サザン「TSUNAMI」ストリーミング再生1億回突破は、サブスク後進国を変えるか?
#サザンオールスターズ
サザンオールスターズの大ヒット曲「TSUNAMI」が、Billboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数1億回を突破した。
同楽曲は2000年にリリースされたサザンの44枚目シングル。オリコンチャートで週間、年間ともに1位を記録。これまでわが国でリリースされてきたシングル曲の中でもフィジカル(CD、レコードなどの物理媒体)での売り上げで歴代4位の記録を誇る、サザンの代表曲の1つだ。
2011年3月11日に東日本大震災が発生した際には被災者や世間の感情に配慮して、ひと頃はこの曲を流すのを自粛する動きもあった。サザンの楽曲がストリーミング1億回を超えるのは、この「TSUNAMI」が初となる。
「サザンがストリーミング・サービスでの音楽配信、いわゆるサブスクを解禁したのは19年12月20日のこと。かつて、桑田佳祐がソロ楽曲で『“サブスクリプション”まるで分かんねえ』と歌ったこともあっただけに、サザンのサブスク解禁は当時、意外性をもって受け止められました。“大きな山”が動いたという感じでしたね。その後、中島みゆきや米津玄師など、大物や売れっ子が続々と解禁しましたから」(音楽誌編集者)
とはいえ、日本は世界的にみると依然として“サブスク後進国”だ。
22年の音楽売り上げを見てもアメリカがストリーミングが8割強、CDなどの音楽ソフトが1割(全米レコード協会調べ)であるのに対し、わが国ではストリーミングが3割強、音楽ソフトが7割近く(日本レコード協会調べ)といった具合。
「アメリカだけでなく、ストリーミングが音楽市場の多くを占めるイギリスやヨーロッパでは音楽産業が年々成長を続けていますが、CDがいまだ中心の日本は2021年まで衰退傾向にありました。日本でもストリーミングは拡大傾向でようやく全体の3割にまで達しましたが、日本でストリーミングの普及が遅れている理由は、ジャニーズやアイドルグループの特典付きCDが売れまくっているからです。加えて、サブスクを解禁しないアーティストもまだ相当数存在することもあります」(レーベル関係者)
サブスク未解禁のアーティストとしてはザ・クロマニヨンズ、BLANKEY JET CITY、CHAGE & ASKAなどの大物ミュージシャンが挙げられるが、何といっても最右翼は山下達郎だろう。インタビューでも「(サブスクは)恐らく死ぬまでやらない」と断言しているほど。多くのサブスクでは、通信量が膨大になることを防ぐため、基本的にデータを圧縮して配信するのだが、そうなるとCDに比べ音質が劣化してしまう。音質には強いこだわりを持つことで知られるヤマタツだけに、サブスクは許せないのだろうか。
「そんな風に思われがちですが、サブスクの仕組み自体は便利なものとして認めているようです。彼が問題視するのは、サブスクの収益構造。インタビューでは『だって、表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、その儲けを取ってるんだもの』と、サブスクのサービスを提供するプラットホーム企業を批判しています」(同)
サブスクでアーティストに入る分配金は、1再生当たり0.2~1円程度とされる。実際には、特定の月における再生回数をもとにレートが算出され、サービス全体の収入(全ユーザーの利用料金と広告収入)からそのレートに応じて支払われる形だ。。さらに、ただでさえ安すぎる再生単価から、プラットホーム企業は3割程度を手数料として持っていってしまう。
「この方式だと、人気アーティストほど再生回数に対する単価が高くなり得をしますが、一方でそれほど人気がないアーティストは単価も売り上げも低くなり、損をしてしまうんです。こうしたアーティストへの実入りの少なさはすでにイギリスでは問題になっていて、人気ロックバンド、レディオヘッドのトム・ヨークは13年に『君らがSpotifyで発見した新人アーティストにはカネが支払われていない』とツイートして、自身のソロ音源の配信を停止したことがあります。日本でも2022年、シンガーソングライターの川本真琴が『サブスクというシステムを考えた人は地獄に堕ちてほしい』とツイートして、話題になりました(現在は削除済み)」(同)
とはいえ、デジタル化が進む世の中で、音楽聴き放題サービスが廃れることは当面あり得ないだろう。かといって、プラットホーム企業がアーティストのために、自らの取り分を減らすことも考えづらい。現状、有効な改善策はユーザーと再生回を増やすことぐらいか。
サブスクが欧米並みに浸透すれば母数が増えて、再生単価の安さの問題が多少なりとも解消できるかもしれない。
そう考えると、「TSUNAMI」の“ストリーミング再生1億回”はサブスクの普及にとっては朗報と言えるかもしれない。
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