいな“サルサダンス”というジャンルがあるんですけど、六本木にはキューバ人、メキシコ人、アルゼンチン人などの南米系のかたが集まって、朝までずっと踊ってるクラブが結構あって。

 そこにいた人たちが「ペルー料理がうまいんだよ!」と言ってたんですね。でも、南米料理ってちょっと想像がつかないじゃないですか? さらにペルー料理なんてもっとですよね? そんなに言うならどんなもんかと思って、食べに行ったんですよ。初っ端だから、ちゃんとしたペルー料理を食べようと、新橋にあった荒井商店(現在は神奈川県湯河原へ移転し、8月にオープン予定)に行きまして。

 いまや僕にとってペルー料理の師匠みたいな方なんですけど、荒井隆宏さんの料理を食べたら衝撃を受けて「僕も作りたい!」と。それから働いていた六本木のバーで、ペルー料理を出すようになって、たまらずにこのお店をオープンしましたね。それが2019年の7月1日のことです。

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──実際にペルーへ行かれて、料理のやり方とか本場の味は違いました?

サク:料理の味とかスタイルについては、自分のやっていたことが間違っていなかったな、と思ったのが第一印象でした。発見と言えば、ペルーは流通が悪いんですよ。だからこそ、食文化が何百年前から変わっていないし、この不便さが伝統的な料理を保ち続けているんだなと。それは行ってみないと分からなかったですね。山の方で海の幸は食べられないし、海では山の幸は食べられない。だから山の方では川エビのスープが有名だったり、あとはチーズ系ですよね。畜産系のケソフレスコというフレッシュチーズみたいな、シャキシャキしたチーズとかああいうのが種類豊富ですし、アマゾンフルーツを使ったサルサソースとか、現地の食材がそのまま食文化になっています。

──山梨県で江戸前寿司を食べるみたいなことが、ペルーではあり得ないと。

サク:ないですね。かなりの高級料理店じゃないと、食べられないと思いますね。

──じゃあ、地元の人は現地で食べられる伝統食材を、今も食べ続けている。

サク:そういう印象でしたね。それと海側は北と南で名物料理が違いましたけど、アジの開き定食か煮込み定食しかない。どこもそんな感じでしたね。

──と言いますと?

サク:ペスカード・フリートという揚げた魚にサルサソースがかかっているのと、セコ・デ・カブリートという子ヤギのコリアンダー煮込み。ペルーの海岸線はどの店も、この2種類しか出していなかったです。小田原に行ったらかまぼこしか売ってない、みたいな。食べられるものが限られているので、滞在日数が長くなると、どんどん目新しいものがなくなってくるっていう。

──ペルー料理には、日本の一汁三菜みたいな基本の組み合わせはあるんですか?

サク:ペルー料理は基本的に米食なんですけど、米と芋か豆とおかずって感じですね。大体、芋と豆系はついてきます。あと、貧困国なので「いかにお腹いっぱいにするか」が重要ですね。で……芋と唐辛子の原産国なので、芋の食べ方がうまい。マッシュしたりチーズソースをかけてみたりとか、とにかく芋がうまいんです。

──気になったんですけど、ペルー料理って日本人の舌には合いやすい?

サク:めちゃくちゃ合うと思います。みんなは南米料理と聞いたら、大量のパクチー、ハーブ、スパイスみたいなタイ料理やベトナム料理+スパイスみたいなエキゾチックなイメージを持ってると思うんですよね。もちろんそういう要素はあるんですけど……なんか初めてなのにバランスのいい料理が多い。

 ペルー料理って、味を重ねていくよりも、香りを重ねていくのがポイントなんです。唐辛子の辛さじゃなくて香り。パクチーも苦味とか味じゃなくて香り。レモンも酸味じゃなくてあのフレッシュな香り。だからこそ頬張る前から、ブワッと異国に連れて行かれるんです。

 それこそ九州のたまり醤油っぽいシジャウっていう調味料も使いますし、中国人とか日本人が進化させた料理も現地で人気です。中華系の炒め物っぽい料理とか、アフリカ系の移民がスパイスで煮込んだりとか、人種もミックスしてるのでバリエーションがすごいですね。

──なんとなく最近、日本でもペルー料理について語られることが増えてきたように見えます。

サク:RANITOSを始めた4年前と比べたら、かなり認知されている気がします。最近はテレビや雑誌、ラジオなどのマスメディアでも、ペルー料理を取り上げられることが多くなってるんです。

 あと、ものすごいペルー料理屋が日本に上陸しちゃったんですよ。「世界のベストレストラン50」で1位を獲得したペルーのリマにある、セントラルというお店の系列店が、去年日本にオープンしました。それもあって、ウチも”ごっつぁんタイアップ案件”をもらったりして(笑)。美食家の人達もペルー料理に対して“おやおや感”が出てきてるし、一度取材でジャニーズ事務所のタレントさん(平野紫耀)が食べたことで、ウチのお店もジャニーズファンだらけになったこともありました。

味自体は悪くないけども…松屋が挑戦したペルー料理の根本的な間違い

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──そんなふうに日本でも注目を集めるようになったペルー料理に、松屋が挑戦したことについてはどう思っていますか?

サク:いや、まあ……どんなもんかと。

──牛丼屋がペルーの味をわかってんのかと。

サク:ハハハ。メニュー名が”松屋風”ロモサルタードでしたよね? 

──そうです。まず、ロモサルタードってどんな料理なんですか?

サク:ロモって牛ヒレ肉のことで、サルタードは炒めるという意味なので、直訳すると“牛ヒレ炒め”なんですよね。だからポークを使ってる時点で……言葉の意味を理解してない。そもそも牛肉って現地では高価で、庶民が気軽に食べられるものじゃないんです。いわばごちそう的な感じ。家庭では牛じゃなくて、チキンを代用したポヨ・サルタードもあります。コスト的な問題があるなら、最悪チキンを使って欲しかったですね。

──豚はねーぞ!と。

サク:サルタードに豚はないんですよね。豚肉を使うとしても煮込むことが多い。まあ、丸焼きでローストするのはありますけど、やっぱり豚肉炒めは珍しいです。とにかく豚を使っちゃったか、と。

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 あと、ちょっと食べてみても香りも、クミンが強い。各家庭ごとにレシピはありますし、人にもよるし、塩胡椒とクミンで牛肉マリネをしてから炒める場合もありますけど、これはクミンが結構強めかな。基本的には醤油ビネガーベースに、油でフランベをしてスモーキーな香りをまとった上に、生唐辛子の香りが乗った味が本来のロモサルタードなんです。

 またね、本当はフライドポテトがつくんですよ。炒めたソースが染み込んだポテトが美味かったりするので……これはマイナス10ポイント!

──早くも松屋さんピンチ!

サク:僕が作る時に、肉・野菜・芋のトータルバランスは結構意識しているポイントで、口に入れると、全部の食材が混じり合っているのが美味しい。そういう料理なんですよね。あと日本米でもいいんですけど、こだわるならインディカ米にして、最終的には具材とソースとごはんをグチャ混ぜにかき込むのが理想ですね。

──”松屋風”ロモサルタードは、日本のお米に合うよう、ぽん酢×にんにく×スパイスで味付けをしてるらしいですよ。

サク:酸味を足すという意味では、方向性は間違っていないと思いますよ。僕はペルーのアルコールビネガーを使っているんですけど、醤油がポイントですね。たまり醤油っぽい甘いのがいいと思います。

──見た目と香りの課題を教えていただきましたが、味はどうですか?

サク:まあ、これはロモサルタードじゃないっすね!(キッパリ)。豚肉と野菜の“ガーリック・クミン炒め”としては、めちゃめちゃ美味いです。肉も柔らかいですし。スープも飲んでみてもやっぱり、クミンが強すぎるかな。

 それがなかったら、いい感じな気がするんですけどね。

 でもクミンがなかったら「ペルー料理って何?」となるかもしれないですね。確かに、エキゾチックさを出すために、クミンを入れたのはわからなくもないけど。

 あとは、やっぱりスモーキーさが欲しかったですね。スモーキー、醤油ビネガーをメインにして欲しかった。

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──松屋のロモサルタードを買ってきて、自分で本格的なペルー料理に近づけるとしたら、どうすればいいですか?

サク:家でやると家族に怒られるかもしれないですけど、煙が出るまで油を熱して、フライパンにこれをバサっとぶっ込む。そしたらバチバチするじゃないですか。それをガスコンロの火に着火させてフランベすると。

──めちゃめちゃ難しいっすよ!

サク:それだけスモーキーさは重要なポイントなんですよ。香りが乗っていないと、ペルー人に怒られますからね。うちはIHなので、代わりにガスバーナーで着火させます。それぐらい絶対にないといけないポイントですね。香りをつけないと、平べったい味になっちゃうんです。逆に、香りをつけると味の面積が広がると。(そのまま食べ進めて行って)でも、普通に美味しいですよ。あ、芋も入ってました! これは加点対象っすね!

──味自体の点数はどうですか?

サク:味としては100点です。めちゃくちゃ美味しいです! これでいくらですか?

──肉4枚盛りで税込1090円です。

サク:コスパもいいんじゃないですか。十分食べ応えもありますし、最高じゃないですか。

──じゃあロモサルタードとしての点数は?

サク:ロモサルタードとしては25点ですね。まあ、松屋フーズさんに怒られたくないんで!

──何ひよってんすか!

サク:ワタクシでよろしければいつでも監修します! 

──寝返ったな! 

サク:ハハハ! 僕個人は、今回の新メニューはポジティブに捉えていますよ。そもそもペルー料理と言われて「は?」って感じじゃないですか? そんな中、松屋さんみたいな大手がペルー料理をピックアップしてくれたのは、本当にありがたいです。本場の味と違ったとしてもね。

 ペルー料理研究コミュニティみたいのがあって、ペルーの人は「本当のペルー料理を広めてくれないと困っちゃうな」と言ってましたけど、味としてはめちゃくちゃ美味しいですから。「松屋のロモを食べて美味しかったら、ちゃんとしたペルー料理のお店に行ってみよう」という人が増えるんじゃないですか。うん、増えてほしいですね。

──ちなみに、都内で美味しいロモサルタードが食べられるお店はどこですか?

サク:原宿のベポカさんは、モダンなんですけどロモサルタードど直球な感じで美味しいです。あとは祐天寺のエルセビチェロは、ノブ トーキョー(NOBU TOKYO)にいた谷口大明さんが現地の料理をしっかりと作られていて、めちゃくちゃオススメです。

──もちろんRANITOSも、ですね。

サク:そうですね! ロモサルタードもそうなんですけど、ウチではペルーサンドという偏ったジャンルもぜひ食べて欲しいですね。

大沢野八千代(ジャーナリスト)

1983生まれ。大手エンタメ企業、出版社で勤務後、ネットソリューション企業に転職。PR案件などを手掛けている。KALDIフリーク。

おおさわのやちよ

最終更新:2023/07/08 11:00
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