「転職や上司との関係に悩んだ時こそプロ野球を見ろ!?」中溝康隆氏に聞くプロ野球から学ぶ会社員のサバイバル術
#プロ野球
今年3月、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表が14年ぶり3度目の優勝を果たした。栗山英樹監督の采配や大谷翔平選手の活躍が光ったWBCの熱狂が冷めやらぬ3月末に出版されたのが『プロ野球から学ぶ リーダーの生存戦略』(クロスメディア・パブリッシング)だ。著者は野球ライターの中溝康隆氏。これまでブログ『プロ野球死亡遊戯』などでプロ野球を独自の視点でとらえてきた中溝氏の新刊は、ビジネス書ともいえる内容になっている。執筆の背景や今のプロ野球人気について、中溝氏に聞いた。
ビジネスにも役立つプロ野球人の生き様
――中溝さんは、最初に人気を博したブログ『プロ野球死亡遊戯』を皮切りに、ウェブサイトの記事や著書などで、自身もファンを自認する読売ジャイアンツ(以下、巨人)の話題を軸としつつ、プロ野球全体の時事に焦点を当てて、時には歯に衣着せぬ論調で多くの野球ファンの共感を呼んできました。しかし、本書はこれまでとは少し毛色が違い、ビジネス本に寄っている感じがします。
中溝康隆氏(以下、中溝) そうですね。いつもよりはテイストやタイトルも堅い感じで(笑)。この本は、もともと『プロ野球から学ぶビジネスサバイバル術』というウェブの連載記事に加筆修正したものです。これまでのコアな現役野球ファン向けの著書とは違い、「昔は地上波で中継していたので野球を見ていたけど、今は見ていないのでよくわからない」という一般のサラリーマン層を意識して書きました。
――具体的には、どういう工夫をされたのですか?
中溝 今のプロ野球は技術的には間違いなく過去最高レベルだと思いますが、世の中の人は意外と見てないんですよね。ニュースでもメジャーリーグがメインだし。知っている選手が、巨人戦を地上波テレビで毎晩やっていた20年位前で止まっている。だがら、現役の選手よりも、昭和~平成を代表する巨人の四番打者でスター選手だった原辰徳さんや、パ・リーグで三冠王を3度獲得した「オレ流」の落合博満さん、タイムリーなところでは、WBCで侍ジャパンの監督を務めた栗山英樹さん、日本ハムの監督に就任以降、常に話題を振りまいている新庄剛志さんなど、野球ファンでなくとも名前がわかるような人たちを取り上げています。そして、その人たちの生き様やキャリアから一般的なビジネスパーソンが生き残るために何を学べるのか、という視点の内容となっています。
――有名な選手や監督であれば、わかりやすいですね。
中溝 超人的なプレーをする一流選手達も、環境に対するマンネリ感や年齢的な衰えといった悩みは普遍的で、会社員と変わらない現実がある。特に転職や異動などに直面している人にとっては参考になる部分が多いと思います。最初は本のタイトルも『転職死亡遊戯』で提案したんですけど、「ビジネス本としては少々真剣味が足りないんじゃないか?」という話が出たので、「では、今回はお任せします」と。正直、「タイトル、カテェな…」と思いましたが、そこは僕もプロ野球選手と同じように「監督の方針に順応して、チームに必要な選手になる」という感じでした(笑)。
30~40代の“社会人あるある”に共感必至
――本書では、中溝さんが若い頃に会社を転々としてきた実体験が随所にちりばめられています。
中溝 僕自身、フリーのライターになるまでに何度か転職しましたが、どれも成功したとはいいがたくて。その頃を振り返ると、「この本に出てくるようなプロ野球選手たちのように、オレも環境に適応していれば良かったな」と思うところが多々あったんです。だから、昔の自分に語りかけるように書きましたね。
――そもそも、どのような転職歴をたどってきたのですか?
中溝 まず、芸大の映像学科を出て新卒で入った映像制作会社を2日で辞めています(笑)。入社早々、レース場で体験ロケみたいなものがあったのですが、そこの駐車場で原付バイクでコケてしまって。その対応をめぐる上司とのやりとりで、この人はこんな感じで新人を?るタイプなのかと見えてしまい、「わかりました。辞めます!」と。次に就職した不動産関係のデザイン会社も、直属の上司の独立騒動があって半年で辞めてしまい、3社目のサッカー関係のデザイン会社では、「ああ、楽しい仕事だな」と思いましたが、そこも結局上司のディレクターとうまくいかず3年弱で辞めることになりました。今思えば、僕も大学生気分が抜けない子どもでしたね。組織で働く、チームの中で生きるというのを理解できていなかった。
――そういった苦い体験を個々の選手に当てはめるようにして……?
中溝 そうですね。30代や40代の社会人なら誰もが通ってきたような、身に覚えのある普遍的な要素を集めて書きました。もともと、20代の頃からプロ野球の選手と監督の関係性は一般社会の上司と部下の関係性とリンクする部分がある、と感じていたので。「なんでもっと自分を評価してくれないんだ」とか、「チャンスさえくれればオレだってもっとできるのに」とか、会社でもみんな一度くらいは思うじゃないですか。そんな時、「プロ野球選手はこんな風に現状を打破したよ」と、そこはしっかりと伝えたいと思いました。
鳥谷敬と長野久義の偉大さ
――本書で取り上げている選手や監督の中で、特に読者に読んでほしいパートはありますか?
中溝 個人的に好きなのが、2021年に引退した鳥谷敬さん(元阪神、ロッテ)ですね。阪神でレギュラーだった頃は、巨人ファンの私から見ても「安定したいい選手だけど、ちょっと覇気がないな」と思っていたんですよ。もう少し感情を表に出してチームを引っ張るべきだって。でも、引退前後に出した書籍などを読むと、阪神という異常なほどに注目度が集まるチームで生き残るために、そういうキャラを演じていたと。鳥谷さんの歴代2位の1939試合連続試合出場は、自分が中年になってさらに凄さを実感しますよ。どんな仕事でも、体調とモチベーションを維持してずっとステージに上がり続けるというのは難しいですから。
――「常に出続ける」ことの重みは、若手よりも30~40代のほうが、より感じるかもしれませんね。
中溝 鳥谷さんは、若いうちはチームより自分のためにプレーをしてスキルを磨き、力がついてきたところで初めてチーム全体を見るのがいいんじゃないか、ということも著書で書いていますが、マジで20代のうちに教えてもらいたいよなと(笑)。「自分のことだけ考えていればいい」と言ってくれる上司って、そうはいないじゃないですか。
――中溝さんが愛してやまない巨人の選手で、特に思い入れの深い人はいますか?
中溝 長野さん。長野久義選手ですね。ドラフト会議で別の球団からの指名を2度も拒否して巨人に入団し、チームの主力として貢献してきた選手です。それが、フリーエージェント宣言をした丸佳浩選手を獲得するにあたり、2019年に人的補償で広島に移籍することになります。いわば、会社都合で理不尽に飛ばされた。でも、恨み節をこぼすことなく、むしろ前向きなメッセージを発して新天地に向かいました。これは、なかなかできることじゃない。もし自分ならSNSで愚痴ってますよ(笑)。実際、何社か退職するときがありましたが、長野さんのように振る舞うことはできなかったんで。その経験を振り返ると「長野久義、偉大だな!」と思いますね。
坂本勇人が松井級のスターになれないシステム的理由
――中溝さんは一時期、野球から離れた時期もあったそうですね?
中溝 たぶん、誰にでも「人生で趣味どころじゃない時期」ってあると思うんですよね。個人的に就職して5年くらいはまったくプロ野球を楽しむ時間的な余裕がなかったし、サッカー関連の仕事をしていたこともあり、ドイツW杯後の2007年頃まで、大学生の頃から数えて、10年くらいは野球から離れていましたね。テレビで結果は追っても、球場に通うようなことはなかった。実感としては、その時代は世の中的にも野球のニュースがどんどん減っているなと感じていました。思い返すと、2001年にミスター(長嶋茂雄)巨人の監督を辞めて、2002年オフに松井秀喜さんがメジャーに移籍したタイミングで、巨人戦を見なくなった人がすごく増えたように思います。
――それから20年以上経った今、巨人のスター不在が嘆かれている現状をどうとらえていますか?
中溝 昔と大きく違うのは、ネットの野球サイトやテレビのスポーツニュースでまずトップで伝えられるのは、巨人戦の結果ではなく、大谷翔平選手(エンゼルス)などのメジャーリーガーの活躍ですよね。最近はヌートバー選手の打席結果まで報じられる。今はWBCで世の中に名前が出て、「世界と戦う」という鉄板ストーリーを入り口にそこから世間に浸透していくという流れですよね。昔のように、地上波中継の巨人戦をきっかけに、長嶋茂雄、王貞治、原辰徳、松井秀喜のような、いわゆる国民的なスーパースターが生まれることは、NPBを取り巻くシステム的にもう厳しいかなと。もし坂本勇人が、海の向こうのメジャーリーグにリアリティがあまりなかった30年前に登場していたら、おそらく松井秀喜級のジャンルそのものを代表するスターになっていたはずですよね。
例えば今季、令和の4番の岡本和真選手が三冠王を獲っても、大谷選手のように時代の象徴としてCMに出まくるような状況にはならないと思います。だから、いつまでもジャイアンツ・アズ・ナンバーワン時代の価値観で止まっているのではなく、僕も「あの頃のプロ野球は国民的娯楽だった。でも、今の巨人だって面白い」というスタンスで書くようにしています。どちらかを下げるのではなく、「過去と今」を両方リスペクトしたいなと。
今回のビジネス本でも触れましたが、野球選手も毎晩飲み歩いて派手に女の子と遊んでというのは、もう世間から許容されなくなってきているじゃないですか。だから、選手もファンも今のプロ野球に対する価値観をアップデートしましょうと。それは、野球を書く側も同じかなと思いますね。
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