お客さんが笑っているところを一度も見たことがない漫才コンビの凄すぎる情熱
#馬鹿よ貴方は 新道竜巳
地下ライブという場所を知っているだろうか。お客さんはゼロの時すらあり、個性がありすぎるがゆえに気持ち悪がられ、誰からもライブのお呼びがかからない芸人さんが山のようにいるのだが、その中から1組ご紹介したいと思う。
いい意味で理解できない漫才師が最近いる。それは「ミカミ」というコンビ。一見個人名っぽいがコンビ名だ。2021年結成、男性2人のコンビなのだが片方の人に家がなくいつもどこに泊まって暮らしているのかわからない。服は全部古着で100円で購入して捨てては購入し着るという洗濯機いらずの生活をしている。個人名は「魔人」と「ごきぶり」という癖の強すぎる名前で構成されている。家のない方は想像通り「ごきぶり」だ。
ネタはもう1人の「魔人」が書いているのだが、特にネタ合わせがあるわけでもなく、舞台に登場したらその場で思いの丈を話す。ごきぶりはそれにその場で突っ込む。そして出たとこ勝負なわりにはネタ時間が長尺で5分じゃ収まらないぐらいの尺で喋り続ける。漫才のスタイルは初期のTHE MANZAIのようでツービートや紳助竜介をも彷彿とするぐらいのビートで片方が喋り続ける。正直内容は分からない時の方が多い。ごきぶりの顔を鷲掴みにして喋り続けたり、立ち位置を急に変えて喋り続けたりと、動きも不振すぎる。
ただ初めてミカミを見た時に思ったのは面白かった。理解しない漫才を面白いと思っている自分を見つけた。そしてこのミカミはライブ数も半端じゃない。当然ライブシーンでも知られていないのでエントリーライブなどにお金を払って出演するばかりになる。出演するライブにお客さんはいつも3人ぐらいしかいない。でも自分らで出るしか方法がないからとにかくライブに出る。たまに大阪まで遠征してエントリーライブに出たりもする。お金はないが、バイトを頑張って貯めたお金をお笑いに使う。漫才にかける思いは関東でもトップランクに入ると思う。その部分も好きな部分なのかもしれない。
毎月一度はライブで顔を合わせる事があるのだがいつもそのライブにお客さんはほとんどいないので、ウケているかウケていないかが判断できない。でもなんか面白いと思ってしまう。一度自分が主催したライブに出演してもらったことがあった。そこにはお客さんが90人ぐらい来た。ここでミカミの漫才を見れる喜びで興味津々だった。ライブシーンで全く知られていない芸人がどういう空気になるのか。そのライブではそれなりに知られている芸人ばかりだったのでミカミが入る事により人選の違和感もあったかと思う。
そしてミカミがセンターマイクの前まで来た。漫才は……全くウケなかった。でも面白かった。これがのちにウケ始めるなんて虫のいい子と思ったりはしない。のちにこの漫才がお客さんに分かりやすいように変化する時期が来る。その時まで楽しみに待つのみだ。なんでウケもしない漫才にそんなに面白いと思うかと思っている人もいると思うが、面白いと思ったからしょうがないとしか言えない。そんなことはめったにないので注目している。
事務所に入る為のオーディションで酷評過ぎて泣いたこともあるミカミだが、僕はなぜか追ってしまう。僕は芸歴24年あり色々ネタを見ているなかで、なんか面白いと理由なしに思ってしまった。そんな中、最近タイタンの若手事務所ライブに何度か出演できた。そして今年から養成所に通い始めたと聞いた。はたしてタイタンでの評価はどうなるのだろうか。一度もお客さんが笑っているところを見たことがない気になる芸人の紹介だった。
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