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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 済東鉄腸が信じる“俺”の肯定
御本出してみて、どうですか? #1

ナルシシズムが他者の尊重につながる『千葉ルー』済東鉄腸が信じる“俺”の肯定

“今よりもマシな男性像”を模索する

ナルシシズムが他者の尊重につながる 『千葉ルー』済東鉄腸が信じる俺の肯定の画像5

――男性のナルシシズムが嫌われるのは、特に「女性にモテようとしている」といったような“モテ”への憧れや妬みといった複雑な距離感があるようにも感じます。

済東 今の男性学の本を読んでいると、「女性との関係性が核になり過ぎでは?」と疑問に感じることがあります。男性として生きるにあたって、女性との関係性以外にも向き合うべきことはたくさんあるじゃんって。俺自身が引きこもりだったので、女性との交流はルーマニアの女性と文学について語り合うくらいで、恋愛のこととかは考えなかったんですよ。だから、女性と見れば性愛みたいな感覚とはちょっと距離があるんです。

 俺は最近、“今よりもマシな男性像”についてよく考えます。今の男性学では「男性の加害性」といった言葉がよく使われていて、確かに女性差別やトランス差別を克服しようとする上でその考えはめっちゃ重要です。重要だけど、その言葉だけだと「じゃあ、男性は本質的に悪なのか?」といった自罰的思考に陥ってしまいかねない。

 そうじゃなくて、男性として生きるのも悪くない、そんな“今よりももうちょっとマシな男性像”を今後探求していきたいですね。だって、それは俺の生活に関わってきて、“脱・引きこもり”をする上で重要なことなので。

 周司あきらさんの『トランス男性による トランスジェンダー男性学』(大月書店)っていう名著があって、“加害者としての男性”でなくて、“楽しい生き方としての男性像”を模索していて、その問題意識にめちゃくちゃ共感したんですよ。LGBTQ当事者の置かれた状況や考えを知るためには自分の想像力だと絶対限界があって、本などでその考えをちゃんと読んでいく必要がある。俺はシスジェンダーでヘテロセクシャルのいわゆる“多数派男性”ですが、むしろその立場から“脱・引きこもり”をしつつ、これからの新しい男性像について考えていきたいと思っています。

――『千葉ルー』は、先の一人称の話やノンバイナリーについての言及もあるように、言葉や外国語を通じてさまざまな問題について考えていくのが非常に興味深い一冊でした。そんな済東さんが考える“新しい男性像”も楽しみにしています。ありがとうございました!

ナルシシズムが他者の尊重につながる 『千葉ルー』済東鉄腸が信じる俺の肯定の画像6

■プロフィール

済東鉄腸(さいとう・てっちょう)
1992年千葉県生まれ。大学時代から映画評論を書き続け、「キネマ旬報」などの映画雑誌に寄稿するライターとして活動。その後、ひきこもり生活のさなかに東欧映画にのめり込み、ルーマニアを中心とする東欧文化に傾倒。以降、ルーマニア語で小説執筆や詩作を積極的に行い、現地では一風変わった日本人作家として認められている。コロナ禍に腸の難病であるクローン病を発症し、その闘病期間中に、noteでエッセイや自作小説を精力的に更新。今はルクセンブルク語とマルタ語を勉強中。趣味は芸歴のまだ短い芸人のYoutube動画に激励メッセージを残すこと、食品や薬品の成分表を眺めること。注目している若手芸人はネオバランス、春とヒコーキ。最も気になる化学物質はアスパルテーム・L-フェニルアラニン化合物。
https://twitter.com/GregariousGoGo

■作品情報
『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』
著:済東鉄腸/刊行:左右社/1980 円(税込)
https://sayusha.com/books/-/isbn9784865283501

■サブクレジット
編集/斎藤岬
撮影/二瓶彩

須賀原みち(ライター)

フリーの編集・ライター。エンタメ系カルチャーを中心に、ビジネスその他、ジャンルを問わず執筆。また、ゲイ当事者であることから、LGBTQ関連記事の編集や執筆も行っている。

note

すがわらみち

最終更新:2023/07/09 20:00
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