VIKN、日本のストリートカルチャーの母「MILK」創業者へ捧げる新作
#HIPHOP #つやちゃん
「そういうのいらない。ラッパーだったら曲聴かせなさいよ」
――その後、洋服屋でも働かれていたんですよね?
VIKN そうです。当時はとにかく芸能人よりも服屋の店員が一番カッコよく見えてた。自分は地元が千葉の銚子で、親や祖父も代々みんな校長の家系なんです。大学に行くことでしか東京に出ることを許してもらえなかったので、ちょうど2000年くらいに進学を機に上京しました。
友達が先に宇田川町の『Manhattan Clothes & Shoes』で働き出して、いいなぁと思って。自分は『GROWAROUND』にバイトで入ることができて、なんとその店の店員が全員ラッパーだったんですよ。
――そこからラップを始めるんですね。
VIKN 当時はインターネットもないから、服屋の店員が一番顔を売れるし、本当に皆ラッパーとかDJでつながってたんですよね。
――アパレルと音楽がまだまだ密接だった時代。
VIKN そう。あの頃の宇田川町はマジでトガってました。客より店員のほうが偉かったくらいですから。試着したいとか試聴したいとか迂闊に言えないし、店員はみんな怖かった。
――音楽や服に詳しいことが正義だった、ってことですよね。
VIKN 当時はヒップホップがマジでホットだったので、今のバブルとはまた違う聴かれ方というか、とにかく熱量が高かったんですよね。詳しくないと相手にされないし、ニワカは完全に排除される時代。ひどい話ですよ(笑)。
――そういった背景を持つVIKNさんが、大川ひとみさんとコラボするというのはすごく意義のあることだと思います。ちなみに、ひとみさんとはもともと面識はあったんですか?
VIKN なかったんです。なので、実際にお会いする機会を設けてもらって説明させてもらいました。MILKの社長はひとみさんの親戚のシンゴさんという方で、彼とずっと1年くらいやりとりをさせてもらってて、ようやくお会いできるチャンスが訪れたんですよ。
ある日、シンゴさんから「原宿来れる?」って電話が来て、カフェに行ったら「今日、ひとみさん来れるから」っていうことで。めちゃくちゃ緊張するじゃないですか。そうこうしているうちにひとみさんがタバコを吸いながら現れて、座った瞬間に「あんた、なんだっけ? ラッパーなんだっけ? 私の名前使って何かしたいんでしょ? 何したいの?」と言われて。
「自分は本当にこのカルチャーが好きで、今も情熱を持ってやれるのもひとみさんが作ってこられた歴史があるからで……」とか説明したら、半ば遮るように「あ~もうそういうのいらない。あんた、ラッパーだったら曲聴かせなさいよ」って(笑)。でも曲流したらすぐに止められて、「いい声してるじゃない。ここでラップしなさいよ」って返されたんですよ。やるしかないじゃないですか。
その場で「UKウェイブ/マルコム、ビビアンウエスト/セックスとチャカ……」ってラップしたんですけど、「あんたいいこと言ってるじゃない。私も昔80年代にラップしようとしてたんだけどね。ところで、あんた貧乏なの?」って。「貧乏だった時期もあります」って言ったら「だったらいいわよ」って言っていただけて……そこからいろいろとひとみさんの昔の話を聞きたくて質問したんですけど、「あのね、そんなの覚えてないわよ。私、今を生きてるんだから」っておっしゃってました。めちゃくちゃカッコよかったです。
――へぇ! それは痺れますね……。じゃあ、その場でアートワークもOKが出たんですか?
VIKN その場でほかにもいろいろあったんですけど、最終的にはMILKの写真も使えるようになりました(笑)。1時間弱くらいかな、その間ひとみさんはずっとスパスパとタバコ吸ってて。
なんかね、やっぱり人としてエネルギーに満ちていた。自分も年を取ってもずっと働いてたほうがいいのかなと思いました。ずっと闘ってきてる人じゃないですか。70年代に、それまでまったくなかった「パンク」とか「かわいい」といった概念をファッションに持ち込んだ異端児だったし、時代の反逆児だと思う。そのエネルギーがみなぎってた。
――本作には、MILKやMILKBOY以外にも「ルイとヴァージル」「ユンとディオール」などファッション関連のさまざまなネームがドロップされています。今、VIKNさんはファッションシーンの動きをどのように捉えていますか?
VIKN 2010年代にストリートファッションとハイブランドが近づいて、すごくフレッシュだったじゃないですか。こないだもファレルのルイ・ヴィトンがショウをやってましたけど、とは言えあれもヴァージル(アブロー)がやってきた下地があるからそんなにめちゃくちゃ驚きがあるわけじゃない。
ここのところ、驚きやバズをいかに作るかという時代がずっと続いていたと思うんです。
でも、あれだけ意外性のある距離感のコラボが出尽くして、もうどんなことがあっても驚かなくなってきた。今後はもうそういう方向性じゃなくなるんでしょうね。どうシフトしていくのかわからないし、次はもっと本質的なものに注目が集まるのかもしれない。
――本作を聴いていると、本質を見ていこうというVIKNさんのスタンスは非常に伝わってきます。
VIKN 自分は本質を大事にしたいし、あと「ニッチであること」にもこだわってますね。さっきの宇田川町とヒップホップの話とかも、確かに流行ってはいたけど、とは言え世間から見るとだいぶニッチな音楽だったんですよ。MILKもそうじゃないですか。アイコンであり偉大な存在だけど、やっぱりニッチ。だから自分はそういうところに目を向けていたい。
――ニッチであり、本質であるものを好むと。
VIKN そうです。そういうものをどんどん掘り起こしていきたい。皆が当たり前にもてはやしているものは取り上げる必要がない。だから、自分がもし10代だったら、今これだけヒップホップが流行ってる中でヒップホップをチョイスしているかはわからない。
あと、最近のラッパーって、いかに巧いラップをするかっていうところでアスリートっぽくなってるじゃないですか。バトルの影響もあると思うんですけど。でも、自分たちの世代って巧いとかどうでもよかった。巧いとかじゃなくて、ヤバいかどうかの問題。自分はそういう大雑把な感覚でラップを捉えています。
――まさにブッダが持ち込んだ「ILLかどうか」って価値観ですよね。そうすると、VIKNさんは今回の作品をどういった人たちに聴いてもらいたいと思っていますか?
VIKN よく「若い人に届いたらいいね」って言ってもらえるんですけど、その気持ちはまったくないです。自分は同世代に向けて作ってる。若い人はもうそこでカルチャーが出来上がってるじゃないですか。トラップもドリルもジャージークラブも、全然違う音楽をやっていてそれでいいと思う。そこにどうこう言うことなんてない。
だって、自分が若いときにすごく年上のECDに本当にフィールしていたかというと、そんなことなかったから。でも、年を取ったらわかることがあるのも確か。だから、若い人には20年後に聴いてほしいですね。
[プロフィール]
VIKN(ヴァイケン)
千葉県生まれのラッパー。10代半ばからラップを始め、ソロとしての活動に加え、TETRAD THE GANG OF FOURのメンバーとしても活躍。現在は北千住にあるジュースバー『JUICE BAR ROCKET』の経営も行い、週末はイベントスペースでディープな音楽イベントも開催している。
Twitter&Instagram iamvikn
https://twitter.com/IamVikn
https://www.instagram.com/iamvikn/
『HITOMI』
VIKN
Cold Pressed Records
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