『君たちはどう生きるか』宣伝一切なし戦略で公開初日におこりそうなこと
#宮崎駿 #ジブリ #しばりやトーマス #世界は映画を見ていれば大体わかる
まもなくスタジオジブリ最新作にして宮崎駿監督の引退作と言われている『君たちはどう生きるか』が公開される。本作は「かつてない作品」として業界内外の注目を集めている。それは一切、宣伝を行わないと断言しているから。
それどころか予告編も作らず、公式サイトもない。内容すら秘匿されており、同名の小説のタイトルを借りた(内容はまったく関係ないらしい)ということ以外、何もわからない。
わかっているのは「宮崎駿監督作品 君たちはどう生きるか」と書かれたポスタービジュアル一枚だけ。声の出演者すら明かされず映画館にいってもチラシはなく、デジタルサイネージにこのポスタービジュアルが写ってるだけ。これで公開は数年後、などではない。公開日は7月14日だ。
前代未聞の状態で公開される『君たちはどう生きるか』、どう生きるかの前にどう公開されるかって話ですよ。
この「一切宣伝しない」スタイル、果たして成功するのだろうか?
こう聞くと「巨匠・宮崎駿の新作なんだから、黙ってても客は来るでしょ?」という人がいると思いますが、そりゃあ宮崎駿ファン、ジブリファンは来ますよ。しかしファンの人だけが見に来てもヒットしません。大ヒットするためにはファンでない人たちが劇場へ足を向かわせないといけない。
映画のみならず、商品が大ヒットするためには宣伝・告知が欠かせない。黙ってても買うファンなら自分たちから情報にアクセスしますが、そうでない人はいちいち公式サイトを観に行ったりしない。発売日だって知ろうとはしない。そう人たちのために告知して、はじめて興味を持ってもらえるのです。
いいものを作れば勝手にヒットすると思われがちな映画ですが、宣伝されなければ映画はヒットしません。それこそ、今では日本人はもちろん、海外にもその名をとどろかせているスタジオジブリですが、昔は熱心なアニメファンぐらいしか見ておらず、国民的大ヒットになったきっかけは『魔女の宅急便』からです。
『魔女宅』は「宅急便」というタイトルがヤマト運輸の登録商標であったため、トラブルを避けるためにスポンサーになってもらい、全国のヤマト運輸の事業所、宅急便取り扱いセンターにポスターが貼られ、日本テレビからの出資を取り付け、日本テレビ系各局の情報番組で『魔女宅』を取り上げてもらえることになり、この二社による強力なバックアップがあったことで『魔女宅』は当時のジブリ作品最大のヒットを記録。『魔女宅』の成功によってジブリ、宮崎駿の知名度は一躍日本中に広まったのだ。
『魔女宅』が傑作なのはいうまでもないが、大ヒットしたのはやはり大規模な宣伝があったからだ。ほかにも洋画『アルマゲドン』は本国では派手な特殊効果の映像をセールスポイントにしたスペクタクル・アクション超大作として宣伝されていたが、日本の配給サイドが、試写を見せたマスコミの反応から「アクションあり、その上泣ける、家族愛の映画」という部分を宣伝に打ち出し、14週連続ランキング1位という不動の記録を打ち立てた。ヒットの影には宣伝あり、だ。
そう考えると今回のジブリの「宣伝しない」戦略がどれだけ異常なのかがわかると思う。大宣伝でジブリを日本一の製作スタジオにしてきた鈴木敏夫プロデューサーはいかなる戦略で「宣伝しない」方針を決定したのか?
鈴木プロデューサーは『魔女宅』のような大宣伝は現代には向いてないと言わんばかりに、内容を明かしすぎる予告編はお客さんから映画の面白さを奪っていると語っていた。逆に宣伝しないことがお客さんのサービスになる、と。
あと考えられるとすれば、宣伝しない、といったところで周囲が勝手に宣伝してくれることを期待したのではないか。
例えばジブリの強力なパートナーシップ関係にある日本テレビの各番組で映画の話題が取り上げられるだろう。例えば、こんな風に……。
司会者「まもなく宮崎駿監督最新作、『君たちはどう生きるか』が公開されますが、この映画、‟かつてない”ことで話題なんですよ……それは、‟一切宣伝をしない”ということなんです!」
タレントA「宣伝しないってどういうこと?」
司会者「この映画、予告編もなければチラシもなく、ポスターが一枚あるだけなんです!宮崎駿監督と作画監督おひとりの名前があるだけで、吹き替えを誰が担当しているのか、それどころか内容も一切不明なんです」
タレントB「ありえないでしょ?」
司会者「ジブリの鈴木プロデューサーは‟思い切って大宣伝をやめてみる”という方針を明らかにしていまして、この映画公開日まで何もわからないんですよ。どう思います?」
ご意見番C「強気だねえ。でも宮崎監督の新作でしょ? みんな黙ってても観に行くんじゃない?」
タレントD「口コミでヒットしそうですよね」
司会者「前代未聞の宣伝しない映画『君たちはどう生きるか』は7月14日から全国で公開されます。みなさんはこの映画をどう見ますか?」
……みたいなやり取りがなされそうだなあ。
もちろん毎年夏にジブリ作品を連続放映する日本テレビ系『金曜ロードショー』(もちろん今年も、三週連続ジブリ祭りです)では合間のCMに
「スタジオジブリ最新作、『君たちはどう生きるか』7月14日より全国公開!」
って連呼されるだろうし、こりゃあ逆の意味で宣伝されてることになってるのと同じ! しかも宣伝費がかからない!
宣伝というものは見ただけでは伝わらない商品の良さをイメージだけで伝える手段だ。鈴木プロデューサーからすると「この映画は劇場に来るまでわからない、それが今回伝えたいイメージだ」と言いたいのかも?
今回の「宣伝しない」戦略こそ、観客の良心が問われているのかも。
「劇場に足を運ぶまでわからない」ということは公開初日、いち早く劇場に駆け付けた人々がSNSに「映画観たぞ!」と感想を書き込むだろう。絶賛する声、否定的な声、様々な声が普通の作品以上に入り乱れるのは予測できる。
特に昨今では公開直後の時点で、否定的な意見が書き込まれると「つまらないのか、じゃあ観に行くのをやめよう」となって、映画そのものは観ていないのに「〇〇ってすげえつまんねえらしいぞ。ネットでみんな言ってるよ」と批判の声に影響された者が連鎖的に批判の声を挙げはじめ、結局客は全く入らない……というケースがよくある。逆に絶賛の声が多いと「この映画面白いらしいぜ」「じゃあ観に行くか」と影響されて劇場に行く、という場合もある。
今回の『君たちはどう生きるか』では、今まで以上にネット上の感想合戦が繰り広げられる可能性が高い。そんなことしている前にまず、自分の目で見て欲しいと思う。
情報過多の時代に必要なのは、他人の意見に踊らされることではなく、まず自分の目で確かめること。自分の目で見て、判断する……それこそが鈴木プロデューサー、宮崎駿監督の伝えたいことなのでは?
そのためには予告編、スタッフ、内容……それらはすべて不要だと。
『君たちはどう生きるか』は何もわからない、完全に真っ白の状態で作品そのものに触れることができる、二度とない体験になることは間違いない。
この映画を君たちはどう見るか?
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