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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 済東鉄腸が信じる“俺”の肯定
御本出してみて、どうですか? #1

ナルシシズムが他者の尊重につながる『千葉ルー』済東鉄腸が信じる“俺”の肯定

ルーマニア語を学ぶことでコミュニーケーションへの意識が変わった

ナルシシズムが他者の尊重につながる 『千葉ルー』済東鉄腸が信じる俺の肯定の画像3

――『千葉ルー』では、Facebook以外にもNetflixを使ってルーマニア語を学ぶなど、インターネットの“功”の部分が強く描かれています。一方、SNSでは絶えず揉め事が起きていたり分断が深まるような出来事があったりと、辟易としてしまうこともあると思います。

済東 SNSは本質的に“軽い”ですからね。その軽さがいろんなモノに触れられる窓になる面もあれば、簡単に感情を煽られて憎悪などの温床になってしまいもする。ただ、俺はSNSには窓としての役割があるし、そのことについてこれまでちゃんと語られてこなかったように思えるんです。だから、俺は今、読者の方々とTwitterで交流しながら(窓としての役割を)模索しています。

――その窓の開け方、つまりSNSとの付き合い方について、済東さんのオススメの方法はありますか?

済東 俺自身はルーマニア語という外国語から入ったので、やっぱりまずは何かひとつ外国語を使ってみるといいんじゃないかと思いますね。

 俺は昔めちゃくちゃコミュニケーションが苦手で、しゃべりすぎてしまうか完全に黙ってしまうかの0か100しかなかった。でも、ルーマニア語でメッセージを送ろうとすると「調子どう?」「今、布団の上でゴロゴロしてる」ってやり取りをするために、辞書を引いて10~20分も時間をかけないといけない。そうやって時間をかけていると「相手にこの言葉をかけたら、どういう反応をするんだろう?」とか、一般的なコミュニケーションの取り方についても自然と考えるようになりました。短文レベルから始まって、たまに長いルーマニア語の文を書いていく中で、コミュニケーション能力自体も底上げされるのがわかったんです。

 そこで初めて「俺、コミュニケーションめっちゃ好きだったんだな」って気づきました。そこからTwitterとかでもいろんな人としゃべるようになった。余裕を持てるようになったことで、コミュニケーションの負の側面だけじゃなく良い側面に気づいたんです。「30年近く生きてきてやっとかよ」って徒労感も少しだけありますが(苦笑)。

 そういう意味でも、外国語や外国の文化を学んでみる、そのためにSNSという窓を使うのは良いと思います。インターネットを使えば、物理的には無理でも精神的には一回“日本”から離れることができますから。

――外国語を学ぶことによって、SNSで起こりがちな反射的な“速い”反応ではなく、伝えたいことをゆっくりと丁寧に考えた末の“遅い”コミュニケーションができる。よく多文化コミュニケーションと言われますが、外国語を使うことでより言葉を練られるというのは興味深いお話です。ちなみに、それこそルーマニアでも反響はありましたか?

済東 ルーマニアの人たちとはFacebookでつながっているので「本が出る」と告知したら、みんな祝福してくれました。今でもルーマニアの全然知らない人からめっちゃ友達リクエストが来てます。『千葉ルー』は当然まだ日本語版しかないけど、日本に留学していたりパートナーが日本人だったり、日本とゆかりのあるルーマニアの方たちからも感想をいただきました。本にも登場する、英語とルーマニア語、日本語のトリリンガルである友人のオリヴィア・プトゥイェルに『千葉ルー』のPDFを送ったところ、一部をルーマニア語に翻訳してくれて、その結果、俺がルーマニア語の小説家になるきっかけとなったネットの文芸誌「LiterNautica」に掲載もしてもらえました。凱旋みたいな感じですね。

――あとがきでは、オリヴィアさんの次にご両親への言葉がありましたが、本書の刊行についてご家族はどのような反応を?

済東 両親からは何度か褒めてもらいました。父親には『千葉ルー』を読んだ後で「今までの10年、正直こいつ何してるんだって思ってたけど、この本を読んだらこの10年にも意味があったんだなと思えた」と言ってもらえて、感動しましたね。母親も、俺が出演したイベントの配信を見てくれたり、友達にも本を勧めてくれてるみたいで。それに対して、俺も素直に「ありがとうございます」って感謝を表現できるようになりました。『千葉ルー』を出したことで、ちょっとずつ客観的に家族のことを見られるようになった感じです。主観的な怒りや負の感情だけじゃなくて、親が自分に与えてくれた良い影響に気づいた。

 例えば、母親は本がめっちゃ好きで、家のデカい本棚には文庫のホラーやスリラー本がたくさんあったんです、新津きよみさんの本とか。それで俺も自然と本を読むようになって、読書経験がついた。「週刊女性」(主婦と生活社)や「女性自身」(光文社)、マンガ雑誌「BE・LOVE」(講談社)といった女性向けコンテンツも身近にあったので、フェミニズムを学ぶにあたって全然抵抗感なく勉強できました。書き手という意味では、母親からは本当に良い影響を受けたと思います。

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