福島第一原発処理水の海洋放出、日本の「安全に問題ない」に韓国ら周辺国が反発
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東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)の処理水がことし夏にも海洋放出されるのを前に、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長が4日から7日の日程で訪日する。岸田文雄首相と会い、福島第一原発内の施設を訪れ、放出される処理水の安全性について“お墨付き”を与えてくれる段取りとなっている。
日本政府は廃棄された福島第一原発からの100万トン以上の処理水を30~40年かけて、太平洋に放出する計画を進める。周辺の国々には、高度液体処理システム(ALPS)を通し、放射性物質を安全基準に達するまで浄化した水なので「安全に問題ない」と主張する。
これに対し、日本と太平洋を共有する韓国、太平洋島嶼部の国々は処理水の海への放出に強く反発する。
支持を撤回したパプアニューギニアのマラぺ首相
パプアニューギニア(PNG)のジェームズ・マラぺ首相は当初、日本の処理水への安全性確保の取り組みを評価し、太平洋への放出にも理解を示す発言をしていたが、6月13日の国会で野党のベルデン・ナマ議員から追及されると、「私の発言は、日本が安全でない処理水を放出する資格を与えるものではない」と述べ、日本の処理水対応に関する自身の発言を撤回した。
マラぺ首相はPNGも署名し1986年に発効した、地域の核不拡散協定である「南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)」に対する政府の見解にも触れ、今後も尊重するとした。
同条約は南太平洋域内の国々が参加し、広島の原爆投下からちょうど40年となる1985年8月6日に署名された。背景にフランスが南太平洋における核実験を再開したことと、日本が南太平洋で放射性廃棄物を処分していたことがある。
南太平洋地域では、米国も繰り返し核実験を行っており、戦略国際問題研究所(CSIS)運営のポッドキャスト「サウス・イースト・ラジオ」の6月22日配信の番組によると、米国はマーシャル諸島だけで1946年から58年の間に67回の核実験を行ったという。
静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」が1954年3月、ビキニ環礁で水爆実験による放射性物質を含む死の灰を浴びたのもマーシャル諸島内での出来事だった。
歴史的背景もあり、PNGを含む、南太平洋の国々には核に対する強い嫌悪感があり、「南太平洋の水域での核実験は絶対に許されない。処理水の太平洋への放出も日本が安全だと言ってもなかなか受け入れられるものでない」とNGO関係者は話す。
南太平洋諸国と初のサミットを開いた韓国の意図
南太平洋諸国と並び、お隣の韓国にも処理水の太平洋への放出に対して国民からの激しい反発を招くなど動揺をもたらしている。6月29日配信のロイターの記事によると、福島第一原発の処理水が近く海に放出されるとの見方から、韓国では海塩などの商品の買いだめの動きが強まっているという。
6月の塩の価格は2カ月前と比べ約27%も上昇した。こうした動きを受け、韓国政府は同月28日、政府が7月11日まで1日約50トンを市場価格より20%安く売却すると発表した。
また、韓国は外交面でも日本が進めようとする処理水の太平洋放出に揺さぶりをかける。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は5月29日、ソウルで韓国と太平洋諸国との初めてとなる首脳会議を開催した。会議には太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟の16カ国、2地域の首脳が招待された。PIFにはオーストラリア、ニュージーランド、PNGを含む太平洋島嶼国、フランス領のポリネシアとニューカレドニアが加盟する。
同会議では韓国と太平洋諸国の首脳たちによる共同声明が発表された。放射性廃棄物などに関する項目を設け、「(各国の)首脳は、放射性廃棄物及びその他の放射性物質による環境汚染のない海洋及び海洋資源を維持することの重要性について、共通の見解を再確認した」とする一文を盛り込み、処理水の太平洋への放出ありきで計画を進める日本側の対応を牽制した。文章は「この観点から、首脳たちは、海洋及び海洋資源を保護し保全するために、国際協議、国際法、独立した検証可能な科学的評価を確保することの重要性を強調した」と続き、名指しこそ避けているものの、日本に対し、太平洋に放出する処理水の安全性の徹底を強く求めた。
IAEAのグロッシ事務局長は日本のほかに、韓国、PIF議長国であるクック諸島、ニュージーランドの3カ国も訪れる予定という。韓国、太平洋島嶼部の国々も福島第一原発事故がもたらした惨状には同情を示しつつも、処理水の自分たちの海である太平洋への放出となると、「Not in my backyard(我が家の裏庭には御免)」とNIMBYにならざるを得ないのだろう。
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