『クリスタル・スカル』「核の冷蔵庫」だけじゃないトンデモ、デタラメだらけ
#金曜ロードショー #しばりやトーマス #金ロー
今日は6月30日。シリーズ最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』公開日。それを記念して前作『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』を日本テレビ系『金曜ロードショー』で初放送。
しかも、主役インディの吹き替えをシリーズ3作目まで担当していた、村井圀夫さんが復活。新録音による新規吹き替え版でお楽しみください。この吹き替え版、永久保存だ!
舞台は1957年のアメリカ(映画は前作から19年ぶりに作られたが、物語内の時間も『最後の聖戦』の1938年から19年後の設定。芸が細かい!)。ネバダ州の米空軍施設「エリア51」にやってきたのは、米陸軍に偽装したソ連軍兵士たち。見張りを射殺し施設に侵入した兵士たちは、強制的に連れてきた考古学者インディ(ハリソン・フォード)と彼の相棒、元MI6のマック(レイ・ウィンストン)を引きずり出し、米軍の機密保管庫へ。
ソ連軍兵士を指揮するKGBのイリーナ・スパルコ(ケイト・ブランシェット)の目的は1947年のロズウェル事件(墜落したUFOを米軍が回収したと言われるUFOマニアおなじみの事件)で米軍が手に入れたとされる「秘密の箱」だ。
インディは「回収されたものは強い磁気を発していた」という推察から、木箱を発見。中には正体不明のミイラが収められていた。
相棒だと信じていたマックの裏切りに遭い絶体絶命の危機に立たされるインディだが、機転を利かせ脱出。這う這うの体で辿り着いた街で助けを求めるが、そこは米軍が核爆弾の実験場にしていた無人の町。おりしも核実験のカウントダウンを知らせるアナウンスが聞こえてくる。一難去ってまた一難!
核の炎からも逃げ切った(バカな……)インディだが、KGBとつながっていたマックとの関係からFBIの審問を受け共産主義者呼ばわりされた挙句、勤め先の大学も首になってしまう。
自由の国アメリカに吹き荒れる赤狩りの実態を目の当たりにしたインディは海外へ行こうとするが、そんな彼の前にバイクにまたがった謎の青年、マット(シャイア・ラブーフ)が現れる。
マットの父親代わりでインディの同期だったオックスリー教授(ジョン・ハート)が南米ペルーの秘宝、クリスタル・スカルを手に入れ、これをもってアケトー(エルドラド)に行くと行ったまま姿を消し、心配になったマットの母親が捜しに向かうもクリスタル・スカルを狙う何者かに捕まってしまったという。オックスリーが隠したクリスタル・スカルの在り処を示す暗号は、インディなら解けると手紙をよこしてきたのだ。インディはマットの母親の名前にはまるで覚えがない。
手紙の一部を解読したインディは、クリスタル・スカルが地上絵で有名なナスカにあると知り、冒険の旅に出る。
1989年の『最後の聖戦』で三部作完結という幕引きをしたインディ・ジョーンズシリーズだが、2000年になりジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、ハリソン・フォード、そして製作のフランク・マーシャル、その妻キャスリーン・ケネディという関係者が一堂に会し、続編の可能性について話し合ったことがきっかけで企画にGOサインが出る。
その時点では02年の公開を目指していた。最初に雇われた脚本家はなんとM・ナイト・シャマラン! 当時のシャマランは『シックス・センス』『アンブレイカブル』を大ヒットさせて、業界に旋風を巻き起こしていた。
スピルバーグにあこがれ映画の道に入ったシャマランなので、尊敬する人物からのご指名に心臓が飛び上がるほどだったが、それがプレッシャーになり、まともに書けず結局降板。次いで『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』のフランク・ダラボンが起用されるが、脚本の内容をルーカスが気に入らず、やはり降板。
そうこうしているうちに02年はすぎ、紆余曲折を経て05年にようやく脚本が形になった。
インディシリーズはお約束のように、前作から引き続き登場するキャラクターがいるもの。今作では『最後の聖戦』のメインキャラクターだった、インディの父親ヘンリー・ジョーンズ・シニアが再登場する予定で脚本も描かれていたが、その時半ば引退状態にあったショーン・コネリーはシニアの役が物語上、然程重要でないこともあって出演を辞退した。
インディの友人マーカス役のデンホルム・エリオットも死去していたため、この二人は劇中すでに亡くなったとして遺影だけの登場に。
そうしてキャスティングにも苦しむ中、ド迫力の存在感を見せつけたのがKGBの超能力エージェント(!)を演じたケイト・ブランシェットだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』で長寿のエルフを演じたブランシェットは、本当に「人間ではない」存在にしか見えなかった。そんな彼女が黒髪ボブカットのウィッグを被って「私は超能力で人の心が読める!」と断言し、むくつけき男たちを従えてインディたちを突け狙う。剣の達人なので劇中、フェンシングも披露する。
そんなに動けるんなら、とスピルバーグが現場で「実は空手の達人」という設定を付け加えるとそれもこなし、「あと、変装の名人でもあるんだ」と言われると撮影中、自分の出番でないときにウィッグを外して別人になり切り、フォードを本気で驚かせた。が、この追加設定は映画の中でほとんどカットされてた。何やってんのスピルバーグ!
「敵はKGB」という設定は、劇中の時代設定である50年代を強く意識している。当時は東西冷戦の真っただ中。「敵は共産主義者だ」というマッカーシズムの影響で共産主義的な発言をするもの、またはリベラル寄りである、というだけで激しい弾圧を受けたり、職を失う者が生まれた(映画の中のインディと彼を守ろうとする学長のように)。
インディシリーズの敵といえばナチスがお約束だったが、50年代にナチスもないだろう、という判断をしたのはわかる。しかし、彼らがやってることはこれまでのナチスと何も変わらないので、じゃあ「敵はナチス」でもよかったんじゃない?わざわざ社会風刺を盛り込んでKGBを引っ張り出した理由がよくわからない。
そのうえ超能力、さらに「古代文明は宇宙人がもたらした」みたいな話になるのだ。これは前作までの考古学者が古代文明の秘宝の謎を解き明かす、という物語から逸脱しすぎでは? そりゃあルーカスとスピルバーグは、宇宙人がお好きかもしれないけど。
そう、今回の『クリスタル・スカルの王国』は前作までの痛快な冒険活劇という要素をすべて吹き飛ばしてトンデモオカルト映画になっているのだ!
吹き飛ばすといえば、冒頭にインディが核実験施設で核爆発に巻き込まれるというアレだ。インディは部屋にあった冷蔵庫の中に隠れて、核爆発の被害を免れる、という場面はトンデモすぎる。
あんな勢いで吹っ飛んでたら、冷蔵庫の中でインディはぐちゃぐちゃになってるよ……。しかも爆発の直後、インディはすぐ外に出てキノコ雲を見上げてる……被爆しちゃうよ! その後、シャワーで体を洗い流して、もう大丈夫だ! って全然大丈夫じゃないよ!
日本人なら小学生で核の恐怖について学ぶから、被爆について最低限の知識は誰でも持っている。この映画は小学生レベルの知識すらない!
アメリカ映画にはこういう核に対する無知蒙昧さが定番になっていて、この映画に先立つ数年前には『トータル・フィアーズ』(02)という映画でテロリストがスタジアムを核で吹き飛ばしていたが、爆発直後に主人公が普通に歩きまわり、「風向きが逆だから大丈夫」と言って爆心地に向かって足を進めていた。いいかげんにしろ!
この冷蔵庫のシーンは語り草で「シリーズがピークをすぎてつまらなくなった」ことを意味する。「nuked the fridge」(核の冷蔵庫)という言葉まで生み出した。冒頭がこれなので、映画はこれ以降、トンデモ、デタラメのオンパレードと化す。
インディたちがナスカに向かう時に、地上絵が三つ、近い位置にまとめて表示されるがこの三つの地上絵はもっと離れている。
エリア51のロケットエンジンカウントダウンタイマーは電子デジタル数字が表示されているが、1957年ならニキシー管表示か光点式表示器では?
こういった映画の科学的な誤りや時代考証のミス、編集上のミス(前のシーンで壊れていた物品が次のシーンでは元通りになっている、など)を追求するムービー・ミステイクス・ドットコムというサイトがあるのだが、この『クリスタル・スカルの王国』は全部で157の間違いがある。
多い! って? でも同サイトによると『魔宮の伝説』の間違いは220、『最後の聖戦』の間違いは269だからまだマシですよ。
サブタイトルにもなっているクリスタル・スカルはエイリアンみたいに頭部が後ろに伸びている骸骨の頭だけど、クリスタル製であの大きさなら相当重い。映画では女性でも片手で持ち歩き、後半にはクリスタル・スカルを奪い合ってラグビーのボールみたいに投げていた。でも片手で投げるようなもんじゃないよ!
クリスタル・スカルは中身が空っぽのしゃれこうべ。つまり、この映画のことだ。中身のない空っぽ。サブタイトルでこの映画は空っぽです、だから中身なんか期待しないでください!というルーカスとスピルバーグからのメッセージだったのかも。
『クリスタル・スカルの王国』はシリーズ最大のヒットを記録したが、評価は最低、ラジー賞の「最低リメイク、続編賞」を受賞した。
おかげで続編は10年以上にわたって封印されてしまった。最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の敵はまたナチスらしい。最初っからそうしておけばよかったのに……。
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